包丁でマロに挑戦☆を目指して!

じりじり……

そんな感じに距離を取られたのがちょっと悲しかったけど当然かと思うようにしておく。

 いくら自分の知るステータス画面より詳細な内容が分かったとは言え勝手にステータスをさらけ出された上に直感で確実に自分より上位の人間が目の前にいる事を悟ってしまったのだ。

信頼している相手ならともかく今日会ったばかりのメンタルを削りまくってくる集団に囲まれているのだ。

逃げ出したいのだろうが既に入り口を俺が固めているダンジョンという袋小路に居る。恐怖に顔を引きつらせているのは本日の精神的負担だけが理由ではないだろう。

自衛隊の人のメンタルを潰す田舎ってないわーなんて全部この家の出来事なだけに俺もこの状況には泣きそうだけど。

だけど泣いていても仕方がない。

 なるべく平常心を保つように笑顔を心掛けて

「ダンジョン発見者ボーナスの事を知っていれば分かると思います」

「……。

 聞いた事があります。さっきのが鑑定と言うスキルですか?」


 ん?

 なんか勘違いされたけど岳から借りたラノベでは自分のスキルは正直に話すものではないらしいし勝手に勘違いする分には俺の責任じゃない。

 そんなセオリーに学んで訂正はせずに


「それを使えばさっきみたいにステータスを見ることが出来ます。

 気づいたかと思いますが、岳のステータスには魔力と言う項目に数値が付いていて、橘さんには数値がついていません。

 つまり魔力がない状態です」


 言えば怪訝な顔をする。

 魔力って本だけの世界だろ?

そういう雰囲気がひしひしと伝わってくるが大切な事なのでこれは言わなくてはいけない。


「マロの討伐には魔力を発生させることが必須となります。

 魔力の数値が単純に魔法を扱える数値なのか魔法の攻撃力なのか魔法の耐久性なのかまではファミコンステータスからスーファミステータスのレベルに変わっただけの情報量じゃまだよくわからないのでなんともいえませんが、魔力がないとマロの最初の火炎攻撃に耐えることが出来ません」


 分からないながらもあのマロの火炎攻撃に耐えることの条件を提示すればただ俺の話しをうさん臭く聞く事は止めてくれたようだ。はっとしたように警戒した顔を跳ね上げて


「ここに駐在して討伐の協力していただけるのなら魔力の発生の仕方を教えます。

 そしてそれを自衛隊に持ち帰る事を止めません。むしろ広めてダンジョンのない世界を取り戻せればと俺は思っています」


 ごくり……


 渇望していたものが手に入る、そんな魅力的な誘いにマロの攻略法を盗んでくることを命令されているだろう橘さんにとってはこれ以上とない餌。

 だけどすんなりと手に入る事に危惧するのは当然で


「何がお望みですか?」


 ちゃんと交渉に入ってくれた。

 きっとそれは自衛隊でも想定済みの展開だと言うように視線が何かこの後の展開を模索しているようにも見える。

 きっといくつものシミュレーションを立てて作戦を練って来たのだろう。

 だけど忘れてないか。

 俺達からマロの攻略法を差し出す事でホイホイされている事を。

 本来なら放っておいて所有者が居なくなってから美味しくダンジョンを独占するつもりだった計画自体がすでに崩されている事を。

 そして俺達の計画を知らないからこそ優位に思っているつもりだという事を。

 まあ、多分俺達の方の計画がザルなんだけどダンジョンに入れば負ける気はしないし俺はダンジョンの外でも負ける気はしない。

 せめて沢田と岳を守ってやると言うぐらいの意気込みはある。

 それが最悪俺の人生と引き換えになったとしてもだ。

 いくらでも危惧する事があふれ出して不安はいっぱいだ。

 だけどまず本来の目的を達成すると言う手順を正しく踏みたい。

 そしてダンジョン攻略のヒントの代わりに自衛隊と言うマンパワーに縋りたい俺としては交渉の対価としてもっともありふれたものを要求する。


「真っ先にこのダンジョンの消滅です。

 このダンジョンが何階まであるのか、消滅するのかもわからないけどダンジョンを無くしてモンスターが出てこないようにして平穏な山の生活を取り戻したいのです。

 その為の自衛隊の協力を仰ぎたいのです。もちろん俺達も討伐を手伝います」


 きっと一番容易い展開だったのだろうと言うように拍子抜けした顔で

「他には……?」

 なんてもっと強請っていいんだぞと言う顔に

「ええと、沢田がここでジビエ料理をやりたいとか言ってまして、その資金とか、ダンジョンのお肉を融通してくれると助かります」

「他には?」

「トイレ、の資金はめどがついてますので、あ、うちから村道までの道幅の拡張とか舗装の補修とか……」

「他には?」

「ええと……」

 他に何かあるか?

 いや、いっぱいあるだろう。

 だけどどれも大した事のない自力で出来る問題。

 何がある?!なんて考えればこつんとマロのつま先にあたった。

 視線を落とした所には内臓を取り除かれた首のない万歳ポーズのマロを見て


「武器や装備が欲しいです。

 知っての通りマロぐらいになると包丁とかでは太刀打ちできなくなってきました。

 魔物を買ってきますので自衛隊の方で武器や装備を作って提供してください。

 もちろん11階以降のマロより強い魔物から得られる素材は武器としてこれから必要となるはずなので余剰の分は買い取って頂ければ助かります」


 今一番必要な物はやっぱり武器とか装備品だろう。

 今最強の武器はクズの角だ。

 クズ最強!

 世界中で言わせたい俺の密かなしょうもない残念過ぎる野望……

 今は加工が出来ないので俺はその角を投げつけて利用している。

 イメージは槍だが間違えた使い方をしている自覚はある。

 戦闘能力を伸ばすために魔法をあまり使うなと言われて畑の囲いの柵の支柱に使えるかと思って拾い集めていたものを投げつけていたが14階のモンスターまで対応できる優れものだった為に魔法を使っていいから投げるのを禁止された記憶は俺の称号が槍使いに変わった事で忘れられない出来事になっている。

 いつの間に称号が変わったのかと思うも岳が斧使いで沢田が闇魔法使い。

 うん、やっぱりあれだよな。

 闇炎が関係しているんだよな。

 真っ黒の炎の魔法をつかう辺り今も病んでる証拠なんだよな。

 モンスター討伐中沢田の炎に耐えたモンスターにたまに疲労とか麻痺とか毒とかのバッドステータスがランダムでつく闇魔法超有能。

 料理人が毒とかのバッドステータスを付けることが出来るってどうなんだろうと思うも普段のご飯は美味しいから気にしてないけど……

 とりあえず何が出てくるか分からない15階の主を倒すための準備がしたいと言うように交渉すればそこで橘さんは頷くも


「包丁で魔物に挑むのは大変危険なので絶対やってはいけません」

「それだけ切実に武器が足りないので動画で包丁で挑んでみたなんて上げないように協力してください」

「包丁でマロに挑戦☆なんて止めていただければ協力しましょう」


 世間はそれなりにかっこよさげな武器を手に挑んでいる人が多い中逆に退化するのはもうネタでしかない。

 それで「包丁でマロに挑戦☆」なんてやって貰ったらたまらんなと橘さんが言ったタイトルに俺は密かにやってもらいたいなー。ひょっとしてやってみたいんだろ?なんて心の中でクズの角で出来た包丁が手に入った時はぜひとも挑戦してもらいたいと企むのだった。


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