俺達の明日

 階ごとに少しずつ文化色が強くなる世界を堪能しながら伴さん達が無事追いついてくることのできるスピードで走り抜ける。

 時々少しだけ弱らせた魔物と戦闘もさせながらレベルアップを図る。

 その間俺はしっかり初めましての世界を楽しみながら観光をしている。

 なんたっていつもの雪と距離を取りながらの冒険じゃないからね。

 伴さん達の面倒は千賀さん達が見てくれているし、ナンバー3の岳が万が一を想定してちゃんと周囲に気を配ってくれている。

 雪は相変わらずお散歩を楽しんでいるので、俺はたぶん二度とここにはこないだろうとこの街の文化を堪能している。雑草だらけだけどめげずに足を進める。

 因みに花梨を誘うも

「伴さん達にお肉ボロボロにされたらたまったものじゃないから私は一緒に見てるから」

 ちゃんと食べれるようにお肉を守るからと主張する花梨だけど食材が相手なら仕方がないと俺は空き家拝見と小さな冒険を楽しむのだった。当然虫は駆除してだ。


 すぐ近くで「ぎゃー!」「わー!」と言う楽しそうな悲鳴を聞きながらこの町一番の大きな邸の一番高い所に座ってその様子を眺める。

 いつの間にか隣にチョンと座る雪に


「ずいぶんいろんな世界を見てきたな」

「な」

 

 時々人間と同じ言葉で返事をしているような感じもするがそれを俺は気にしない。

 猫だってそんな声を出すという事を知っているから気にも留めない。


「雪、実は俺大変な事に気が付いたんだ」

「なう?」


 どこか不安げな声に


「借金鳥が言うには天使と蝙蝠がいる数だけダンジョンが発生する可能性がある」

「にゃー」


 まさかと言うような声だが


「いやいや、最悪は常に考えるものだぞ?

 とりあえず俺の最悪は、あいつらがいるだけでダンジョンが発生する可能性があるってことだ」

「にゃっ!」

 

 頼むから目をキラキラさせて期待しないでもらいたい。

 だってそこはダンジョンだ。


「この国に発生するかどうかもわからないから期待はするなよ」

「なー……」

 

 愕然とする雪の顔。 

 って言うかしょっちゅうそこらへんにダンジョンができてたまるかと俺は思う。

 

「つまりだ」


 俺は一つ深呼吸をして


「この先ダンジョンにもっと行きたいと思うのなら俺より結城さんと一緒に居るほうがダンジョンを楽しむことが出来るぞ」

「……」

 

 人の言葉を理解しているという様に絶句する猫を見ないまま


「俺はあんな奴らがいるダンジョンに好んで潜りたいとは思わない。

 どれだけ強くなろうがダンジョンなんてバッチィ場所に入りたくない」

「……」

 

「水井さん達を引き連れてダンジョンに潜るのもいいと思うし、工藤を連れてダンジョンに潜るのも俺は反対をしない」

「……」

「山に帰るという事はもうダンジョンに潜らないという事だ。

 そしてダンジョンが楽しければ俺から結城さんに話して水井さん達にお願いしようと思う」

 ボスッ

 言えば思いっきり猫パンチを頂いてしまった。あざーっす。

 これはどっちに対して怒っているんだよと思うもごろりと横になっておれに体重をかけてくる雪。

 やがて暖かくなる触れ合う部分に雪の優しさを感じるしかなくて……

「また退屈な山生活になるぞ」

 ボスッ

 再度猫パンチ。

 こういう所かっこよすぎるだろと言葉は通じなくても通じ合うものを持つ相棒に俺は楽しそうな悲鳴を上げる一行を眺めながら

「ダンジョンは楽しいかもしれないけど、やっぱり山がいい。

 さっさと攻略して帰ろう」

「にゃ」

 言いながらも立てずにいる俺に付き合う様に寝そべる雪は温かな日差しが心地よいと言わんばかりにゆっくりと尻尾を揺らしていた。

 とはいえお肉を収穫、ではなく敵を殲滅したら移動しなくてはいけない。なぜならお肉がないから!なんてことはさすがに言わないが……


「遥ー!雪ー! 次の街に行くよー!」

「今降りる!」

 

 未知なるお肉ではなく食材を求め冒険を楽しむ花梨。山ほどかられたお肉には笑うしかない。

「雪、回収しに行くか」

「にゃっ!」 

そう言ってひょいと飛び降りる高さは三階建ての家の屋根が壊れた所。

このステージでは14階でもないのに立派な建物だなと感心しながら俺も雪と同じく飛び降りる。


「また派手に狩ったなぁ」

 感心すると言いう様に見上げるお肉の山をしばらく眺めてから伴さん達を見る。

 このお肉の山については何も言えないくらい疲弊しているお三方に俺は源泉水入りのペットボトルを差し出した。


「こんな所で疲れているようでしたら攻略何てできませんよ。

 さあ、水分補給したら次、行きましょうね」


 これだけの数の飼物を倒したというのに俺を見て顔を青くするその様子。

 おかしいな、源泉水だからすぐよくなるはずなのに……


「相沢、初めての場所での活動なのだからそれ以上追い詰めるな」


 林さんがそうたしなめてくるけど俺は初対面の人達に変な印象を残さないように可能な限り人の好さそうな顔をして


「やだなあ。俺の行く先々は常に初めまして何だから。

 これも慣れればスリルとワクワク、子供心が残っていれば冒険を楽しもうじゃないか」


 なんて俺の言葉をどう受け止めたか知らないけど顔色をさらに蒼くする皆様方。

 俺、何か間違ったこと行ったか?なんて言えば頭にしたたかな痛み。


「楽しむ余裕のある者の言葉だ。

 お前の言葉ならイージーモードでここまで来た皆様にこのベリーハードなお前のテンポに付き合えるわけないだろう」


 千賀さんからチョップを頂いていたようだった。

 振り向いて千賀さんを見るも仕方がないガキだなと言うような優しい視線。

 だけどその背で守るお三方の方が面白い顔をしているので俺は人畜無害ですというような顔で


「なに言ってるんです。

 ダンジョン攻略自体がベリーハードじゃないっすか……

 一階からいきなりラスボスがお出迎えってどんだけ地獄だよって思うじゃないですかっ!!!」


 どこまで言った所で人畜無害な顔は止めてGと対面したことを想像した瞬間気持ち悪さから涙が出てきた。


「そうだな。

 お前の場合いきなりラスボスとご対面だからな」


 いきなり泣き出した俺に納得の千賀さん。

 レベル1のラスボス。

 まさかのアレに本気で涙を流す奴がいるのかと信じることが出来ない伴たちの困惑した顔にこいつらとも仲良く出来なさそうだなとふてくされる相沢だった。

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