知ってたけどやっぱりなしの方向でお願いします

 少しずつ雪が借金鳥の毛をはがし落とす。

 そうすればどんどんその全貌が見れた。

 鳥肌はニワトリとかと同じくやせっぽっちに見せるけど残念な事に真っ黒の鎌だけは今も生々しく鈍く光っている。

 そして頭部も光っている。

 そこの攻撃はぶれないんだなと笑いたくなったけど今はそこに注目はせずに工藤と共にこのチャンスの合間に水分補給。


「相沢、私も参戦しようか?バッドステータス付けれたらきっともっとらくになるよ?」

 なんて軽く軽食を食べ源泉水を飲みながら腹の中に押し込めれば

「たぶん特殊なNPCだから無理だと思う。

 それよりもあいつきっとレベル40ぐらいだから。

 みんな自分の安全を優先しよう」

 工藤を視界の中に入れないようにして言う。

「俺達は20階までの情報を持って帰る事が優先。

 そしてあわよくば工藤に女性たちへお金をしっかり稼がせれれば問題ない!」

 言えば全員その通りと借金奴隷となり下がった工藤への安全面は工藤を鍛える事で解決すればいいと思う。

「借金鳥を倒したとしても新たな借金鳥が出現するだけだから工藤には逃げ足を鍛えればいいだけだ!どうせそういうのは得意だろうから心配する必要はない」

 確信を込めて言えば

「逃走ですか。工藤らしい得意技ですね」

 なんて林さんが言うも工藤は休憩は終わりという様に立ち上がり

「悪いな。俺は逃げるのは嫌いなんで」

 予想外な事を言いながら真っ黒の剣をもって

「猫!交代だ!」 

 叫びながら殺しに来た借金鳥に襲い掛かる。

「探索が終わったらぼちぼち帰るぞ!」

 なんて

「なんでお前に指図されないといけないのかな?」

 せっかく20階を攻略したのに工藤が19階に出てきてしまったおかげで扉は閉まり探索が出来なくなってしまった。

 せっかくここまで来てこれだけの成果だなんて、と思うも相手はマゾを倒した時みたいな厄介な相手ではない。

「沢田」

「真面目な顔で呼ぶのはやめて」

 何を言う前から断られてしまった。むしろ拒絶のレベル。

 勘が良すぎて俺泣いちゃうぞと思うもそこは無視して

「とにかく女王様にしておくから下僕の皆さんを頼む」

「だからやめて!」

 なんて言葉も無視して沢田の称号を変更すれば

「いやー!!!」

 なんて悲鳴を叫ぶも俺は林さんを見れば林さんもひくりと顔を引きつらせる。

「ステータス値が下がるけどみんなを安全に連れ帰ってください」

「お、俺に何をやらせるつもりで……」

 なんて林さんのステータスを勝手に呼び出して称号を変更。

 変えたのは

「軍師、ですか?」

 そんなものがあったのですねと林さん自身も驚くその様子は俺が林さんに気付かれないように軍師が発生しただろう直後にサクッとすぐさま変更しておいたから。

 どうかんがえてもヤバミな称号。

 発生したのは前に工藤を捕まえた時。

 工藤が仲間を見捨てる事、そして逃げ込む先はダンジョンだという事、そして11階以降の潜伏で工藤の勝利条件を目の前で潰す提案をした時に発生したもの。

 たったこれだけで軍のトップになれるような称号を会得するのはできないだろうから普段の訓練からいろいろ指示を出していたのだろう。

 千賀さんを鍛える為の訓練方法から魔物を効率よく倒すための作戦、地形を利用した戦闘訓練もしていたこともあったのでそれを総合してくだった称号はきっと多少のトラブルが起きてもみんなを無事帰すことが出来ると信じている。

「もう一度雪と20階行きます。21階の情報を持って帰るので先に借金鳥を邪魔しながら帰路についてください」

「それは良いのだが……」

 ちらりと見た先は岳だった。

 その目は一緒に行きたいという瞳。

 だけど

「岳、せめてレベル40超えてから行かないか?」

 なんて心配から言ってしまうも

「おれ工藤より強いから!」

 せっかくここまで来たのだから見たいという所だろう。

「だけどなー、うーん……」

 なんて悩むも


「相沢が守ればいいだけでしょ?雪もいるんだしうだうだしてるくらいなら行きなさい」


 なんて女王様の命令が下った。

「は?沢田君?」

 なんていつもと違う様子に千賀さんがあ然とする。

「ああ、そういえば女王様の沢田君でしたね」

 何かを思い出したように林さんは思い出したくないという様に頭を横に振る。

「沢田君がこの称号嫌がるのも無理はない。性格まで女王様になるのだから」

「そ、そうか……」

 なんて千賀さんは深く考えるのはやめて

「まあ、工藤の事は放っておいて行ってきなさい」

「千賀さんありがとう!」

 まさかの許可に

「にゃっ!」

 なんて尻尾フリフリ雪もご機嫌だ。

「にゃー!にゃ、にゃ、にゃーん!」

 何か訴えてきてるけど俺に猫語は分からない。まあ、下僕の面倒ぐらい任せろと言ってる事は分かるがとりあえず俺は工藤がちゃんと回収してくれた機材を収納して

「二回目行ってきます!」

「俺もあの黒い剣もらってきます!」

「なるほど、それが本命か」

「えー?だってちょーかっこいいじゃん。普通に欲しくね?」

 言われれば納得。20階まで来てしまった以上そろそろ武器も一新するべきなのは当然だ。

「じゃあ岳のレベルアップも兼ねて狩りまくろうか」

「なーん」

 なんて言えば雪までご機嫌な返事。

 工藤の事は今まで無事だったことも含めて千賀さん達が何とかしてくれるだろうし、ハードモードで林さんが生かして帰還させてくれるだろうと信じておく。

 とりあえず2リットルポットボトルを一人二本持たせて

「では地上で会いましょう!」

 なんて軽い気持ちで突入するのだった。

 そして人型の魔物と対峙する問題に突き当たる。

 

「天使様を倒すのは問題ない。蝙蝠様を倒すのも問題ない」

「まあ、羽を切り落として地上に引きずり落とすと足腰が軟弱で動きが悪いって言うの、ほんと残念だよな。飛空能力に頼りすぎて退化した末路、情けない」

 大空の下での戦闘ではない高さ制限のある場所だからの余裕。羽を落とせば案外余裕な相手だという事を理解した岳はただ今二回目の対峙に突入している。

 因みに岳ってば持ち込んだ石ころを山のように部屋の片隅に置いたかと思えば突然天使様に向かって投げだす非道ぶり。

「俺もシュートとか覚えたいし!」

「まあ、いいけどね」

 もう戦いじゃないじゃんと言う光景は考えたら今までもこんなノリだったから心を強く持って気にしない事にする。そして

「相沢、体もあったまったから例の物を出してくれ」

「いいけど……」

 なんて俺は収納から取り出した箱を岳の横に出す。

 そう。箱の中に入っているのは真っ白の野球のボール。

 俺は雪を連れて19階の入り口に向かう階段にちょこんと座る。

 そうすれば

「目指せ100本ノック!」

 なんてわけのわからない事を叫びながら真っ白のボールが入った箱に一緒に入っていたバットを構えて天使様に向かって打ち出すとか意味不明。

 いくら麓の街にバッティングセンターすらない地域だとは言え、この部屋ならボールがどこにも飛んでいかないとはいえ……

 必死に逃げ回る天使様を的にするさまは

「これ、絶対やっちゃダメな奴……」

 相手が魔物だからいい、そんな考えもヒト型だと罪悪感しか生まれなくぼこぼこになっていく様に見てられなくなって

「雪、終了頼む」

 まさかの岳のサイコパス加減に俺は雪に何とかしてくれとお願いするしかできなかった……




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