いつも平穏とはかぎらないようで

 ダンジョンには千賀さんと橘さんが工藤班の皆さまを連れて案内に向った。

 工藤さんは千賀さんが片腕でもダンジョンに入っていくのを心配してくれたが、ここのところずっと千賀さんは雪に指導を受けていたようなので問題はないだろうと思っている。

 って言うか何で雪なんだよ……

 そりゃあ、雪は綺麗でかっこよくって男前で美しくて凶暴だけど、もっと頼るべき人間がいるじゃんと思うも魔法に偏りがちな俺と力のごり押しの岳、そしてやっぱりレベル差があれど特別に戦闘訓練を受けている沢田では相手にならない。

 あれ?

 こうやって俺達の特徴を並べてみるとよくこんなピーキーなパーティーで成り立ってるよなと思うもそこに雪がいるからこそ形になっているのだろうと気付けば反省したい気持ちが膨れ上がった。

 とは言えそんな気持ちなんかあっさりと無視してダンジョン入り口前で番をしながらお仕事をする三輪さんを置いて俺は林さんに畑へと呼び出された。

 結局の所何かあった時の連絡役が必要なので三輪さんが待機と言う状態は維持され林さんはお休みと言うスケジュールだった。寝てくださいと言いたかったけどそこはいい大人なので寝不足は本人の責任だ。

 三輪さん一人で番をさせるのは心配だから岳に番をさせるよりイチゴチョコ大福を置いておいた方が信頼できるから。

 その証拠に岳は三輪さんの横で音ゲーを楽しんでいるくらいだからな。

 って言うか何だよ。

 音ゲーを導入した対戦型格ゲーって。

 昔のコマンド入力かと思いきやそのコマンドは全く決まってなく、技の出し方はコマンド入力の正確さと速さで決まる腱鞘炎決定の過酷なゲーム。最後のフィニッシュでコマンドを決めると華麗グラフィックが挿入されて、推しの美しい決め技からの勝利ポーズに合わせた豪華声優のボイス付きで見れる仕組みになっている。もちろん技はライフゲージに左右される組み合わせ。更にいやらしい事にイベントごとにイラストを差し替えると言う絵師さん過労死寸前の美麗イラストをイベントキャラの分すべて集める事でさらに手に入るご褒美CGはマニア様の蒐集本能を駆り立てる限定の一枚。声優さんも大変だと特別興味のない俺はふーんと岳の話を聞くだけにとどまっているが、どうやら昨晩から始まったイベントの勝負がついたようで


「リムたん最強!

 三輪さん見てくれた?!

 リムたんのスクミズでの抜刀術!!!

 最強華麗ジャスティィィィィッスッッッ!!!」


 スクミズで抜刀術ってどんなシチュエーション?

 夏だからという理由以外判らないから突っ込まないけど……

 そう。水井班の皆さまが何を勘違いしてか岳の戦闘スタイルに憧れて真似をしていたのを見たが、それ、岳の脳内嫁のキメポーズだから。

 日々ダンジョンに潜って魔物相手になに練習してるんだよ、冷静になれと言いたかったけど俺近辺では割と有名な戦う音ゲーを知らない皆様の方が問題あると何も知らず真似をしている皆様の様子が面白いから黙っている事にした俺は何も悪くはないと思う。


 それはさておき林さんに畑に呼び出された俺としてはそこは林の中に呼び出そうぜと心の中で何度か突っ込んだ後なぜか一緒に雑草を抜く事になった。

 まあ、俺の場合これと言ってやる事はないから問題はないと言う大問題だけど……

 とりあえずずっと何か言いたそうだったから付き合って雑草を抜いていれば


「身内の恥をさらす、と言うのはなんだか告げ口みたいで嫌なもんだな」


 そう切り出した言葉にこれから話す事は決して楽しい事ではない事を理解した。さらに


「これは千賀の耳には多分届いてない事だと思う。

 いや、知ってるかもしれないが、認めたくはない話だと俺は思っている」


 止めてよ。胃が痛くなる確定の前振り情報……

 正面切ってそう言う勇気がないけど抜いた草を林さんに投げつける勇気しかない俺はひょっとしたらかなりの勇者かもしれない。

 そんな俺の暴挙を林さんは咎めることなく

「工藤だが……」

「止めてって言ってるでしょ」

 そうかと頷くも俺のささやかな抵抗はなかった事にされたらしい。

 

「あいつの班はトラブルが絶えない事で有名だ。

 限りなく黒に近いグレー。判るか?」

「決定的な証拠のない犯罪って言う意味でなら」


 なんて言ったタイミングで強引に会話をなり立たせるの、本当にやめて欲しいが聞き捨てならない情報なので聞かないふりなんて出来ないじゃんとまた草を投げつけた。


「で、風の噂で何を聞いたのさ」

 こんな風に改まって言うあたり聞くまで離さないつもりだと思って諦めれて草を投げつけながら

「あいつらは見た目の通り殴りたいほどのイケメン集団だ」

「悪いけど俺は男のツラに興味ないからわかんないんだけど」

 しかも平均年齢70オーバーの村では完全に無駄スペックだと思いながらも嫌な予感がどんどんあふれていく。


「まあ、あのツラだからな。どこに行ってもモテまくって、女性とトラブルを起こす」


「千賀さんの後輩だとギリアラサー?」

「高校3年の時に入って来た1年生だから無難なアラサーだ」


 詳しくは言わないけど十分計算できる年齢にあの顔で30オーバーかと逆に驚くしかない。

 

「で、何やったのか詳しく?」

「単に集団レイ……」

「よし、ぶち殺そう」


 想像していたとはいえすでにターゲットにされたのは紅一点の沢田。

 ただでさえ前の彼氏とやらにすべてを奪われた沢田になにしようとしてくれると言うように林さんを睨めば、いつの間にか腰を落として引きつった顔で俺から逃げていた。


 しまった。


 レベル43の俺の怒気に中てられた林さんは顔を真っ青にしてこれはどういう事だ声が出ない代わりに視線で訴えていたのを見てばれちゃったかと何とか口止めする事を考えてみた。




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