なんでユニフォーム一つにこんなにも疲れなければいけないのかという話

 倉庫を案内してもらって次に案内されたのは……

 

「採寸ですか?」

「はい。自衛隊の人たちのサイズになるとどうしても大きくなるからちゃんとサイズを合わせるように言われてます」

「結城一佐ですか?」

「いいえ、うちの所長の判断です……」

 女性、男性が入り混じる教室のような一室に連れてこられて身長、首回り、腕の長さなどサイズをはかられてしまった。

 さらに質問に答えてくれた人もとっても申し訳ないという顔で事情を話してくれたけど

「別に隠すようなことはないのでどうぞ」

「ありがとう。だけどお友達君が……」

 指をさされた方を見れば何やら楽しそうな光景。

「あ、あの、自分で脱げますから!」

「フフフ、手伝ってあげるから安心して?」

「いーやー!」

 なんてない胸を両手で隠して逃げる始末。

 うん。

 あれだ。

「気にしないでください。

 あれ、ゲームのイベントのミニドラマの再現だと思うので。むしろそっとしておいてください」

 確かリムたんが負傷してやたらとナイスバディなお医者様に服を脱ぎなさいと押し倒されるそんな内容だったとか。

 岳が常時動画撮影の時リムたんの何やらグッズを身に着けているのでリムたんの認知度は上がっていることは聞いていたが、そうなるとどんどんイベントに起用されたりしていく課金システム。当然ながら動画のエンディング後にゲームでガチャる姿を流すのでゲーム運営会社も気合を入れてくる始末。イメージカラーも抹茶色とか抹茶をたしなんだり袴を着たりとするリムたんは肌色防御率の固い地味キャラだったのに今となればあら不思議。脱いだらすごいのよキャラに大変身。その結果件のスク水だったり魅惑のお医者様に襲われたりと中々に運営の攻撃はえげつないなと岳に誘われてやってる程度なので俺的には復活イベント込みでアイテムコンプリートを目指しているぐらい。なかなかやりこんでるというなかれ。たんに岳のチェックが入るからガチャをまわす程度。ちなみにいまだに俺はリムたんのキャラクター名を知らないのは割愛。

 そんな事情を話せば俺を採寸してくれている人も

「そうね。彼もゲーム好きだったわねって……」

 何やら友情が芽生えたようで固く手を握り交わしている様子と謎の満足感。

「うちではこういったファンの交流っていうもの一切ないので山に帰るまで満喫させてあげてください」

「気にしないで。彼もコスプレ衣装作るために縫製の技術を磨きたいとかいう子だから」

 だから数ある開発部門でも装備副担当に居る事を理解する。

 とはいえ何やらすでに大まかなデザインは決まっているようで

「結城一佐から今後も会議に顔を出してもらったりすることもあるかもしれないからスーツを作るように言われているの」

「なるほど、だから採寸なのですね」

「あとこういう職業柄どうしてもなくなってしまう人はいるから。

 そういったときの礼服、それもそろっている方がいいだろうって一佐からの提案なの」

「まあ、祖母が亡くなった時はかろうじて高校生だったから」

「そっか。大変だったね」

 なんて定型文の言葉かもしれないけどそこは今になっても有り難く感じる。

 本当に大変だったからね。

 喪主(婆ちゃんの長男)は途中で仕事だからと消えるし、お袋は葬儀に消極的だし、叔父たちはお香典をネコババしようとするし、従妹たちは一切手伝おうとはしないし。

 結局村の同じ集落の人が中心となってお葬式を上げてくれたという何とも情けないお葬式だったことを思い出す。

 まあ、ネコババの件は婆ちゃんが雇っていた弁護士の一言ですぐに全額戻って来たけどそれでもお葬式やお香典返しとかは足が出たのだ。その分は婆ちゃんの貯金で足りたけど……

 まさか自分の母親の葬式代を俺に押し付けるつもりじゃなかったのかと、まさかななんてことは考えずに村の人たちにぼやいてみたのは別に親父とお袋のダブル不倫の件で味を占めたからなんて言わない。ホントダヨ。

 そんなお葬式を思い出しながらも戦闘時の俺達のユニフォームのデザインを見せてくれた。

 うん。

 どう見てもジャージだった。

「あのこれ……」

「ええと、サワさん?沢田さん?

 いつも着ているジャージスタイルが一番動きやすいだろうからって?」

 いや、それはない。

「せめて繋ぎとか。脱ジャージスタイルが希望だったのに!」

「レベルが上がってるかどうか分からない選択ね」

「ちなみに希望はせめてダンジョン対策課レベルが希望です」

 きりっとした顔で言っておいた。

 そしてさりげなく三人分の反物とわいろに一つ。

 「沢田の希望は叶えてください。

 そしてこれは久野さんにばれないように何とか融通してください」

「やめて。こんな堂々とした賄賂もらいたくないから」

「ダメですか?」

「もらっても魔物から作った武器を応用した鋏じゃさみじゃない切れない事はもうわかってるからもらっても何もできないから」

 まさかのそんなお断り。

 だけど彼女が言う事から想像すると

「それじゃあカーテン作れないじゃん?!」

「ええと、ダンジョンさんの武器あるよね?それならたぶんよく切れる奴を使えば切れると思うよ?

 魔象レベルなら大丈夫だから」

 まさかの既に実験済み。

 油断できねえなんて思っていれば

「久野さんは目新しい素材に夢中になると周囲に目がいかないし佐野さんも久野さんのお世話から解放されると素材に夢中になるし。

 各部門長たちは結局自分たちがしっかりしないとって頑張るしかないのですよ」

 なんて苦笑いをする彼女に

「ちなみにここの部門長は?」

「あ、彼です」

 岳と一緒に今もキャッキャ騒いでいる人がそうらしい。

 そうか。

 そう言う人が上に行くのか。

 なるべくしてなった組織なんだなと心を無にしながらダンジョン対策課のユニフォームを真似した俺達のユニフォームを作ってもらい、後にそれが俺達のトレードカラーになるのだが……


 まさか敵は内にありという言葉に翻弄されるとはこれ如何に。


 沢田のジャージ案に対して二対一の結果になっても俺がわがままを言ってダンジョン対策課のユニフォームにもよく似た、だけどもっとシンプルで落ち着いた色愛の色違い三色が俺達のユニフォームになる……

 なんてわけがなく攻略中は色違い三色、それ以外はジャージというなんとなく負けた結果を残すのだった。まあ、いいけど……





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