お猫様は『待て』を知らない

 口を閉ざしてしまった朝食ミーティングの中で俺はオレンジジュースを飲みほして立ち上がる。

 そういえばマゾを倒した時点で毒霧撒いておけばよかったと反省しつつ、ドアを開けたらあの鳥がいたらやだなと思いながらもちゃんとワンプッシュ。

 すぐに扉を閉めて更に蚊取り線香を取り出して火をつけてお皿の上に置いて再度扉を開けた向こう側に蚊取り線香を設置。これで完璧だ。

 まだ起きてきてない橘さん達を待つ間に効果は十分出ているだろう。

 振り返って戻ってきたところで心配、不安、緊張、無表情、そんな顔が俺を見ていたが

「どうしてそんな重要なことを黙っていた」

 さすが千賀さん。いち早く問題に取り組むという姿勢は隊長に選ばれるだけの頭の回転の速さが言うのだろう。睨みつける視線は居心地が悪いけど

「俺はうちのダンジョンさえ消滅できればいいんだよ。

 なのに協力を求めた自衛隊の方が弱いし、挙句に俺達を利用しようとしてる。まあ、結城さんはわりと話が分かる人だけど」

 たとえその時その時に合わせて俺達に合わせてくれる態度をとっているだけだとしても合わせてくれる分俺達の事をきちんと考えてくれているのはやっぱりマゾとのご対面が劇薬過ぎたかと思ったが

「だけど千賀さん達だって見ただろ?

 どこに行っても『お前たちが?』っていうプライドだけの人たち。

 意外と傷ついてるんですよ」

「立って寝てたくせにか?」

 しっかりご存じの千賀さんから視線を外して

「やだなあ。なるべくダメージを負わないように目を閉じてただけですよ」

 なんて言ってみれば林さんの視線が人としてそれはどうなんだという様は本当に冷たかった。ちょっと泣きそう……

 泣きそうだけど気を取り直して

「俺達は十分に情報を渡したと思います。物資も渡したと思います。なのに俺達の状況はどんどん悪くなる状態です」

「つまり、改善を求めているわけか」

 なるほどと林さんは言うが

「サービスじゃないけど大学ダンジョンの情報もかき集めたし、ここのダンジョンも千賀さんを通して情報が渡る。見返りが欲しいわけじゃないけどうちの攻略をもっと考えてほしいだけです」

 きっと人口が集中する地域を優先して日常の平和を維持するのが自衛隊の役目かもしれないが、人の多さとか考えずに少しは貢献度を汲んでくれてもいいじゃないか。もう少し人材を派遣してほしいというのが俺のささやかな要望だ。林さんの表情から見ればこれだけの高ランカーがそろっているのに何を言うという所だろうが……

「掛け合うだけ掛け合おう。水井班を呼び戻す。それでいいだろうか?」

「十分です」

 その言葉が引き出せれた。十分だと思えば少しだけばつの悪そうな顔の千賀さんが

「考えたら相沢に取ったら理不尽だったな。

 戦闘訓練なんて受けた事さえないのに魔物たちを倒し続けて。

 虫や動物から始まり今度はヒト型だ。それを仕事にしていたはずの我々がド素人さんに甘えているこの状況、確かに理不尽だな」

 うんうんと頷く千賀さん。

 何気なく俺を煽ってくるけどそれぐらいでは俺は乗らないよと少しだけ悲しそうな顔をしたままいるけど忘れてはいけない。

 我らには守護神・雪様がいらっしゃる。

 戦闘民族雪様は駆け引きというものを分かってらっしゃらない。

 急に背中を丸めて毛を逆なでさせる戦闘モード。

かっこいい!

なんて惚れている場合ではない。

 シャーッもフーッもまだないレベルだけど完全に千賀さんのお言葉にお怒りなようで。だけど俺的には何処までもかわいくてもっと煽ってくださいと千賀さんに視線で訴えてみる。当然無視されたけど。

 煽り耐性のない雪はそれでも空気を察してかすぐにお怒りモードを解く理由は単に千賀さんが少しビビっただけ。それなりに満足してくれたようだ。

 なんせダンジョンで走っている姿かいつもチュールで駄猫になってる姿の両極端の姿しか知らない人。

 うちの雪さんほんとイケメンなんです。

 なんて思っていればくるりと俺達に背中を向けた雪さんはいきなり神速で走り出し


バンッ!!!


 16階に続く扉に体当たりしてわずかに扉を開けてしまったと思ったらするりとその隙間を潜り抜けて


「雪っ!待てっ!」


 なんて言ったときにはすでに遅く初めましての秋葉ダンジョンを一人(一匹?)駆けて行ってしまい……


「沢田!俺追いかけるから!」

「え?!ちょ、まってっっ!!」


 引きとどめる声を無視して俺も荷物はそのまま雪の後を追いかけるように、やっぱりこの世界も入り口から見える建築物が確認され、きっとそこへと向かっただろう。いや確実に食料と言う敵を求めて駆けて行っただろう雪の後を追うのだった。




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