覚悟を問う
寝起きは最悪だった。
あの男の話をしたおかげで久しぶりに夢の中であの男と遭遇した。
おかげで顔を忘れかけていたのに思い出すという最悪の寝起き。しっかり覚えていた自分が嫌になる。
気分一新、リセットするためにも
「もう一度寝るか……」
ぱたんとソファに転がった所で
「相沢起きた?今沢田がご飯作ってくれてるから食べにおいでだって」
なんて岳は俺が起きた気配に気づいてか呼びに来てくれた。
「って、また寝るの?」
「夢見が最悪だったからな」
「えー?だったらハッピーな朝ごはんで嫌な事消しちゃえよ!」
なんて二度寝を決め込もうとした俺を抱えた強制的に外へと連れられてきてしまった。
「っていうかハッピーな朝ご飯ってなん……」
「あ、やっと相沢起きた!ご飯用意するからちょっと待っててね!」
言いながらすでにご飯を食べてた皆様の目の前には一口パンケーキやハンバーガー。フライドポテトにナゲットも山盛りだ。サラダもついてオレンジジュースも用意してある朝からヘビーな食卓だが
「確かにハッピーだな」
「悪いけど取り皿に取って食べてね!」
言いながら沢田は目玉焼きを焼き始める。
それはハッピーな奴に居ないのではと思えば
「千賀さん、林さんお待たせしました!追加の目玉焼きです!」
なんてハンバーガーのバンズのふたの部分を外してビッグ仕様のそこに目玉焼きをのせていた」
「なにそのちょーハッピーな奴!俺もそれでお願い!」
「うん、ちょっと待っててね。
先にほら、工藤は別皿だったね」
なんて工藤にも普通に目玉焼きを焼いてあげていた。
「ちゃんと普通にご飯用意するんだ」
あんなことがあったのにと遠回しに最悪な寝起きのせいもあって嫌味が口についてしまうも沢田は少しだけ俺を睨みつけるように
「私はシェフだからね。ご飯を平等に提供できなくなったら料理人として終わりよ」
苦虫をつぶすような顔で言う。
そういうプライドがきちんとできていたようで
「悪い」
八つ当たりのような真似に自己嫌悪と共に素直に謝ってしまう。
「気にしないで。別にここのダンジョンの給仕の人たちみたいな人間と一緒にされたくないだけだし」
言われて思い出す。
一人離れて食事をしていた工藤の料理、テーブルを囲んでいた人たちに比べてどこか冷めきったような何と言うか、何とも言えない違和感は思い出せないけど沢田はちゃんと見ていたようだ。
「すまない。斎藤が地上に居ればあんなことになってはなかったのだろうが」
言うも
「普通に檻に入ってたら白い米の飯なんて食えるわけがないからそれだけでもありがたいっすよ」
工藤は目玉焼きに塩コショウを振って一気に齧り付いていた。
「それは分かってるけど……
だけどせめて私の食卓の前では私がルールだから!出されたものは好き嫌いなく全部食べなさいよ!」
「はいはい」
どうでもよさげに工藤が返事をする横で
「当然です」
俺もその通りといって取り皿にパンケーキをトングでつかんだ分引き寄せてバターとメープルシロップをたっぷりと垂らせば朝からそんな甘そうなのを食うのかうんざりとした顔の工藤が俺を見ていた。
「いただきます!」
フォークで刺して一口で食べる。
「これ!となりの町にもないこの味最高!!!」
「だな。大手ハンバーガーチェーンがない町って言うのを知った時にはショックで本部の呼び出しのたびに食べてましたよ」
しみじみという様に林さんが頷く。
とりあえずと俺がとった分のパンケーキを食べたところで
「それで今日の予定だが」
タイミングを見計らったようにどうすると聞く千賀さんは俺にスケジュールを組ませるつもりのようだ。
昨日もそうだったように俺に主導権を渡すあたり結城さんに何か言われているのだろうなと思えば
「予定通りこのまま19階目指します。そして工藤のレベルアップを兼ねて戦闘をくりかえしていきます。マゾがこの先群れで出るので俺がいなくても対処できるように練習を兼ねて全員問題なく対処できるようになってほしいと思います」
言えば工藤の目が少しだけ大きく見開かれ、沢田もやっぱりそうなるかーと呻いていた。
「うちのダンジョンでも大学ダンジョンでも16階の出入り口は階層を渡った先に見える建築物にあります。大学ダンジョンでは実際には目視しかしてなかったのでこれが本当かどうかは分からないけど目標になるのはそこぐらいしかないのでそこを目指す予定です」
「確かに一番らしいところだよな」
「でもよ、その建物とダンジョンの出入り口の関係って一体なんだ?」
フライドポテトを食べながらの工藤の質問。
俺達はなんとなく察しているが知らないのは工藤だけ。千賀さんに視線を向ければ小さく頷いてくれた。
「16階以降は廃退した人工建築物の名残がある世界になる」
驚きながらサラダを食べる様子はどっちかにしろと言いたい。
「俺達の予想では中世ヨーロッパにあるような城と城を囲む壁、城下街を囲む壁、さらに領地を囲む壁といった拡大した領地の入り口がスタート地点になっている」
「中世と同じかよ」
黙って話を聞いていた工藤はサラダを飲み込んでの感想。驚きは隠せないようだった。
「人は誰もおらず、人の骨もない。誰が住んでいたかもわからなく人が暮らした痕跡は何処にもない。だけど石造りの建築物だけが残されていて、かつて誰かがいたという程度には想像はできる」
「なるほど」
なんて今度はナゲットを口に放り込む工藤。話を聞いているのか問いたいがその前に朝からよく食べるなと感心した所で目玉焼きが出てきて俺のハンバーガーに飾られた。サイコー!
俺は説明をやめてアツアツのパテにのせられたスライスチーズがとろけていくのをにんまりとした笑みを浮かべ、さらには黄金色の輝きを放つ目玉焼きがサンドされたところで差し出された沢田特製ハンバーガーに齧り付く。
「んっ、まっっっ!」
たらりと垂れる黄身のソースがもったいないけどそれよりも先に二口目に齧り付いてしまう。そう、黄身は先に食べてしまうに限るのだから、皆さんこの幸せを知ってしまっているだけに俺が食べる間は黙ってくれている。
「さいこー!」
舌の上を焼くように絡むチーズに耐えながらも全然ジャンクになってないジャンクフードと言うものに身もだえながらも沢田が俺の食欲を見て再びパテを焼きだす音を聞きながら
「そういえばあえて今まで口には出さなかったけど19階の城には骸骨の集団が出てくるから。20階の主はきっとネクロマンサーか何かだと思うから、覚悟しておけよ」
つまり、今まで虫や動物と戦ってきたけどついにヒト型と対戦する、その覚悟を促せば全員が黙ってしまったのをみて
「いつかは、なんて考えてみたことぐらいあるだろ?それだけだ」
そういって一気にハンバーガーを食べて腹を満たせば皆さん食事をする手を止めてしまった。
「相沢、なんでそんな重要な事を今になって伝えた」
どこか憤怒という表情で俺を見る千賀さんだが
「そうだな」
俺はオレンジジュースを一気に飲んで
「そういう奴らを倒してきた俺を知られたくなかったから、って言ったら今更って笑われる気がして」
驚きに視線が彷徨っていてもパテを焼いてハンバーガーを作ってくれる沢田が渡してくれたハンバーガーに齧り付きながら
「嫌ならそこは俺が一人で終わらせるから。みんなにはここから先がどんな世界か目指す20階の入り口までついてきてまずは体感してほしい」
言いながらスライスしたピクルスをハンバーガーから引っ張り出して、この塩気がたまらんと食べるのだった。
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