なんかしばらく帰れなさそうな気配が漂ってきました
余計なことを言わなかったおかげだからだろうか。
結城さんは淡々と事務的に会話を進める。
「とりあえず君たちの拠点となる場所を確保した。
大学の寮の一室はたぶん嫌だろうから近くのホテルを抑えておいた」
なかなかの好待遇に岳と沢田は喜ぶもここに大きな問題点。
「ペット可ですか?」
「雪を連れてくるとは思わなかったからな」
「じゃあ適当なところ取りますんで請求回していいですか?」
飼い主としての最低限の義務だなんてスマホで探せば
「安心しろ。そこは千賀から連絡をもらった時点で部屋を借りた。
そこならペット可だ。まだ準備は整ってないがな」
「って言うか俺たちどれだけ滞在しなくちゃいけないんだよ……」
一泊二日、もしくは二泊三日のノリできたのにと言えば
「相沢にはいろいろ依頼したいことがある。もちろん沢田や岳にも手伝ってもらえれば幸いだ」
「うちのダンジョンだって攻略できてないのによそ様を先に攻略しろというのなら却下ですよ」
うんうんと俺の背後で頷く沢田と岳。もっと応援よろしく!
「いや、そうではない。 緊急事態が別件で起きたからそれについても君達に意見を伺いたい。
もちろん君に頼まれていた例の件もある。一週間ほど最低見積もっていてくれ」
なんて言われたところでそれを先に言えよと突っ込みたかったけど言ったら断ると分かってる内容なのがこの時点ですでに理解できて胃を抑えたくなる。変なことに巻き込まないでくれと泣きたくもなるが
「だったら私もアパートの方がいいです!ホテルのご飯美味しいけどやっぱり自分でご飯作りたいし、頻繁に掃除とか人が出入りするのはちょっと……
相沢の部屋で良いから転がらせて!」
「えー?じゃあ俺も一緒にする!絶対そっちのほうが楽しいし!」
そんな感じで決まれば眉間をひそめる顔は男女一緒に同じ部屋で寝泊まりするのかという顔。案外厳しいお父さんですねと思うもそこは気づかないふりをする。
「とりあえずそこ見せてもらってもいいですか?」
言えば
「水井、案内だ」
数日ぶりに見た水井さんがどこからか現れた。
いや、結城さんの背後に並ぶ人たちの中に紛れてわからなかったというか、なんかごめん。そんな悲しそうな顔しないでと思えばすぐにお仕事用の顔に切り替えて
「はっ、じゃあ行きましょうか雪軍曹」
なぜか膝を着いて雪に抱っこしましょうかと手を伸ばす水井。
そう来たか。
だが残念な事にうちの雪はそんな安くはないと言うように笑うも俺の予想を裏切ってその手を足掛かりにひょいひょいと肩に上る始末。
いや、それで動じない水井さんってどうよ。
って言うかなんでどや顔?
むしろ普通ってぐらい慣れ過ぎてね?なんて逆にその仲の良さに嫉妬してしまえば
「普段から雪を追い回してる相沢が悪い」
「抱っこしたら触りまくる相沢が悪い」
顔に出ていたのだろう。岳と沢田に雪が俺に触らせたがらない理由を述べていた。
「いや、そんなわけないじゃん。
俺たち一つ屋根の下に住居を共にする仲だよ?
しかもベッドも一緒なんだよ?」
そんな間柄なのに何が悪いという様に水井さんを嫉妬で睨みつけるも余裕な顔であっさりとスルーしてくれる水井さん。
多少触らせてくれるからって何なんだ。俺と雪は最高のバディなんだぜ!なんて対抗心を燃やしていれば
「とりあえずまだ荷物の搬入中だから。
そこに岳と沢田が入るとなると荷物追加しないといけないから。まあ、夜には寝れるようにしておくよ」
ちゃんと仕事はしてくれているようなのでそこは素直に感謝する。
「あざーっす。
ところで俺たち三人が寝られる部屋なんですか?」
ささやかに持つ疑問は六畳のワンルーム的なよくある部屋をイメージしての物。ロフトのあるタイプの部屋を想像していれば
「そこは自衛隊にものすごく協力してくれている君たちを大学生たちみたいなアパートに押し付けるわけにはいかないからね。
ちょうど大学の徒歩圏で空いていたマンションがあったから一室用意したよ。近いほうがいいだろ?」
「想像よりも好待遇だった」
「ひょっとしたらこれからもこっちに呼ばれることになるかもしれないからちゃんとした拠点があるほうがいいだろ?」
「そんなことになってるんだ」
そのための投資だったかとむしろ俺が探した狭くてもペット可アパートにすればよかったと反省中。
さすが一佐、やることが早すぎて文句を言う暇さえなかったと迂闊さを呪ってしまうも本当に大学最寄り駅近くのマンションに案内された。
「やだ、コンビニがこんなにそばにある」
スマホで近くに何があるか見ていた岳は歩いてコンビニ行けるなんてと感動していた。
うん。うちだと車で30分だしね。
「ね、ね、相沢、アイス買ってきていい?」
「俺もすぐ食べれるようななんか買いたい。はらへったし」
「あんた一人爆睡してたもんね。飲み物も欲しいからみんなで行こうか?」
なんて水井さんも反対しないから適当に買いあさる事にした。
水が変わっておなかを壊すといけないからペットボトルの水も買えば、沢田もコーヒーとかお茶とかのティーバッグを購入。さすが一人暮らし経験者。必要なものを分かってらっしゃる。その反面岳は
「うわー、この菓子見た事ない。やっぱり総菜パンとか種類が豊富だね。あ、このカップラーメン買っていい?お湯あるかな?」
お菓子屋さんに来た子供のごとく欲望をかごの中に入れていた。
俺はマンションから近いのならまた買いに来ればいいという様にサンドイッチにレンチンパスタとおにぎりを購入。あと一応念のためにトイレットペーパーもお買い上げして雪を肩にのせて待っていた水井さんと合流すれば
「どれだけ生活感あふれる買い物だ」
水井さんが苦笑いしていた。
「そのうちスーパーでも探して用意するけど今日明日なら十分でしょ?」
割りばしと紙コップも一応買っておいた。
他に必要なものは収納から取り出せばいいし、そこまでこだわりもないので俺達の事知らない人対応の物を用意しておく。
「そうかもしれないけどな」
なんてマンションへと向かえば藤原さんと玄関で鉢合わせた。
「あー、久しぶりです軍曹!」
なぜか俺達より水井さんの肩にいる雪から挨拶されてしまった。
そうか、俺たちの中のヒエラルキーの頂点は雪か……
飼い主として少し寂しいけど所詮飼い主なんてペットの下僕。尽くして尽くす存在でしかない以上その順位は正当かとちょっと涙が出てしまいそうになる。
雪の下僕、まったく文句ないけどね!
とりあえず大きな箱を持っていて、その箱のイラストに半眼になってしまう。
それは何ぞや?
顔に出ていたのだろ。
藤原さんはそんな俺に気付いたのか得意満面とした顔で言った。
「相沢の家みたいな梁がないからね。キャットタワーみたいなものがあれば軍曹も安心できるかと思いまして!あ、ちゃんと猫ベッドも用意してます」
「にゃ~」
「当然です軍曹」
山の天候とは違う都会のまだまだうだるような暑さの中でうっとうしいまでの笑顔に早々に山に帰りたいと思うのだった。
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