強さの代償

 特に意見がないとはいえユニフォームは大体決まったようだ。

 沢田のまさかのジャージ選択にガチで止めにかからないといけない案件なのは先ほど何とか乗り切ったので次は武器作りの様子を見に行くことになった。

 

 因みに沢田はまだまだ拘束中。久野さんに憑りつかれた様子に無事戻って来れる事を願う事にして


「ここが君達にも提供する武器を作っている現場です」


 佐野さんに案内されたのは一つの倉庫のような場所で……

「あ、ほんとだ。バット作ってる!

 ねえ、俺あっち見に行ってきていい?」

「まあ、確かに作っているな……」

 倉庫の片隅、決して明るい場所ではないけどたくさんの木くずでできた山を眺めれば何やら黙々と作る方々に申し訳なくなってしまう。

 しかも元凶の岳が大きな声で


「こんにちはー!いつもかっこいいバットを作ってくれてありがとうございます!」


 機械音にも負けない声に周囲の方々もぎょっとしていた。

 なぜここに民間人が、だけど俺の隣に立つ佐野さんを見て納得。話ぐらい聞いていたのだろう。俺達が見学に来ることを……

 少しだけ遠い目をしていた皆さんに俺達偉業を成し遂げた冒険者に対する視線じゃなくね?なんて思うもひたすらバットを作らされる日々。さらに追加された素材の木材が大量納品されたことを噂で聞いたのだろう諸悪の根源と共に。

 だけど今の岳にそんな嫌味は通らない。馬の目の前に人参をぶら下げてじゃないけどそんな似たような状態の岳に通じるわけがない。

 千賀さんとか佐野さんとかそんなお守りをつけてる俺達にとやかく言う人間はなかなか居ない自衛隊の階級社会。結城さんをつければ完璧だったのね。というかここで結界を使えばどうなるだろうか。ちょっと好奇心はあるけどそれで何かあったらガチでショック受けそうだからそれはやらないでおく。

 因みに武器の制作現場は申し訳ないけど今の俺にとってあまり面白みはなかった。

 なんせ蝙蝠男から乱獲した剣があるからね。

 因みに最大四本出てきたところまで確認している。

 最後の方が短剣になっちゃってるのがなんだか申し訳ないけど、使いやすそうなサイズだからとりあえず山暮らしメンバーの分を捕獲するまで出させることが大変だったことを思い出した。

 宝箱には剣らしいサイズの剣しか出ないからね。

 そのうえ隙あらば魔法を使ってこようとするのが怖い。

 そしてちょっと気合を入れて退治しようとしたら剣を出す間もなくすぐ終了。

 ほんと困った。


「うまくいかないなー」


 なんてへこんでいたら岳が雪を抱いて部屋のすみっこで無言で三角座りをして退屈そうにさせて申し訳ないと思ったけどね。え?違う?まあ、怪我がなければ問題ないけどね。

 そんなこともあって手持ちの剣がそれなりにあるので武器開発はちょっと興味を失っている。


「相沢見てー!ダンジョン産素材で作ったパチンコだって!

 いま遊ばせてもらったけど面白いよ!」


 なんていつの間にか岳は開発部の人と一緒に倉庫の片隅の実験場みたいなところでパチンコで的当てをして遊んでいた。

「いや、あいつなんでって言うかなじみすぎだろ」

「まあ、たまには無邪気に遊んでもいいお年頃だろ」

「俺が遊んでみても?」

「請求書を送りつけてもいいのなら」

「ならおとなしくしてようか」

 ガチな目で見られてしまったのでここは言葉通りおとなしくしておくことにする。

 おかげで岳がきゃっきゃと何やら楽しそうな雰囲気だったから林さんに岳をお願いして俺達は次の場所へと向かう。 

 そこで見たものは……


「君たちに渡す武器を実際に手にして訓練をしているダンジョン対策課候補生の方たちだ」

 

 佐野さんから紹介された顔ぶれはどれもが若い顔立ち。

 むしろ俺より

「ひょっとして年下?」

「年々若年化するのは当然だ。

 とある私学の高校だったり通信教育では来年度ダンジョンで冒険者になるための募集を行っている」

 つまり高校生たちがダンジョンに乗り込むことになるという事。

「無謀、ではないですか?」

 なんとなく口にした言葉が震える。

 だけど千賀さん達はその光景を感情もなく見守りながら


「10階の壁を越えて未知の世界に飛び出すことが出来るようになったのだ。

 人出はいくらあっても足りない。そして資源の宝庫の世界。

それを見過ごす社会があるだろうか」


 ないでしょう……


 口に出せない言葉に呆気にとられながら


「今はもうダンジョンは娯楽施設であり、資源の倉庫でもある。

 魔物を何とかする事さえできてダンジョンのルールさえわかれば共存していくことも可能だろうかと言い出している国もある」


 まさかもうそんな話になっているのかと驚くも


「ダンジョンは潰せるもの、それが証明された以上ダンジョンとどう付き合うのかが今後の我々の課題だ」

「いや、そんな課題俺かかわりたくないんだけど」


 まさかトイレを復活させるために頑張ってきたことがこんなにも世界を変えてきていたなんて想像もしなかった、というのは嘘になるかもしれないがもっと先の話だと思っていたのに今起きているなんて……


「それでも誰よりも先頭に立っている相沢に我々は期待している」


 何が、なんて聞くまでもない。


「ずるいですよ」


 あまりにもの重みに声が震える。


「相沢は賢いから、隠してもごまかしがきかないから言わせてもらう。

 これは許せなんて到底言えない事だ。だけど!!!」


 俺同様震える声の千賀さんの声を聴きながら目の前で覇気を迸しながら訓練に取り込む気合の入った新人のダンジョン対策課の訓練をぼんやりとにじんだ世界の中で暫し見学させてもらっていた。

 

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