心の置き方

 雪と一緒にダンジョンを潜った皆様が帰って来た。

 三輪さんはその頃には目を覚ましたが、隣の部屋にいた俺は三輪さんがうなされながら寝る様子を見守りながらこの人本当に寝れているのか不安になった。

 それでも過酷な訓練になれた体だからだろう。

 目を瞑って体を横たえた三輪さんは目を覚ます頃には全くうなされていた事が気にならないほどすっきりとした顔で起きてくるのだから気味が悪い。 

 まあ、きっとそれだけ辛い思いをしたからなのだろうと思う事にした程度に俺も夢に見るほどの後悔を経験したばかり。

 重さは違えどそれでも心に傷を負うぐらいの出来事は決して秤比べてはいけない出来事。あってはならない事だと俺は三輪さんのうなされる様子を知らないふりをして

「休めましたか?PCうるさくなかったですか?」

 なんて言って自分を守る為に人に優しくする程度の弱い人間だ。

 そんな三輪さんが目を覚まして暫くする頃


「にゃ~!」


 雪の帰還の声が響いた。

「雪しゃーんお帰りでチュ~!」

 なんて捕まえてちゅーしようとするもそれより素早く梁の上に避難する雪。

 酷くね?

 って言うか今の俺の手をすり抜けていくその技術。いや、俺って案外どんくっさいよなーと少し絶望。

 それはともかく

「くそ―!二着!」

 なんて岳の叫び声と

「ちょっと!千賀さんの護衛は?!」

 言いながら少し遅れてやってきた千賀さんと橘さんと沢田が戻って来た。

「えー?だって最後ダッシュって焚きつけたの千賀さんじゃん」

「くっ、若者に置いて行かれるこの屈辱……」

「千賀さん、普通にレベルが一番低いのだから仕方がありませんよ」

「橘それを言うな!

 いや、ケガを理由にリハビリ何て生ぬるい訓練に甘えていた自分が悪いのだな!」

 なんて訳の分からない事をほざく千賀さんにドン引きしていれば


「相沢ー、とりあえずご飯食べたらもう一回潜るけど相沢も潜る?」

 

 そんな沢田の何気ない誘いに俺は一瞬行けない、なんて思ったものの


「そうだな。11階の様子見たいから俺も潜る」

 

 なんて言えばならと言うように


「三輪さん、今回は俺が代わりに残りますので一度雪さんと一緒に潜ってみませんか?まだ雪さんと潜った事無いですよね?」

 

 そんな橘さんの言葉に思い出したかのように三輪さんが


「雪軍曹だったか?確か水井班が呼んでいたな」

 

 なんて水井さん達がいなくなってから呼ばれる事のなかった呼び名に雪がものすごく反応したのを「え?」なんて二度見したのはものすごくしっぽがヤル気に満ちるかのようにピンと立ったそんな様子。

ヤル気だ。

 雪さんなんかものすごくヤル気だと気付かずに会話をする皆様に本当に良いのかと思うもそこは口を挟まずにどうなるかを期待する俺は結構メンタル強くね?なんて思ってしまう。

そしてヤル気に満ちた雪さんはさっそくダンジョンに潜ろうと言うも

「雪さん、まずはご飯よー。

 相沢が11階まで行くって言うんだからしっかりご飯食べて行かないと帰りはもう夜になるからね」

 と言っても4時間を予定すればまだまだ外は明るいこの季節。

 そこは雪にはどうでもいいだろうからまずは竈に火を入れてご飯を炊きだす。

 すでに準備していた辺り沢田良い嫁さんになるよと言いたいけど、一度負った傷はなかなか言えない、それを知った俺はそんな言葉は言わない人間になれた。


「さて、もう一度潜りますか!」

「はい、行ってらっしゃい」


 なんて橘さんと沢田が留守役を買ってくれた。

 代わりに三輪さんと俺が参戦する事になり


「では雪軍曹参りましょう!」

「にゃー!」


 ここに雪軍曹の下僕がもう一人増えた。

 お昼を食べていた時も如何に雪が凄い事かを話してくれたが俺は結構知っていると言うか知っているだけに雪がみんなを脱落しないように上手に導いていた様子がちらりちらりと話から伺えた様子にどこかで息抜きしないとフラストレーション爆発するなと考えてみる。

 結局魔象事マゾという雪のサンドバッグは俺が収納している。

階段降りた所の左右に分かれる通路を完全にふさいだからね。

 解体するのいろいろ処理する被害も大きそうだからもっと広い場所で……

 例えばマロの部屋なんか広くていいじゃないかと思うも


「水がないからイヤよ」

 

 沢田の拒絶の一言にマゾは死蔵する事になりかけている状態だ。

 まあ、そのうちスキルダンジョン外使用許可がばれた時に処理してもらおうと楽観的な計画を立てておく。もう行き当たりばったりと言っても良いぞ?

 とりあえずお昼を食べて、沢田がおやつにおにぎりを用意してくれたので俺達はそれをもってまるで遠足でもするかのようにダンジョンへと潜った。

 だけどその先は雪軍曹が先導するダンジョンツアー。

 誰よりも小さな体の雪が俺達を先導するように駆けていくのをついて行くランニングから始まった。

 1階から9階までは迷路のように入り組んでいる迷宮ダンジョン。

 慣れた道順だがそれでも曲がったり曲がったりさらに曲がったりとスピードが乗るにあたって厳しくなる。

ただ面白い事に9階に向うにつれて道が広くなると言う様子は総てのダンジョンでも共通しているのでダンジョンを降りて行けば行くほど走りやすくなる。代わりに一階より広くなる、と言うと特徴もあるがそこは道を知っていれば問題はない。

 目の前を迷いなく走る雪を頼もしく思いながら追いかける。

 曲がる度にバランスとるしっぽが面白くて眺めていれば急に緩急をつける走り方。

 急にゆっくり走ると踏んじゃうぞと思うもちらりと後ろを向けば一番レベルの低い千賀さんが追い付けるかおいて行かれるかの塩梅を考えての調整。

 ギリギリ追いかけて来れるスピードで先頭を走る辺り軍曹と呼ばれる起因なのだろう。

 雪さんドSだね。

 マゾと雪で丁度いいと思うなんて余計な事は言わないけど。

 そんなこんなであっという間に9階にたどり着いて呼吸を整えていざ10階。


 千賀さんの一人マロ退治が始まった。


 みんなでいつでもフォローに行けるように準備しながらマロを囲んでいるけ

ど結果を先に言えば……


 千賀さんは片手一本で掴んだ鉈でマロの首を切り落として全身マロの返り血で染められながらも一人で戦い切った。


 何度もマロの出現から戦い方を見ていたからだろう。

 光の収束が終わった直後に鉈で確実に急所を狙う所や、一撃で切り付けることが出来ない事を理解してのそぎ落とし。

 さらには火炎放射を放とうとした瞬間俺達が手を出す前に


「ふんっ!」


 その大きな咢を鉈で貫通させて石畳の床に縫い付け、さらには足で頭を横から蹴って壁に叩きつけた瞬間もう一度その頭を床に叩き潰すように蹴りを落としてからの片手で首を抱え


「お前には悪いがお前の兄弟は少しやんちゃが過ぎた。お前には関係ないだろうがお前らの存在を到底許せるわけがない」


 レベルが上がった事で聞き取れた小さな呟きを俺の耳は拾い、千賀さんが抱える闇が少しでも晴れる事を願いながら瞼を閉ざし


ごきっ!


鈍い音が響いたのを聞いて瞼を開けた。

その後は止めにマロの首に向って咢から外れた鉈を拾いその勢いを殺さずに首を切り落として見せ……


勝利の鮮血の雨を一人虚しい顔をして浴びていた。




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