たまには社会見学でもしましょうか

 のどかな田舎の風景は階を超えるたびに文化的な物も目にするようになる。

 石を積み上げて作る竈。

 石を積み上げて出来た家。

 隙間を埋めるよな漆喰。

 風化して無くなってしまったけど窓らしき場所もある。

 二階に上がるように漆喰で塗り固められた階段もあれば家の近くに小さな小屋だったものも残っている。

 馬だろうか、そう言った生き物も飼っていた様子もうかがうことが出来たがたぶん馬だろうな……

 半分は馬だと良いなと思うのはこのあたり生息する馬によく似た姿の魔物がいる。いるのだが馬の姿なのに角が生えているのだ。

 一角獣的なかっこよな角でもなく、山羊のようなグリングリンに渦巻いた角でもなくなぜか牛のような角がチョンとついているのだ。

 

「お前どっちなんだよ!!!」


 俺だけではない突っ込みは千賀さんさえ叫ぶ通称牛馬。

 決して


「この牛っぽい馬おいし~! うしうま~!」


なんて岳が言ったからではない。

俺達全員が思ったかもしれない言葉を代弁してくれた勇者をたたえるように食べたうしうまは


「馬の姿なのに牛のような肉の味ね。

 だけど馬みたいに赤身ばかりで……」


 美味しくない。

 食材に対して文句を言わない花梨だがこの時ばかりはすごく悲しそうな顔で評価した。

 そう。

 牛の味の馬の素質を持つ、いわゆる赤身ばかりのお肉。

 オー〇ービーフですらそれなりに脂身があるのに体のつくりが馬なのだろう。

 美味しい馬肉もあるというのに、味の基本が牛なのだ。


「おいしくなーいー」


 焼いて食べれば牛臭さ漂うお肉。どうやらメスだったようで乳臭さまである。

 それを好む人もいるがあいにくこの場には一人もおらず、全員に顔をゆがませるレベルだがそこは花梨。

 煮込んで煮込んでさらに煮込んで美味しいシチューや美味しいカレーに大変身してくれたのだ。

 故に岳の美味しい発言に繋がるのだが、あのお肉を美味しいとまで言わせる料理と言う文化ほど素晴らしいものはないと俺は思った。


 そんな出来事を思い出しながらたぶん馬小屋だろう跡地を眺めていれば

「あ、馬小屋だ。

 異世界でも馬小屋って似たようなつくりだねー。なんか残ってるわけないのに馬のにおいがするって言うかさ、どの世界も変わらないね」

 残された基礎に触れながらあははと笑う岳にサイコメトラーの素質でもあるのかと思うも口にしない。

 きっと俺達がダンジョンにエントリーしたことに気付いているだろう借金鳥がどこかで注目している事を思えば下手な事は言えない。岳を俺みたいな変人の仲間入りにさせてはいけないという様に

「そうだなー」

 なんてただの嗅覚が敏感な人と言うような言葉で岳を守る。

 というか、ダンジョンがかなり変な進化をしている理由の半分は岳だと俺は思うのでこれ以上ダンジョンが変な事を覚えないようにするのが俺の使命だと思っている。

 ダンジョンのかなり変な進化をしている理由の半分が俺だと自覚しているだけにそこはこれ以上変な事を覚えさせないように気を付けなければいけないと思う。

本当にね。

 

 俺達は比較的保存状態の良い一軒の家野ルームツアーを楽しみながら文化を学ぶ。

 基本は石造りに漆喰を塗ったような家。

 大きな家になればなるほど漆喰の使用率が高いがあいにくこの家はその中間層の家だった。

むき出しの石と石の合間を埋める漆喰、すでに汚れて白さはないが、本来白いのかどうかなんて俺は知らないから気にしない。

 床は木だったのか抜け落ちて地面がむき出しだ。

でも地面ではないという様に壁の近くには木だった部分も残っていて、それだけの月日が過ぎていた、という時間の経過として受けとめる。

 

 階段に導かれて上がれば三階建てだっただろう先に天井はなく、二階に上がる階段より圧倒的に細い階段に三階は物置だったことを想像する。

 

「我々の世界のこの時代から考えると三階は物置だったり洗濯物を干したりする場所だっただろうな」


 伴さんはそういう。


「地面がぬかるんでいる割には空は晴天。きっと雨の多い地域なのだろう。そうなると洗濯物は風通しのいい場所と考えられるから、屋根裏が使われる。ヨーロッパ地方にもある生活だ」

「ふーん?」

 そういうものかという様に聞けば


「洗濯物は外から見えないように干すのが基本だが、日本と圧倒的に違うのは太陽の力で乾かすのとは違い風の力で乾かす。ここの地域の気候を観測したわけじゃないが、家の各所にカビがはえているのを見てわかるように湿度が高い地域だ。よって漆喰のような文化が生まれたのも理解できる。

 なら後は生活の知恵だな。

 地面からの湿気の上がらない、なおかつ風通しの良く人の目にも触れにくい屋根裏を使う。理にかなった生活をしていた文化人と言うわけだ」

 

 誰ともなく拍手。

 勉強して得た知識の豊富さに感心している橘さんや三輪さんとは別に


「俺の小さいころにあった家に良く似ていたからそう思っただけなのに異世界でも同じこと考えてる人がいたなんてすごいよな!」


 実体験をもとに感心している岳。

 この何とも言えない空気に俺と林さん、そして慌てて追従するかのような千賀さんの拍手。

 けっ!なんて笑い飛ばせる工藤の存在をありがたいと思いつつまさかの昔話のような生活の体験した記憶を持つ岳の存在に何とも言えない伴さんたちお三方。

 田舎を舐めるなと言いたいところだけどこんな生活は普通に未だにざらにあるよと声を張り上げて言いたいのを我慢してこんな事も知らないのかと言うような目で見る俺は立派な岳と同じ村の人間だという事を少し誇りに思うのだった。







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