お家に帰りたい……
何匹か前のマロで一度うちのステンレス製の包丁とかで解体してみようかと言う話から俺が止めて!なんてお願いしたのに無視して強行した結果、ばあさんが麓の街の雑貨店で購入してン十年、俺が受け継いだ包丁がついにぽっきりとお亡くなりになってしまいました。
いくら俺達がマロを片手間に倒せるくらいに強くなったとは言え腐ってもマロ。包丁でどうこうできる相手ではなかったようで先に包丁の方がお亡くなりになってしまった件に関しては新しく買ってもらったので許したけどね。
いろいろ試した結果電鋸とか電動枝切りカッターとかが解体には有効だという事が分かり、以来それを使い続けている。
関係ないけどマロ討伐時の装備は沢田は鉈と肉切り包丁で岳はW手斧だ。
そんな装備で大丈夫か、大丈夫だから問題なんだよと何とかして装備を整えたいのは間違っても冒険者に見えないホラー系スタイルだから。今でこそ無限異空間収納に装備の予備をきちんと入れて手ぶらでマロと対面することはなくなったけどちゃんと巻割り用の斧も入れているからそのうち役に立ててみたい。ほんとスキルをちゃんと使いこなしたいと切実に思います。
ちなみに実験としていろいろと使ってみた枝切りばさみや鋸は刃がガタガタになってしまいました。もともと古いものだったのでこれを機に新しいものと交換する事になったけど、周りが雑草や木々で囲まれている我が家としてはすぐそばに庭の手入れ道具がないと言うのは非常に頭の痛い問題だと思った。
そんな俺が現実逃避をしていれば
「うわあああぁぁぁ……」
橘さんの泣き出しそうな声再び。
分かるよ。
だいぶ嗅ぎなれたから耐えられるけど、初心者にはきついよね。ましてや初見さんなら驚きだよね。
いくら自衛官が精神的にもいろいろな苦痛に耐えれるように訓練していてもマロの胃袋の匂いは耐えられないよね。
あまりの匂いに俺は橘さんに気付かれないように風魔法でダンジョンに向かって風を送り込んであの強烈な空腹どころか飢餓状態の空っぽの胃袋が沢田によって階段下に電動枝切りカッターの先っぽによって中身を確認してから捨てられたのを眺めながら水道の蛇口を開けて
「橘さん、悪いけどマロはもう大丈夫だから。
今度はマロのお腹洗いたいから水で綺麗にしてくれる?
沢田がたわしで洗うから手伝ってよ」
言ってホースを渡す。
さらりと水魔法を発生させようと企んでいるのは内緒だ。
「はい。え?」
俺の計算なんて知らずに理解できないと言う顔でもホースを受け取ってくれる橘さんいい人だと感動していれば
「橘さん、この背骨の部分に水が当たるように流してください」
そんな沢田の指示に言われた通り水を当てれば用意していた亀の子たわしでマロの中を洗い出す。
沢田の場合は単なる労働力としか見ていないので割愛。
「太い血管とかあるからちゃんとこすって血を出さないと味が濁って美味しくなくなるからね。ドイツのソーセージで腸に血を詰めたソーセージがあるけど、さすがにマロの血のソーセージは食べたいと思えないからね」
は?
そんな顔で沢田を見る橘さんに
「安全が確保されたら作っては見たいと思うんだけどね」
「さすが料理人。挑戦は止められないか」
「相沢だってレバーは嫌いなくせにレバーペーストは美味しいって言ってたじゃん」
「はっ!俺だっていつまでも高校時代の俺じゃないぞ。
今じゃ総菜コーナーのレバニラ炒めを食べれるようになったんだ!」
「自分で作らないところ全然褒められないー」
「作ってまで食べたいものじゃないって事だよ分かるかな?」
うんうんと頷けば橘さんも沢田の細かな指示にホースの先端を移動させながら
「ええと、好き嫌いはよくないかと」
「今の時代他で栄養が補えるので問題ありません」
きりっとした顔で言える俺は立派なダメな大人になっていた。
「相沢ー、風呂ありがとー。
さっそくで悪いんだけどステータス見てくれる?」
「ああ、いいぞ。どれどれ……」
「やっぱりマロまでだともうレベル上がらないか」
「まあ、マロ自体がレベル15だからな。これだけ差が出るともうどうしようもないな」
「だけどその度にマロを倒すのだんだん申しわけなくって」
「美味しく食べて成仏してもらおうな」
何て言いながら岳がステータス画面を立ち上げて俺に見せてくれた。
沢田の指示を受けながら橘さんはいかにも「ステータス画面を人に見せるなんて」そんなどこか叱咤する目で俺達を見ていたけどそのとたんぎょっとするように目を見開いていた。
上田 岳 (22才) 性別:男
称号:疾走する斧使い
レベル:21
体力:258
魔力:190
攻撃力:271
防御力:224
俊敏性:286
スキル:火魔法
水魔法
土魔法
「一体これは……」
何なんだと言わんばかりに目を見開いた橘さんはホースを持ったまま唖然とした顔で岳のステータス画面を裏側から見て立ち尽くしていた。
岳が風呂に入っている時に打ち合わせして橘さんに秘密を見せて驚かせようと言うサプライズは想像以上に驚かす結果となり……
「あの、橘さん、そろそろやめてもらえませんか」
思いっきりホースの水を沢田にかけていた。
いやあ、水も滴るいい女。
俺はさっと沢田から視線をずらして岳の手を引いてダンジョンから撤退。
同時にステータス画面を消す。
スキルダンジョン外使用許可と言うスキルはまだ秘密にしていたい。
すぐそばで懸命に謝る橘さんの声となぜか派手に叩かれる音が響いた。
ダンジョン内でやりあってるけど大丈夫かなと思うも沢田は顔を真っ赤にして
「お風呂借りるから!覗いたら殺っす!」
なんて走って行った後ろ姿をみれば
「あーあ、やっぱり事故ったか」
「え?なにが?」
なんてラノベ展開ならお約束だろと本の中と現実は全く違う世界だと理解できる岳のかわいらしい所だよなとダンジョンの中を覗けば顔に沢田に手形を残した橘さんが壁と仲良くなっていた。
そして俺を見上げ
「違うんです。本当に事故なんです」
「ああ、うん。事故だよな」
なんて俺は橘さんのステータスを立ち上げる。
再度ぎょっとしたのは橘さん。
自分の意志ではないのに勝手にステータスがオープンされてしまい何が起きたのか全く分からないと言う顔になっていた。
橘 紫苑 (25才) 性別:男
称号:戦士
レベル:18
体力:203
魔力:―――
攻撃力:219
防御力:201
俊敏性:197
スキル:―――
「さすが自衛隊の人。マロを超えずにこのレベル。鍛えてますね」
にっこりと笑えばどこか脅えたように俺を見る視線を少し楽しい気分で見下ろしていた。
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