ついにばれました。まあ、ばれるよな……

「調子はどうだい?」


 声を掛けられて振り向けば千賀さんと橘さんがいた。

 因みに昨日の夜は三輪さんが夜勤だったのでこれから交代をしてご飯を食べて寝るらしい。

「宿舎から徒歩一分の屋根付き壁ありの灯の下で黙々と仕事が出来すぎて逆にしんどいですね。しかも視界の中でテレビを見たりネットを見たりこれを覚えたらもう他の所に勤務に行けませんよ」

 アハハと笑う三輪さんは最近でこそあの日のダンジョンのトラウマが落ち着いてきたと言う。

 マロに追いかけられる恐怖、ともに逃げ出したのに側にいた仲間を失い、目の前で大義の為に犠牲になった仲間を見送った人はいたって大丈夫だと言うが夜な夜なうなされる様子は橘さんからも俺達は話に聞いている。

 さらに昨夜はいつの間にかダンジョンに潜り込んでいた雪が俺に元気出せと言うようにウサッキーを仕留めて首を落として血抜きをしながら運んできたもののダンジョンから出た所でただのお猫様になってしまうので最近見慣れた顔ぶれにヘルプを求めただけの行動。

 まさか気位の高い雪に頼られる日が来るとはと喜んで誘われるまま案内されたらウサッキーが階段の所で血を流しながら転がっていたと言うちょっとしたホラーに悲鳴を上げたとか何とか。すまん。俺は爆睡してたよ……

 ちょうど岳がトイレに行っていた合間の出来事だったので慌てて戻った所で雪が日々魔物を仕留めて恋人たちにご飯を与えていた事がばれた瞬間でもあり、今俺達の目の前では千賀さん達にその報告を申し渡ししている所だった。

 千賀さんに

「どういうことか聞いても?」

 なんて聞かれたら説明するよりも早いと岳が三人と雪を連れてダンジョンへと潜り、マロを秒殺する様子を見て帰って来た所で俺達は台所のテーブルについて沢田が入れてくれたお茶が冷えていくのをただただ眺めていた。


「雪君、の事を聞いても良いだろうか」

 

 圧倒的猫派の千賀さんだがさすがにこの状況では猫派とかは言ってられないらしい。


「名前は雪、年齢不明の雄、去勢済みの地域猫……」

「そんな事を聞いてるわけではない」


 簡潔にプロフィールを語ってみたが納得いただけなかったようだ。当たり前か。


「じゃあ、

 雪 (年齢不明) 性別:男

 称号:白銀の疾風

 レベル:31

 で納得できますか?」


 言えばまた黙ってしまった。

 一緒に聞いていた沢田も岳は

「えー?雪も30台行ったの?」

「くそ―!遅れた!」

 なんて悔しがると言う二極化。

 まあ、まさか座布団の上で丸まってる雪がまさかの高ランカーだなんて誰も想像するまい。と言うか

「雪さん白銀の疾風何て称号持ってたんだ」

「うわ!俺もそう言うの欲しい!さすが雪は称号までかっこいいね!」

 岳のテンションが上がるも厨二病かいと思いつつも俺も似たような痛い称号を持ってたなとそこは突っ込まずにいた。

 岳に褒め称えられても地上のお猫様モードの雪は聞こえちゃいないと言うようにピクリとも動かない。クールすぎてかっこいいと思いつつもたんに興味がないだけだろう。

 ダンジョンの中ならとっても賢い頼れるお猫様なのにねとこの残念称号を残念に思ってしまうも俺のステータス接続権利ではまだ見れない部分があるのではと疑ってしまうくらい今の俺が見れるステータスの中には不可解な部分が多い。

 ここでは見せれないが一応雪の今の状態はこれ。


雪 (年齢不明) 性別:男

称号:白銀の疾風

レベル:31

体力:374

魔力:101

攻撃力:458

防御力:298

俊敏性:692

スキル:隠密

    俊足


 いや、隠密は確かに雪は隠れるのが上手いと思ったけど俊足ってどうよ?

 どこの靴メーカ―の回し者なの?なんて思ってしまったけど字が違うよねと文字通り足が速いという事という意味で納得する。

 そしてこのスキルだからこそ壁走りや天井を走ったりすることが出来るのだろう。

 もうパルクールでいいじゃんと思うけどきっとダンジョンの世界にはパルクールなんて競技の定義なんてないから俊足になったんだろうけど、結構ダンジョンの判断っていい加減だよねと心の中で笑ってしまう。

 何よりいつの間に魔力を発生させていたのだろうと思いつつも隠密の所で発生させたのかと想像をする。

 まさか不発だったバルサンを弄って稼働させてからの魔力発生だとしたら薬剤にまみれてないか不安になるも雪は相変わらずご飯もいっぱい食べるしダンジョンでしっかり狩りもする。

 強いて言えばこのステータス接続権利でも見えない耐性の部分が見れてないのかと想像はするが、無駄に成長させて俺がついて行けてない今の状況。

 またあの大災害のような大惨事を起こさないように慎重になるのは別に悪い事ではないと思っている。


 とりあえず俺がぼんやりといろいろな事を考えているうちに俺達どころかお猫様にも負けた自衛隊のズタズタなプライドはそれでも負けないと言うように顔をあげて


「よし、今日は今からダンジョンに潜ろう」

「千賀さん、何寝ぼけた事言ってるんですか」

 三輪さんの呆れたような突込み。

 いや、俺でも突っ込みたかった。

「千賀さん、ダンジョンの監視当番ですよ」

 スケジュール一覧表に書かれた当番表は林さんがいない為に繰り上がって千賀さんが当番になっている。

 だけど林さんと言う突込み役不在のこの場。

 かつての橘さんと三輪さんの上司はこうのたまった。


「雪君の戦う様子が見たいだけだ。

 みんなで行けばいいじゃないか!」


 圧倒的猫派の千賀さん。

 悪いけど考える事意味わからねーと思うも戦うと言う言葉に反応した雪は座布団の上でそのしなやかな体を伸ばしてからの……


 ぴしり


 しっぽを千賀さんにたたきつけてつんとした顔で行くぞとダンジョンへと向かう。


「あーあ。雪ってばダンジョンに行く気になったじゃん」

「もう、雪、これ以上は冷凍庫はいらないからお土産は持ち帰らないからね!」


 なんてなんかいそいそと準備を始める岳と沢田。

 何気に雪にレベルを先越されたのが不服の様子。

 そして三輪さんも橘さんも雪の戦いを見てみたいようにそわそわとしていて……


「俺が留守番しているのでマロの所までなら行ってきても良いですよ」

 言うもダメでしょうと言う三輪さんに


「だったら相沢と三輪さんで留守番してそのあともう一回潜ればいいじゃん」


 なんて岳が無駄に良い事を言ってくれた。

 確かに普段連絡がない状況だから別に皆さん居なくても良いじゃん?なんて思ってしまうけどそこはお仕事。

「ここで横になりながら俺達の帰還を待っててくれればいいだけだからさ」

 なんて無駄に良い笑顔でおっしゃってくれて……


 いい年をした小学生のような皆様はすぐに準備をしてダンジョンに潜ってしまったのを俺と三輪さんで見送るのだった。

 って言うか本当にこれで良いのかよと思うも


「すまない。今本当にしんどいくらい眠いから横になっていいかな?」


 そんな三輪さんのお願いに

「どうぞ休んでください。

 何かあったら起こしますのでみんなが帰るまでとりあえず横になっててください」


 言えば初日に使った布団を借りますと言ってすぐさま寝るあたり……

 食後に飲んでいたくすりに睡眠薬が入っているとでも思う事にしておいた。


 

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