え?グローブの開発はしないのですか?
餌が良いと物事は確実に良い方向へと移動する。
その例が久野さんだ。
出会ったばかりの人だけどどう見てもマッドサイエンティストな性質。
「ああ、せっかくだがこの子と沢田君を少しお借りするよ」
「え?!ちょ、私も見学しーたーいー……!!!
手に入れたばかりの反物と沢田を捕獲してまた後で会おうねとものすごい勢いで部屋から出て行ってしまった。遠ざかる沢田の叫び声に呼び止める間もなく
「あれ良いの?」
久野さんと一緒にいた人に聞けば
「安心してください。武器類への情熱は常軌を逸してますが、それも天才的な発想がこの時代に追いついただけで、人間には全く興味は持たない性癖なのでご安心ください。
申し遅れましたが私、佐野和紀と申します。これよりご案内役は久野に代わり私、佐野が代理を務めさせていただきます」
身近な人がそう言うのならたぶん大丈夫なのだろう。
ああ、この人は苦労体質な人なんだなとどう考えてもここは実質彼が所長みたいなものだろうと考えるのは誰もが思ったか。とはいえ久野さん佐野さん。名前間違えておぼえないだろうか少しドキドキしてしまう。
そんなどうでもよくはないが間違った所で不安そうな顔になっていたのか林さんが安心するようにという顔で
「彼はとても優秀だがああ見えても彼女はその上を行く。
ただいまは君たちがこちらに送り出した素材もあって適材適所に人材が配置されているからね。
ああみえても君たちの武器の大半は彼女の作品だ」
なんてどや顔の説明。いい具合に勘違いしてくれてよかった。いやそれよりも聞きたいのは
「岳のバットもですか?」
なんて俺の突っ込みに
「もちろん。バット職人に一日だが弟子入りさせてもらってその技術を持ち帰り、部下たちに指導して作らせている。新人の訓練としてちょうどいいテーマだ」
「ちょうどいいのですか……」
何がちょうどいいのだろうと思うも
「芯を中心に均等につくるといった基本から降りやすさ、飛びやすさは今回は省いて振りやすさ、打撃時の反動といったいくつかの項目からほかの打撃系の武器にも応用ができる事が分かった」
「わかります!私も岳からバットを借りて使用してみたのですがアントの首がよく飛ぶこと!スポーツショップで売ってるバットとは全く違い、グリップから手に返ってくる振動がこれほどまで和らげることが出来るなんて感動しました!」
なんて残念な三輪さんの力説。
「バット、アントの首……」
分かっていたとはいえまさか岳と飛距離を競っていたヤバい時代があったことにさすがにほかの皆さんも引かれてしまっている。
「今となればレベル差が開きすぎてその前にだめにしてしまうのでそれも難しくなりましたが……」
やだ、このサイコパス。照れてるよ。
まったくかわいくない発言ってこと誰か指摘してよと思うも
「そうだ!ボールもありがとうございます!
アントの頭直ぐにダメになっちゃうから俺達が野球をやっても潰れないボールを開発してもらってすごく助かりました!
おかげで天使とか蝙蝠とかラスボスとかの討伐にものすごく役に立ちました!」
「ええー、あのボールここで開発してもらったやつなの?」
まさかの新事実。
ネットで買ったんだと思ってたのにバットどころか野球のボールまで手配してたなんて……
「ああ、あれも君たちが送ってくれた素材で作たんだ。
なかなかいろんな種類の素材を使ってみたのだが普通に空自の野球部の皆さんに使ってもらったのだが中々に好評だった。ただ残念な事に硬式ボールとは認定されなかったけどね」
偉大な結果を軽く無視して自分の仕事に集中できるその能力、久野さんの部下だけあると納得ができた。うん。
「って言うか野球部があること自体知りませんでした」
「いや、部活はないよ。勤務時間外に厚生活動が出来て、補助もちゃんと出るからね。そんな方たちに協力を得てバットの使用感も実際に試してもらっている。
ほしいという人もいるのだが譲っても?」
なんていきなり交渉が始まった。
少し前の俺ならどうぞどうぞと渡しただろうけど今の俺はスマホを取り出して
「オークションだと新品で一万円ぐらい?違った。ピンキリか……
期間限定でモニターになってくれた人にはプレゼントでそれ以降はオークションにかけた金額をもとにって言うのはどうでしょう」
「買える値段になるかな?」
何せこの国では野球ファンが多い。さらに子供の為にお金を出し惜しみしない親も多い。そして趣味の為に歯止めの利かない大人も多い事……
「大量に作って価値を下げればいいと思います」
きりっとした顔で言い切れば部屋の片隅から呻く声が響き渡る。
きっとバット作りに参加人なんだろうなとなんだか悪夢を見せてしまって申し訳ないと思ったけど
「とはいえそれほど大量生産するほど木材の確保があるのだろうか」
いくら今うちがトラックでも余裕で通れる車幅を確保できた道のある家とは言えそこまで輸送コストをかけるものかと言いたいのだろう。
だが安心してください。
「薪として確保した木なら大量にあります!
今なら場所さえ提供していただければすぐに素材をお渡しできます!」
「よし!全員で機材を格納している第三倉庫を空にしろ!!あと一応虫がついていると危険だから防疫対策……」
「あ、虫とかは収納した段階で叩き落とされるみたいなので安心してください」
そう。変な虫がついてきて山で繁殖したらやだなと思って毒霧は撒いておいたとは言え実験したら気に寄生する虫とか葉っぱに卵を植え付けた虫とかすべて収納に拒否られた素晴らしい仕分け能力。
ただしそのあとに残された虫の山に悲鳴を上げたのは俺でなくとも無理はないというくらいの光景。
速攻で沢田が焼き払ってくれたからよかったけど……
俺の収納も持ち主と同じで虫嫌いで助かったよ。
妙な仲間意識を持つなと言われてしまった。
「だったらさっそく移動だ!あとお隣の陸自の皆さんの協力を仰げ!」
なんてやっぱり久野さんの部下だから仕事が早いというかそうならざるを得なかった人は確かに有能だなと俺達も倉庫に移動してとりあえずこの後の予定もあるので木材だけを排出させてもらっていつ何時でも出動態勢の取れる陸自の皆さんによって大騒ぎになってる倉庫を失礼させてもらうのだった。
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