チョコレートの甘みに癒しを求めてみる

 せいぜい情報を搾取してくれと多分俺達の持つ情報の方が圧倒的に少ないのにここまでお膳立てをしてくれたのなら乗らないわけにはいかないと俺のこんなちっぽけなはったり何てどうせお見通しだろう。それも含めて交渉に出ればやっぱりと言うか千賀さんも良心が痛むと言うような、でも呆れたと言う表情に少しだけ無言になれば諦めるように目を伏せた。


「ダンジョンの発生は不明。

 魔物はよく言う卵が先か鶏が先かと聞かれたらダンジョンが発生と同時だと言うしかない。発生したてのダンジョンの調査をした事があるが、成体の魔物がそれなりの数をそろえているあたりダンジョン発生オプションと見た方が良い。

 ダンジョン発生してから約二週間後に低階層の昆虫系の魔物が爆発的に増える。知っての通り卵を産み落とすからな。おぞましい事にダンジョンが生産に加えて生殖活動も確認されている。

 基本的に奴らは暗い場所を好む為ダンジョンから出て来る事はないが、時々夜になるとダンジョンから出て来る事もある、これがダンジョン黎明期に見られた第一次スタンピードだ」


 俺の隣で話が難しくて(?)ショートした岳は敷いていた自分の座布団を枕にして縁側で自ら離脱した。

 橘さんが大丈夫かと沢田に視線で確認を取っていたが

「あ、あれが標準なので。頭の仕事はさせないようにお願いします」

「なるほど、作戦会議の時はいつもいないと思っていたがそういう事か……」

「いじめとかはばにしてるとかじゃないので。残念な自発的行動なのでそっと見守っていてください」

 そんな説明に三輪と林の心配げな視線とは別に千賀は表情を緩めることなく俺達を見て


「その後に起きるスタンピードを第二次スタンピードと言う。

 奥からウサッキーたちが一気に低階層まで押し寄せてきて来る一般的に言われているスタンピードとはこの時の事を指す。

 低階層の奴らはダンジョンにライトを当てておけば出てこないからな。こんな簡単な対策でどの国も第一次スタンピードを押さえ込められるから卵さえ持ち出さなければ何とか地上にあふれ出す事は今の所はない。ただ、異常に増えた低階層の昆虫系魔物をウサッキーたちが捕食している事を各国でも確認している」


「沢田、奴らを食べるような魔物を俺に食べさせるなよ」

「安心して。今の所捕食した奴らは調理してないから。

 胃袋チェックは欠かさずしてるからね!」

 

 それもどうよと聞きたかったけどそんな事してるのかと言う林さんの呆れた視線に俺と沢田はこの話を強制終了した。


 コホン、千賀は軽く咳払いをした後真面目な顔をして


「そして今回分かった事だが、捕まえて魔狼を解体した所大量の動物系魔物を捕食したものが胃袋から出てきた」


 思わず息をのむ。

 俺達が10階で出会うマロはいつも飢えたかのような空っぽの胃袋。

 それが10階から上がってきて低階層の奴らを餌に太った動物系魔物を食い散らかすなんて……


「ダンジョンってマロの食事場なのか?」


 聞くも千賀さんも林さんも難しい顔をして


「そう言うしかないだろう。

 まあ、魔物達も本来なら外から侵入してくる人間を食べる事を想定すればここは人は来ないし、人よりも先に討伐されるから何とも言えんが……」


 そして少しだけ目を伏せて


「今回の件が第三次スタンピードと各国で認定された。

 ダンジョンを乗っ取っていた若者の一人から事情聴取をしたのだが彼らは我々との攻防を優先してあまり奥まで行ってはなかったそうだ。

 我々と低階層の昆虫系魔物が多くてそれほど奥には行けなかったと言っていたし、魔物の卵を割る方が忙しくてそれ所じゃなかったと言う」


 そんな状態でも助けを求めないなんて一体彼らがなんでそんな悪手をさせたのかなんてもう判らないだろう。ただ目立ちたいだけ何て言う理由じゃない事を祈る。


「まあ、ここは相沢が神経質に倒しまくってるから卵どころじゃないしね」

 一緒に潜っていた橘も頷くあたりそこまで嫌なのかとさすがの千賀も呆れるが


「おかげで一連の昆虫系魔物が増えて、動物系の魔物が出てきて、それを捕食するために魔狼が地上に向かって出てくると言う流れが完成した」

「で、その魔狼は次の奴らの為の斥候として地上の情報を持ち帰ると?」


 思わず深刻そうなドヤ顔で説明する千賀さんにその後の俺の妄想を聞いてもらえば顔を引きつらせていた。

 どうやらまだその後の事まで話は出ていなかったらしい。

 とは言えこれぐらいの事


「11階以降もダンジョンは続くのだから腹を満たすための環境を準備してマロを檻から出すぐらいだから何か準備してこその想定だろ?」


 そう言えばみんな黙ってしまった。

 10階がゴールではない。そこを忘れてもらったら困ると俺がチョコレートを口へほうり込めば誰ともなくチョコレートに手を伸ばして暫くの間無言でその甘さに無言になるのだった。




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