さて、なんと呼ぶべきだろうか

 どうしてこうなった。


 動画で自衛隊をホイホイして未開の階層を偵察してもらってから俺達が安全に攻略する予定だったのに何で未開の誰も知らない世界に真っ先に飛び込むとはこれ如何にと涙がちょちょぎれた。

 悔しいからスマホで動画撮ってやると言うやけっぱちが遺言かどちらかとは言わないけどこれでも素顔をさらして動画を配信してるのだ。

 高校時代から身長も人相も変わった俺に生まれ育った地の友人たちが俺を同一人物かなんて成長期のビフォアアフターの姿の違い何て誰も興味なんてないだろうと言うくらい変わってしまったかもしれないけど、それでもここに来てから友人なんて出来なかったから誰も気にしないと言う心の余裕のまま動画をしている。

 あ、なんか寂しくなっちゃった……


 そう思うのは今の俺の気持ちなんて無視してマロ同様きらきらエフェクトをまき散らしながら光の奔流が一つの形を作ろうとしている最中だから。

 この状態の時は何をしても攻撃を加えることは出来ない。

 妨害のかけらにもならないのでこの光が収まるのを待つしかない。

 タイミングは一番最初にこのフロアに足を入れた瞬間から。

 なので、今回は先行した雪さんが到着した時点からスタート。俺が階段に居ても関係ない。

 階段で隠れていても光の奔流は止まらないし、マロで実験した時は階段までマロが降りてくると言う袋小路の出来上がり。

 扉をくぐってしまった以上フロアに移動する事がベストだと俺達は判断した。

 その間にこの光が何を形成するか考える。

 マロ以降はサバンナから始まって森に入り、豊かな水源の地域へ突入する。

 12階こそ水郷と言う風光明媚なフロアだけど、その後は密林と言うようなジャングル地帯。

 ありがたい事に川も流れているが、決して飲もうと思わない濁った水。

 13階こそジャングルだけど14階はどちらかと言うと世界的に大きな川のような、そんな感じの世界観。

 全く予測のつかないフィールドエリアだけど11階から14階を通して共通するのは『水』もしくは『川』だ。

 きっとこれに関係する魔物が出てくるはずだ。

 ワニとか、ヘビとか、サイとか……

 想像が乏しくて済まない。

 とりあえず毛を逆立てて戦闘態勢に入る雪の隣で俺は収納空間から愛用の鉈と集めに集めたクズの角をすぐに投げれるように取り出して周囲に突き刺して準備をする。

 胃がキリキリ痛いと未知との魔物の対決に先手必勝と飛び掛かれるように鉈を握りしめて光が形を作るのを待てば俺は目を見開く。

 反射神経もダッシュ力も俺を上行く雪さんの必殺の爪が炸裂するも、薄皮一枚切り裂いただけ。 

 そう、今回の相手はダンジョン産ならではの巨躯を相手にする事に驚きを超えていろいろと語尾がおかしくなった。


「雪さん!象だぞう!」


 黙れと言うように白い眼を向けられたけどその蔑むような視線に思わず

「あざーっす!」

 なんて感謝。

 うん。

 少し馬鹿な事を言った挙句に雪さんに虫を見るかのような目を向けられて落ち着いた。

 それもどうよと思うも体を低くしえ唸る様子を見れば多分雪さんの一撃必殺の攻撃が効かなかったのだろう。

 どこか俺を守ろうとしてくれている雪さんにとったら非常にピンチだという事は余裕のない「ふーっ!!」っていう声で理解できた。

 とりあえずまずは定石どおりに

「雪!下がれ!」

 言えばすぐさま俺の背後まで飛びのいたその瞬間


「毒霧っ!!!」


 教科書でしか知らない俺の生まれた国の悲しい過去。

 これが効いてしまう事は知っている。

 とは言え相手は丸々と太った相手。

 願うのは産まれたばかりで何も食べていない体は飢えていてそこまで体力はないだろう、そんな勝手な推測。

 それは俺が願ったように鼻を振り回して毒霧の無臭のはずなのに嫌な臭いを吹き払わんと言わんばかりに嫌がる様子に効果はあるようだ。

 とは言え猫の爪と象の分厚い皮と脂肪とではいくら攻撃を繰り返しても効果は期待が出来ない。

 どうしたものかと思うもそこは戦闘民族。

 雪はそのしなやかなバネで床を蹴ったかと思えば壁を走り、天井に近い所から象の魔物に攻撃を加えるかっこよさ!

 思わずスマホでその美しい攻撃をしっかり録画してしまう。

 そんな戦闘に役に立たない俺とは違い数少ないむき出しの眼球を一瞬でえぐり取ると言う所まではいかなかったものの失明へと追いやるのだった。

 そしてついでに象でも右耳を桜カット。

「雪さんぶれないねー」

 俺の足元に着地した雪さんはふんと鼻を鳴らし、気合を入れろと言うようにしっぽで俺を叩く。

「大丈夫、今日はちゃんと武器持って来てる」

 手に慣れ親しんだ鉈を持って見せればもう一度尻尾で叩かれた。

 今度はお前が行け、そんな所だろう。

 いやいや、手負いの獣(魔物)に突っ込めだなんて雪さんどれだけスパルタなの?と問いただしたい。 

 だけどもう一度鞭のような尻尾でふくらはぎをぴしりと叩かれたその冗談ではない本気の様子に俺は一つの魔法を想像する。

 ダンジョンをケルヒャーで掃除した時跳ね返りの水しぶきを浴びてドライヤーで乾かした所で会得した風魔法の熱風。

 温泉の後など髪を乾かす時ぐらいしか使った事無いけど突進してくる象を避けながら俺のステータスを確認。

 風魔法のレベルはマロと同じ5、だけど沢田の闇炎と同様に俺の風魔法にも熱風という文字が付いている。わりと普通の文字でほっとしてもいる。

 文字通り熱い風。

 それはどれぐらい熱くなるのだろう……


 散々のしでかしの経験から今はきっと俺の心の奥底の闇が歯止めをしていないのだろう。

 だから俺はこんなことが出来てしまう……

 熱をはらんだ空気は最高温度を目指すように。

 俺が知る温度は勿論限られているけど一番身近な温度で。


「くっらえええぇぇぇ!」

 

 両手で押し出すように放てばそれは視覚で捉えられない物。

 俺も未知だが相手も未知の物。

 摂氏100度の熱の塊を象は避ける事も出来ず、顔面で受け取り……


 慌てて地面を転がりだした。

 眼球のダメージは勿論呼吸器からの部分も熱でただれたのだろう。

 もちろん表面的な熱さもあるが、その熱を吸い込んでしまっただけに鼻や口。そして喉も熱でやられた様子はもだえる姿で理解できた。


「雪行くぞ!」

 

 声を掛ければさっきは通らなかった爪が尻尾を耳をそぎ落としていく。

 一撃の必殺が効かない以上削り取って行く戦法に変えた雪は確実に象の魔物にダメージを加えていく。

 だけどそれでも致命的なダメージにはつながらなく、スキルで様子をうかがう限り雪の攻撃より体力の回復の方が早く……


 俺は万が一と言うかただの雰囲気の為に床に挿しておいたクズの角を手に取り


「ふんっ!」

 

 意外と重いクズの角を投げてもそこまで突き刺さる事はない。

 少し前までやり投げの選手になれると思っていたあの力はどうしたと思ったものの一つの仮定を思い出した。

「スキルオープン!」

 そうして引き出したスーファミ以前のファミコン時代のステータス画面のような情報に指で触れて称号をタップする。

 そうすれば俺の期待通りの結果が一覧として現れた。


 それは俺が目を向けようとしなかった場所。

 称号一覧がずらっとそこ現れ、俺は一つの称号を選び、握りしめたクズの角を思いきり振りかぶって……


「雪!どけっ!!!

 いっけえええぇぇぇっ!!!」


 力の限り投げ放ったクズの角は象の魔物に突き刺さるどころか貫通をして……


 だけど俺はそれだけでは留めにならないと象の魔物のステータスを見てからの判断に次々と床に刺したクズの角を肩に痛みが走るまで投げ続けるのだった。

   



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