最悪は常に考えて備える物だと思う

 ゆっくりとチョコレートの甘さに浸りながら頭の中を整理するように麦茶を口にして魔狼を地上に解き放って何がしたいのか想像すれば


「あのさ、こういうのってまず11階の虫が出て来るんじゃね?」


 縁側で転がっていた岳がごろりと俺達の方を見ていう。

 って言うか岳の発言何て珍しいなと思うも


「俺達は相沢がいつもバルサンするから気付かないけど11階って結構蝗みたいな昆虫系の魔物が多いじゃん」

「いたわね。相沢がバルサンすぐやるから気付かなかったしクズに意識が持っていきがちだけど10階出た所の11階っていつも蝗みたいな握り拳大のバッタが大量に死んでたわよね。夏のコンビニの電灯に集まる虫みたいに」

「沢田ー、この村コンビニないからその表現判らないって」

 ゲラゲラ笑う岳にやっぱりないんだと三輪さんがつぶやく辺りきっと探したんだろうなと田舎舐めるなと笑っておく。

「で、岳。バッタが出てきたら何するんだよ?」

 なんてあの握り拳大の緑色の後ろ脚が少しセクシーな形の昆虫を思い浮かべてぞわりと粟立つ鳥肌をさすりながら聞けば


「あー、マロの食べ残しを食べて、地上に出た所で卵を産み付けて爆発的に増えるとか?」

「やっぱり肉食系昆虫か?!」

「これ以上虫系が増えるのは勘弁してくれっっっ!!!」


 のおおおぉぉぉっ!!!

 頭を抱えてそれは嫌だと悶絶する俺。


「確かに虫はこれ以上勘弁してほしいけど、どうして岳はそんな想像にたどり着いたんだ?」


 橘さんも不思議そうに聞けば


「え?だって俺達11階に行ってる間って10階の扉いつも開けっ放しになってるじゃん。今の所壁でもあるように10階に行こうとしている魔物が居ないから問題ないけど何かがきっかけで11階から上がって来るんじゃね?」

「何かって、なによ……」


 沢田が聞くもあっけらかんとした顔で


「んなの知るかよ。それは相沢が担当だろ?」


 丸投げされてしまった。

 だけどこうなると想像はつく。

 岳のくせにナイスだ!


「多分マロが地上に出る事がきっかけになると思う。

 11階に大量のバッタが死んでただろ?

 実は俺初めてマロを倒した時少しだけ隙間開けてバルサン撒いてきたんだよ。もちろん扉もちゃんと閉めてきたぞ。

 そんで帰ってきたらレベルが21から23に跳ね上がったんだ。

 レベル20ぐらいになるともうマロを倒しただけじゃレベルは上がらないのはみんなも知っていると思う」


 聞けばみんなもうマロだけじゃとっくにレベルアップの足しにもならない事は理解しているのですなおに頷いた。

 だったらだ。


「俺は一体何を倒して一気にレベルを2つも上げたのでしょうか?」


 ダンジョン発生から約2週間も経ってないが、ダンジョンはマロが地上に飛び出す事を前提に地上侵略の為の準備をどんどんしている。

 そんな時にレベルを一気に2つもあげるこの謎現象……


「履歴が見れるスキルがあればいいのに!!!」

「それ必要なの?!」

「って言うか必要ですか?!」

 橘さんまで沢田の突込みに乗って突っ込んでくる。

「はあ? 必要だろ?! 攻略はデータなんだ! 次回いかに被害を抑えて攻略するための準備は過去を振り返る事にあるんだ!」

「た、確かにテストとかは過去問も大切ですが……」

「橘、誰が真面目に答えろと言った」

 三輪が溜息を零すあたりでみんな口を閉ざす。


「そうなると水井が危険だな」

「秋葉のダンジョンの方もですね。斎藤に連絡を入れます。三輪は水井の方に連絡を。魔狼を倒しても11階には足を踏み入れないように。そして魔狼を倒したら11階にバルサンを投げ込んで扉はすぐに閉めるようにと」

「ああ、あと10階を全員退避して扉が閉まるかどうか確認してください。そしてまたマロが復活しているか確認は水井さんにお願いしましょう」

 相沢が口をはさめば千賀も頷き


「これは俺の方から重要事項として上に連絡をしよう」


 そう言ってすでにぬるくなった麦茶に手を付けずに立ち上がって自衛隊の宿舎の方に向かって行ってしまった。

 というか


「ダンジョンの監視は良いのかよ」


 いくら24時間体制の監視カメラが付いているとはいえどうなんだろうと思うも


「私なんだか疲れたから料理でもしてるね」

 沢田は癒しを求めて土間台所に向かって行けば

「じゃあ、俺はダンジョン行ってくる!雪行くか?」

 声を掛ければいつの間にか梁の上に上がっていた雪が音もなく降り立って

「にゃ!」

 飛び切りいい声で返事をしながら尻尾をふりふりと準備は出来た?と言うように岳の足をピシピシと叩く。

 岳は鞄にペットボトルや菓子パンとキャットフード、バルサンも詰めて

「11階まで行ってピクニックしような。11階は暑いからマロマントの首輪をつければ完璧だ」

「にゃーん!」

 こんな話をした後でも11階に行くらしい。

普段は首輪を付けたくない雪でも11階の暑さにマロマントの有効性を理解してか拒否をしない。うちの雪さん本当に賢いと感動してはらはらと涙を流しながら見送る。岳が沢山の荷物を持ってもダンジョンの中に一歩足を踏み込めば重さは苦にもならないと言う足取りで

「じゃあ、留守番頼むな!」

「にゃーん!」

 あっという間に姿を消すのだった。

 

 途端に静かになった室内に俺はノートパソコンを持って来て縁側のリクライニングチェアにどっしりと座り


「動画の編集でもするか」


 次の動画は11階フロアの名所紹介だ。

 大雑把なマッピングを公開しようと思う。

 そんな事しようとした理由は最近見つけたのだが森の中に高低差のある場所を見つけて足を向けた所、俺達は貴重な水場を発見した。

滝から注がれる滝つぼの澄んだ水の美しさと美味しい魚たち。

 もちろん魔物なので餌がなくても手を突っ込んでおけば釣れるお手軽なヤツ。だいたいそう言うザコは美味しくないが、さらにそれを狙って俺を仕留めようと魚は確かに美味かった……

 そんな滝の上には何があると崖をよじ登ればなんと温泉があり……

 沢田の入浴シーンを本人の許可を得て公開する事が決まった。

 残念な事に当然服を着たままだが……

 いや、アカウント消されたくないから当たり前だよね。

 沢田は美味いもの食べているしダンジョンで体を鍛えているからプロポーションが良いのは判り切っているが……


 素足で温泉に足を付けた所でさりげなく岳の入浴シーンに変更。畑仕事で鍛え上げた筋肉とがっつりモザイクを掛けたものに差し替える事にした。


 当然ながら非難轟々だった。




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