お散歩は安全に

 5階からは昆虫系と一緒に動物系も出現する。

 昆虫系も蜘蛛や蜈蚣と言った害虫が増えて行く。


「このダンジョン作った奴ぜってー人間が嫌う物をちゃんと研究し尽くしてやがる……」

「確かにそうね。ここから先に出てくる動物系も嫌な奴らばかりだもの」


 蛇に蜥蜴に蝙蝠……

 確かに万人に受け入れられる動物ではない。しかし


「あいつに比べたら可愛いもんだろ」


 一階に住む黒くてデカくてテカテカしたあいつらの事を考えればたいした問題じゃない。


「それに兎とか鼠とか栗鼠とか、寧ろ女の子達がカワイイって言う奴らも居るじゃないか」


 何の不満があると聞くも岳も沢田も俺を睨みつける視線で


「かわいいのは見た目だけ」

「可愛いと言う化けの皮をはげば、奴らは総てを食い尽くす悪魔の使いだぞ」


 兼業農家が言うにはどこからか現れては備蓄した物を好き嫌いなく食べて行く性質の悪さはあいつらと何ら変わりない。むしろ簡単に袋を破って食い漁る分更にたちが悪いと言う。

 そんなもんかねえ?

と、猫の住まう我が家ではなかなか寄り付いて来ない害獣の恐ろしさが今一つ実感できないが、それでも沢田の家の店が出す自慢の手打ち蕎麦の収穫した蕎麦の実を食い荒らされた時は、恐ろしくて声も掛けれなかった事を思い出せば可愛いに分類されるだろう沢田の中身も悪魔の使いと言うのに納得はできたが、何故か沢田に殴られたのは未だに納得できない。


「希望はまたウサッキーの肉食べたいんだけどな」

「まあ、相沢がビビらなければ7階まで足のばしてみる?

 レベルは十分足りてるし」

「討伐の経験が無いくせに無駄にレベルが高いってほんと腹立つわ」

「まったくだ」


 そう言われても俺だっていつの間にこんなにレベル上がったんだよって俺だってレベル通りに身体鍛えたいって思っているのにと、心の中で涙を流しておく。

 そんな間にも鼠や蝙蝠がやってくる。

 ネットで見るよりもでかいなーなんて感心した直後、沢田と岳にボコられて動かなくなっていた。


「これって動物愛護の観念から見るとどうだろ?」


 ネットで見る時はモニターの向こうのお話の様な気分で眺めていたが、現実はどうなんだと問えば


「人間に害を与える存在、人間の敵、相容れぬ存在、共存できない者同士、絶滅しても構わない生き物、この世界を乗っ取ろうとする相手に容赦はいらない。

 よって、動物ではない為に愛を持って守る必要はない」

「どっかの教官の口癖だな」


 ネットでもちょくちょく出るハンドルネーム『オラが軍曹』の口癖だ。

 すでに消えた存在だが、この口癖と口調が強烈だった為に今もネット上ではネタとして生き続けている迷言をの残した偉大な軍曹だ。


「そういや軍曹で思い出したけど、昼に弁護士の小田のじいさんの所に行ってきたんだけどよ、とりあえずダンジョンの発見申請しておいた。

 近いうちに自衛隊の人と行政の人が来る事になって、それまでにうちの所有地内の発見だからオープンにするかクローズにするか考えておくようにって。

 オープンにすれば冒険者からの入場料って言う収益が見込めるし、クローズにすれば自衛隊の管理になるみたいだ。

 自衛隊の管理はオープンでもするけどな。

 一応家の中だからクローズの方向で行こうと思ってるけど、そうすると俺達も入れなくなる。

 場所も俺ん家だから最悪家乗っ取られるかもしれないし、オープンにしても場所が場所だからな。収益の見込みなんてなさそうだし……」

「相沢、悪いけどその話は岳がいないときに聞かせてくれないかな?」


 ちょっと待ってと沢田がストップをかけてきた。

 何で?と眉間を狭めれば


「難しい話に岳が苦しんでる」

「お前は1階のあいつら並みだな……」


 おーぷん?くろーず?しゅーえき?じえーたい?ぎょーせー?

 なんて、頭がショート寸前の岳に掛ける言葉はただ一つ。


「折角だから9階までいこーぜ?」

「だったらよゆーでウサッキー捕まえて帰れるな!」 


 理解できる会話に戻った途端復活する岳の現金さに俺でなくとも沢田も笑う。


「とりあえず参謀役としてダンジョン出たら話を聞いてくれ」

「了解。

 にしてもほんと小難しい事でさえ弱いよねー」

「無事高校卒業できたのが奇跡だ」


 確かにと頷く俺と沢田の目の前で一人でひゃっほーと魔物を屠って行くジェノサイドぶりを生暖かく眺め


「相沢、小さくないけど小動物系の魔物にも魔法が通じるか試してみてよ」

「ああ、動物愛護以前に精神的によろしくない光景だよな『毒霧』」


 ぷしゅっと手から魔法が放たれて暫くすればそれっきり魔物が出なくなった。

 というか、魔物が足元に横たわって痙攣していた。


「うおー!

 マジ?!見てよ!!

 魔物狩りだぜ!

 拾って持って帰ろうぜ!」


 別に戦わなくてもいいんだと呟く沢田だったが、岳がちょろくてホント助かった。血肉の飛び散る通路を通らなくて済むと言うだけで俺はほっとしてしまった。

 この行為が無駄にレベルを上げる行為と言う事をすっかり忘れて、8階、9階と毒霧を使ってダンジョンをお散歩するのだった。



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