目覚めの一発はにゃー!!!

「で、お前はそれを確認してどうするつもりだ?」

 ダンジョンの外でスキル使えるところを見せても周囲の人たちの見世物になるだけだぞと今思いっきり実感している。

 俺の隣に来た勇者は村瀬だけだけど背後の藤原とか周囲の視線を集めているのが……無駄に上がったレベルのおかげでビンビンに感じてしまっている。

 やだこの敏感肌なんてうんざりするも今使えるのは鑑定という名でごまかしたステータス接続権利を披露するように

「じゃあ、ここでもできるお前のステータスを鑑定しよ……」

「相沢、それは少し待て」

 なんて千賀さんがストップをかけた。

「ダメだった?」

「いや、たぶん今称号が魔象を倒した時のものになってるはずだからダンジョン探索に向けた称号に直してもらいたいのだが……」

 なんて少し戸惑うような様子。

「なんかあったの?」

「結城一佐から止められている。人前で使わせるなと」

「使っちゃったあとじゃん」

「さすがにあそこで止めるのは、沢田君に申し訳なくてな」

「まあ、法的に訴えることができない代わりにと考えればぬるいぐらいだし?」

「そうか?大学四年間を無駄にさせて、女子としても終わらせて、きっとあったはずの友情も終了。さらにどうせこの噂は大学に帰るころには広まっているだろうからそこから拡散される尾ひれのついた噂に社会的に抹殺されて、これ以上何を望むんだ?」

「俺たちの目の前に二度と姿を見せなければ完璧だね」

「少なくとも大学につくまでそれは待ってくれ」

 あ、それも通っちゃうんだと改めて自分たちが背負うことになるこれからの未来にバスの後ろのほうに押し込められた三人の辛気臭い泣き声は無視をする。付き合う義理はないしね。

「まあ、結城さんのお願いじゃあしょうがないか。

 期待させて悪いな。縦社会に飛び込むなら今のうちから慣れるためにもあきらめろ」

「結城一佐の言葉ならあきらめます。

 って、結城一佐をそんな風に呼ぶなんて……」

 いいのだろうかと悩める青年(同じ年)に呆れながら

「俺は自衛隊に入らないし、ただの協力関係だから自衛隊のルールには逸れない程度にでもはまらない程度には自由はあるからね。

 千賀さんもだけどいちいち階級で呼ぶ理由もないし」

 だからわざわざ結城一佐とかでは呼びませんというように言えば

「ダンジョン対策課希望のこいつらは即戦力だからな。

 すぐに配属できるように普段の生活からすでに俺達と同じ環境を取り入れている」

 俺の二つ前の座席、運転席から俺たちの話を聞いていた林さんが今の大学生は大変だよねと笑いながら教えてくれた。

「えー?林さんたちと一緒って言うと……」

「俺たちの出向先の生活態度は参考にしないように」

 無駄なことを言うなと言われれば笑うしかない。

 まあ、そこのところは村瀬たちのほうが分かっているだろうがそれよりもいい加減……


「ふぁ……ふぅ……」


 大きな欠伸が飛び出したところで気付いた。

 通路挟んだ反対側に座る岳と沢田はとっくに眠っていて、耳をすませば半数近く皆さん眠っていた。

 仕方がない。

 一日中ダンジョンの中を走り回ったのだから疲れもたまるはずだ。

 それに真っ先にバスの運転手の交代になる三輪さんと橘さんもしっかり眠っている。

 バスのこの振動ってどうして眠くなるんだろうと思えばいつの間にか村瀬も隣で寝ていて……

 脱出しようにも村瀬が邪魔で逃げ出せない。

 このまま素直に寝るかどうしようかと思えば

「着いたらすぐにダンジョンだ。寝れる時に寝ておきなさい」。

 そういう千賀さんは林さんの運転の補助をしている。

 隣の補助席で慣れない田舎道を目を凝らしながら異変がないか、そしてナビゲーターとしても道が細くて見落としがちな曲がり角を間違えないようにちゃんと見てくれている。

 運転免許証が使えなくなってしまったのでこういったサポートしかできないと嘆いているけどうちの私有地で片手での運転の練習していたの知ってますから。

 たとえ言い訳が何かあった時できないじゃ話にならんだろうというお言葉にさすが隊長になった人。常に人を導く意識はあるんだと感心するけど運転していたのが俺の軽トラだから、まあ、なんだ。結構似合ってるよ言いつつと心の中ではやりたい放題だなおっさんと言っていたのは内緒にしておこう。

 そんな千賀さんのお許しが出れば瞼を閉ざし、気が付けば……


「相沢、起きてー!」

「相沢、みんな行っちゃうよ?」

「ナー……」

 

 肩を揺さぶられて起きろと言われているのは気が付いたけど、瞼が重くて開けれませんと言うように寝心地の良い寝相を求めて寝返りを打ったところで


「ンニャーッッッ!!!」

「雪しゃん顔はひどい!!!」


 情けないというような雪の目覚めの一撃は効果抜群で俺の顔面に爪痕がしっかりと刻まれていた。 

 とはいえちゃんと力をセーブしてくれていたので血は流れていない。ただ痛々しいまでに笑える見本のような猫の引っ掻き傷に俺はペットボトルを取り出してあのダンジョンで本当は一番価値があるのではとまで思うようになったなんちゃってポーションを一口飲む。

 本当にこれよく効くよなときっともう傷跡なんてないというようにひりつく痛みはすでに消え去っていた。

 なんちゃってポーションやべーな、と今度は普通に喉が渇いたから飲めば

「よく寝たわね?」

「まあ、それなりにね。で、ここどこ?おなかすいた。なんか食べたい」

 サービスエリアって理由もないのにテンション上がるよなと椅子を立ち上がれば

「なに言ってるのよ。着いたわよ。防衛大学に」

「いつの間に……」

「相沢が爆睡してる間に決まってるじゃん。

 とりあえず荷物持って降りて来いだって」

「俺のサービスエリアのご飯」

「爆睡してたやつが悪い」

 なんて岳が俺の荷物をもって先に降りてしまった。

「ほら、行くわよ」

 なんて沢田にも促されれば雪も先にぴょんと車から降りていた。

 行くのなら行くしかないか。

 まだ半分寝ている俺は沢田に引っ張ってもらいながらも転ばないように車を降りればすでに皆さん荷物をもって整列していて……

 お迎えがあったのか例の三人はこの段階で俺達から離れるように歩いていく後姿を見送ることになった。

 かわいそうとは思わない。

 バカをしたなとは思うけど、俺は俺が守る人を決めているから村瀬たちのような複雑そうな視線を向けない。

 その代わりになんだお前は、なんて言う視線をいただいていた。

「ひどい頭だな」

「結城さんおはようございます」

 真昼という時間帯にこの挨拶はどうかと思うも同じ意見だった結城さんは何も言わずに少し目を細めただけ。とりあえず久しぶりの挨拶に小さく頷いただけで、そんな結城さんにちゃんと挨拶をしなさいなんてことを言う勇者はさすがにいなかった。



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