水井班、文明のありがたさを思い知る
想像以上に満たされた腹。
自衛官としてはあるまじき接待を無条件で受けてしまった。
さらに言えば全員ほぼ徹夜。
宿舎を作る為の資材を取りに行く隊員も寝不足。
資材が届くまでの間に地盤を固める作業部隊も寝不足。
「最悪だ……」
とりあえず資材を取りに行く隊員には早々に酔いつぶれた奴に運転を任せて他の奴らは寝させておいて向かえばいいと言うあるまじき指示をして残った俺達も
「酔いつぶれて寝た奴が作業にかかれ。
朝まで起きていた奴はとりあえず寝ろ。昼に交代だ」
そんな振り分けは自然と別れた。
仕方がない。
沢田だったか彼女は恐ろしいくらい胃袋を刺激する飯をひたすら俺達に食べさせてくれた。
体を作る為に食べていたと言うのも間違いではない俺達が腹がはち切れんばかりに自ら食べたくなるような食事を次々と用意してくれて、それを完走したものと途中で脱落した者と言う篩い。
全部食べて寝る権利を得るなんて誰が納得するかと言う所だろうが、膨れ上がった腹を見て
「うわー、ありえねー」
「筋肉伸び切ってるぜー」
なんて侮蔑の声を想像するが容易いくらいの罪悪感を抱えてからの
「怪我する前に少し休んでください!」
なんて部下からの提案にはもう情けないを通り過ぎて……
班の存続、否、俺の降格を考えての部下からの提案。
ありがたく受けさせてもらう選択以外俺にはなかった。
そんな感じで昼間で休ませてもらう頃には資材を受け取った奴らが戻ってきて……
こちらは人数が減った分宿舎を作るのが遅くなった。
「私は皆さんと同じ仮設所での寝泊まりに文句はありません」
きりっとしたまだ若い防衛大出のエリート様の言葉に俺達が文句があるのだがと言う言葉は階級が上の相手には言うことが出来なかった。
折角の周囲の視線のない田舎生活にはっちゃけたかった俺達にぐいぐいと混ざりこんできたエリート様は二段ベッドの下段部分を仮住まいとして前夜まではこの家主の広々とした家にお世話になっていたと言うのにこんな男臭の染みついた使いまわしの仮設住宅に来たいだなんてどんな変わり者化とおもあったけど……
ジャー……
仮設トイレの少ない水の流れる音が響いたと思ったらやたらと謎のいい笑顔で出てきたエリート様事橘の顔を見て何なんだと思いながら過ごしていたが、その謎はあっさりと理解できた。
この人数でトイレは一つ。混雑するトイレは普段は何とかしてきたけどさすがに庭をうろうろすればどこからやってくるこの土地の主様の飼い犬がもれなくついてくる中でさすがにもよおす気にはなれない。
最終手段としてトイレを借りるもそこはメンタルを削り落とす
「今どきボットンとは貴重な体験をしました」
「そうですか?この辺じゃ今もまだ普通にありますよ」
なんて嘘であれと願わずにはいられない事をさらりと言ってのけて下さった。
都会生まれで都会育ちのエリート様の謎の行動に納得いったと言うかかわいそうと言う言葉がさすがに浮かんだ。
そんなわけで俺の勝手な解釈で部下たちに説得すればさすがに理解を得られて
「俺でも今どきボットンは無理だ」
「俺が最初の任務に向った時は当たり前のようにあったが、一度簡易トイレを経験するともう無理だな」
なんて俺の班の年長者は言う。
そうか、俺は知らないからいい時に自衛官になったなと一人で頷いていれば昼食が終わった所でこの家の三人組がやって来た。
一瞬まさか昼食にまであの料理を食べさせて俺達をダメにする気じゃなかろうかと思ったもののそこはエリート様も一緒に並んだところで俺のものすごい違いを理解した。
よかったー。声に出さなくて。
なんて俺の焦りなんて気にしないまま家主は言った。
「ええと、お昼休みだと聞いたので今のうちにうちのダンジョンについて説明させてください」
そんなご案内。
俺達は食べ終えた食器を片付けてから外に出て、なぜか玄関前に案内された。
「昨日はうちの家で発生したダンジョンについてどうやって説明すればいいか悩みましたが、昨晩一緒に過ごさせて頂いてそのままを見せる事に決めました」
という告白。
つまりよくある扉の入り口系に発生したダンジョンかと思うも相沢だったかこの家の主は俺達を家の中へと案内した。
なるほど……
家の中なら確かに教えるのにためらうなと思うも靴を持ってついてきてくれと言う割にはすぐに相沢は足を止めた。
なんだ?
なんて聞く必要はない。
古民家によく似合う古めかしいドアに貼られたプラスチック製の板にプリントされたW.C.の文字。
確かウォータークローゼットだったか。
意味としては水洗式トイレだが今時そんな名前が残っているのは珍しいなと劣化したのか黄ばんだプレートが少し微笑ましくありつつも嫌な予感しかない。挙句に正解と言うように手をドアにかけて広げれば……
多分本来トイレがある場所なのだろう。
扉とかシャッターとかそう言った場所に発生しやすい性質がるのは統計学でしっていたが
まさか?
まさか??
まさか止めてくれー!!!
ダンジョンが発生した場所と対面した瞬間呻いた部下たちは多分きっととても正常な感性を持っているのだろうと俺も一緒に
「冗談も大概にしろ!」
なんてダンジョンの入り口に向かって叫んでしまった。
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