俺達の価値なんて二束三文しかないようです
突如始まった林さんですらストップをかける千賀さんの暴露話は居間で机を囲んでちゃんと話を聞く事になった。
良く冷えた麦茶と塩分と言わんばかりの浅漬けの漬物、そして難しい話だろうかとチョコレートを並べたこの取り合わせは何という食べ合わせだろうと思いながらも誰ともなく氷の崩れる音を聞きながら麦茶を頂いた。
普通に喉乾いたなと飲めばすぐにコップに注がれたた麦茶は岳が家からお買い上げしてきたもの。家が近いからと帰っては家の手伝いをしない代わりに売り上げに貢献していると言う。
まあ、オークションや自衛隊の方達に買い取ってもらった素材のお金があるのでそれぐらいは余裕だろうが、代わりにゴミが増えるからゴミ当番をお願いしている。
ほら、うちからごみ収集所は遠いし、適当にゴミを出すと山の獣を呼び寄せるだけになるから都会以上に神経質になるんだよ。
ゴミを待ち構えている獣様もいるくらいだからね。
金網で囲っていても破ってでも入ろうとする獣様は一定数入るからね。どれだけ人間が出すゴミが美味いと思っているのかわからんが、人間の食べ物で育つ獣様の方が美味しい事を忘れてはいけないよとご近所の猟友会の人達は虎視眈々と脂がのる様子を見守っている事を全力で見ないふりを俺はしている。
そんなやり取りの情報に耳を傾けながら漬物をつまむと言う何とも言えない穏やかな光景だがこれから話す事はそんな穏やかな事なんてどこにもなかった。
「そうだな。
国が一般に公表していない事は多々ある。
一応君たちに教えるのは君たちが貴重な情報源であり、貴重な戦力でもある協力者だからだ」
そう言えば三輪さんが戻る時に協力するようなこと言ったな。
フラグにならなかったのはよかったけどこんな風に使われるのはちょっと早まったなと今頃反省をするこれぞ後悔先立たずと言う奴だ
隣に座る岳は既に忘れ去っているようで美味しそうにチョコレートを堪能しているのが今の俺には癒しだが、林さんが神経質にちらちらと見てるからそろそろ話を聞くふりで良いからしてくれと願ってしまう。
「もちろん協力を得られる以上君たちには聞いた事の守秘義務をお願いするが、君たちの情報も我々に共有させてもらいたいと我々の上の人達からのお達しだ」
「つまり、お互いお願いしあう協力状態で良いのかな?」
「口を閉ざされるぐらいなら程よい距離を保ちたい。それほど我々は君たちの情報を切望しているのだよ」
真剣な眼差しで言われるものの
「そんな重要なことあったっけ?」
「えー?だんだんマヒしていってるからどうかな?
ああ、でも魔法の会得方法はダンジョンに潜る以上は必須だからそれじゃない?」
どうでもよさげに沢田は言う。
確かにそれも重要なのが分かっているが……
「我々もその魔法の会得方法を知りたいと願っている。
何時の間にか知らない間に水井班と我々は全員会得出来ていたが、その過程をぜひとも知りたいのだが!」
切望、そう言ったように口調もだんだん強くなるものの教えても信じてもらえるだろうか、まずそこからだと思う。
心配げに沢田が俺を見るもあんなチョロいダンジョンの事を説明したらいろんなことが崩壊する事は目に見えている。
ああ、だから……
「国はいろんな事を秘匿してしまったのですね」
思わず漏らしてしまった俺の言葉に千賀さんも興奮を収めて理性を取り戻したようにまた説明を始める。
「何が納得する言葉に繋がったのかわからないが、テロリストがダンジョンを占領して立てこもられたらどんな事になるか分からないからな」
アングラな場所となるだけならまだどうとでもなると言いたいのだろうが、先の秋葉のように意図的にスタンピードを起こされたらたまったもんじゃない。未だに世の中は10階を攻略できていないからの警戒と不安がそうさせているのは理解した。
それが表向きな理由だとしてもだ。
国がその気になれば俺達から聞き出す方法はいくらでもある。
こうやって交渉の余地があるうちに情報を交換するのもよし。
ごねて調子づいたらどこかでうまく処分される未来も想像は容易い。
かといって沈黙を通せばどこかに放り込まれて強制的に吐き出させる最悪も考えておく。
何せ向こうの最悪は俺達から情報を引き出せないまま何かのはずみで死んでしまう事だから。
そう思えばやっと抜糸を済ませた千賀さんと言う怪我人を放り込んできたのも理解できる。
同情を買いながらも遠回しにこんな風になるのは嫌だろう?
失ったばかりの腕だからか体のバランスが悪かったり、失った腕で物を受け取ろうとするその瞬間に見せる表情にいくらでも自分の未来も想像してしまう。
ただ、自分から差し出してしまいたくなる状況ならまだいい。失敗して失っても自業自得。
何かを引き換えに差し出さない状況は勘弁してほしいし、強制的に痛みとの引き換えなんて最もごめんだと言う所。
そう。
想像何ていくらでもできる。
そしてこんな想像何て千賀さんの上の方達だって容易く考えて実行できる人達。
だとしたらだ。せめて……
ゆっくりと息をする。
程よくぬるくなってしまった麦茶で唇を湿らせて緊張している事を悟られないように、そこまで興味ないと言うように漬物を食べる。
ポロポリと咀嚼しながら少しだけ考えるそぶりをして
「じゃあ、先にさっき言った千賀さんの話聞かせてよ。
ほら、ダンジョンがモンスター生み出すとかそこから順に。
協力とかならそういう話聞いておきたいから」
机に乗り上げて興味津々と言うように聞けば千賀さんも全く目の笑ってない笑顔で
「なんか講師になった気分で楽しいな」
声を弾ませるあたり死亡率の高いダンジョン対策課で指揮するだけの人だと恐怖を覚えながらも多分向こうの希望通り俺達が主導権を握っていると勘違いをしている模範的回答でこの場を濁す。
今は田舎の職にもつけないニートだと思って馬鹿にしてもらえれば十分だ。
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