魔象よすまん……

肩に痛みを覚えながらも投げるクズの角がない所で俺の手はようやく止まった。

はあ、はあ、と肩で息をしながらやがて崩れ落ちる象の魔物の姿を目の前で見ていても心の準備がないまま対面した初めての魔物に緊張は解けない。


「にゃー……」


 それでも時間の経過と共に雪の鳴き声とぴしりとふくらはぎを何度も叩かれている事にやっと気づいてやっと我に返る。

 だけど巨大すぎる魔物への恐怖心は抑えられる事はなく、だけど何度も俺を呼びかける雪へとぎこちなくだが顔を向けることが出来


「勝ったんだよな?」


 恐る恐ると言うように聞けばすぐに「にゃー」という返事。

 その証拠に宝箱がぽん、ぽん、ぽんと三つほど現れた。

 たった三つか……

 なんだか期待外れだけど宝箱が現れた事でやっと安心することが出来た俺は大切な事を思い出した。


「そうだ。象の情報集めないと……」


 慌てて床に置いて撮影していた録画モードのままのスマホを回収。

 バッテリーもだいぶやばいなと慌ててメモ帳を開いて俺は象の魔物を指さして


「ステータスオープン!」


 言えば目の前に象の魔物のステータスが現れた。


魔象 通称(マゾ)

レベル:25

体力:0/300

魔力:0/350

攻撃力:350

防御力:400

俊敏性:200

スキル:水魔法+濁流Lv5

    地魔法+地震Lv7


耐水のマント

ランク:5/10

防御力:400

備考:水魔法Lv5までの耐性あり


水の魔剣

ランク:5/10

攻撃力:300

備考:水魔法+濁流Lv5


大地のブーツ

ランク:4/10

防御力:150

備考:どんな足のサイズにも合う



「……やっべえ」


 何がって?

 いろいろ全部だよ……


 雪が器用に宝箱を開けてくれたおかげで中身もついでに見る。

 こちらはマロの時と大して変わらないものだけにそれほどビビる事はなかった。

 だけどそれ以外がいろいろヤバい。

 まず、今まで階層の数字が魔物のレベル基準となっていたという常識があっさりと覆された。

 マロの時だって10階なのにレベル15かよって思ったのにこの象の魔物に至ってはいきなりレベルが25に跳ね上がったのだ。とてもじゃないけどみんなを誘って挑戦しようぜ!なんて言えない事が判明した。いや、むしろ今わかって良かったと言うべきか……

 これ以上家が事故物件になる事は避けたいと当面レベルアップに集中する事を決めた。

 うちのイケメンエースの雪はかろうじてレベルが上回っていたけど、絶対的な致命傷を与えられなかったのでこのまま戦い続ければ小型動物なだけあって雪の方がじり貧なのは目に見えている。

「雪、一人でこいつに戦いを挑むのはまだ禁止だぞ」

 言えばそこは戦闘民族。先の戦いで必殺の爪撃が一つも効かなかったのだ。俺が言わなくても一番理解していると言わんばかりの悔しそうな顔をして不貞腐れながらイメトレと言うように象の魔物を攻撃していた。

 そして今回獲得したお宝はそこまで目新しいものはなかった。

 おなじみのマントと魔剣。そしてニューアイテム?のブーツ。

 備考がどんな足のサイズにも合うとか書いてあるので

「どういう仕組みだろう?」

 ブーツの中を覗いてみたりするも一見見た目はグレーの皮で出来た見るからに冒険者が好みそうな頑丈そうな一品。靴底もしっかりしていて、底を曲げて見れば固くもなく柔らかくもないいい感じ。

 気持ち雪が攻撃している象の皮に似ているような似ていないような……

 とりあえず片足だけ履いてみればぶかぶかだったブーツがじわじわと小さくなって俺の足にフィット。

「すげーファンタズウィー」

 あまりにも都合が良すぎて想像以上の結果にならなくってなんか訛ってしまった。

 思わず両足履いて立ち上がり、ぴょんぴょんとジャンプしたりおもむろに走ってみても足の爪が当たったりしないし靴擦れもする様子はない。当然足幅もあっていて……

「一見重さがあるように見えて軽いな」

 まるで自分の足のようにも思えるくらい履き心地がよかった。

 ただ一つ、スニーカー派の俺としては足首をがちがちに固定するブーツがちょっと苦手なのでとりあえず無限異空間収納に放り込んでおく。きっとこういうのを宝の持ち腐れとか後に言われるのだろう。まあ、何かあった時の靴って事にしておいた。

 そしてマントはともかく魔剣を思わずじっくりと見てしまう。

 備考欄に書いてある水魔法+濁流ってヤツ。

 思わず思い出したのは14階の雄大な川。上流の豊かな森の恵みを運ぶそんな色合いにこの魔法がどのような物か想像して顔を引きつらせる。

 これ使っちゃダメじゃん。綺麗な水ならともかく濁流ってその後の掃除とか大変じゃんとまだ東京に住んで居た時突然の大雨に道路が冠水した時を思い出した。あの時でさえ濁った水ではなくても消毒とかいろいろな臭いとかヤバかったのに濁流になれば絶対消毒とか無縁そうなこの世界では悲惨な結果がいくつも付きまといそうなのは想像しなくてもわかる。

「とりあえずこれも封印」

 俺しか使えない無限異空間収納様様だ。

 とは言いつつ何より水魔法+濁流は想像がつくが地魔法の地震のレベル7が嫌な感じしかしない。

 あれだよ。

 よくテレビに出てくる地震速報の震度とかマグニチュードとかああいう奴がすぐに頭に出た。

 ぞっとして笑えないぞと改めて体験する事が無かった事にほっとしつつもダンジョンの中がぶっ飛んでいる事を改めて思い知る。

 その上さらにヤバいのがこの象は魔象という名前らしく、俺の心の中で魔象って略すとマゾじゃんwなんて雪さんの華麗な壁走りを録画しながら心の中で笑っていたそれが通称マゾなんて表記されてしまったのだ……

 いや、だってさ。

 魔象を他にどう略せばいいんだ?

 マゾーとか?やっぱりマゾじゃん。

 防御力も俺が知る限り一番お高めだし。

 ありがたい事に毒霧の効果があったから碌な攻撃を受ける前に倒すことが出来てほっとしつつもこれは攻略の仕方ではないのではっきり言ってなんの役にも立たないレポートでしかない。

 それどころか別に問題が発生した。


「称号が変更できるんだよな」

 

 俺は自分のステータス画面を立ち上げて目の前のステータスを覗き見る。

 今の称号は槍使い。

 その前はいろいろしでかした結果から殺戮者。

 逃げるように12階から13階に向かったからあの後を見てないけど酷い事になるよなーと何が起きたか分からなくても結果がレベルにちゃんと表れている。

 とりあえず俺は称号に指を伸ばして他に何があるか確認するために触れれば


 駆け出し冒険者

 ダンジョン発見者

 魔法を創造せし者

 魔獣使い

 魔狼を征し者

 冒険者

 殲滅者

 槍使い

 源泉に浸かりし者

 殺戮者

 魔象を征し者 new


「結構あったなー……」

 

 そんなわけで今の俺の称号は魔象を征し者となっていた。




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