休息から日常へ

 新しい朝、変わらない日常。

となればまずはトイレ。

 真夏だと言うのに肌寒い空気の中部屋を出て階段を降りる。

 寝ぼけてても足が運べるトイレまでの道のりは今は少し遠く、近道の台所からの勝手口を通って納屋へと向かう。

 本当にトイレが遠いと嘆きながらも昔ながらの男性用トイレで用を済ませば昨日、一昨日と顔を合わさなかったイチゴチョコ大福が大はしゃぎでジャンプしながら大歓迎してくれた。

「きゅ~ん!」「わうっ!」「ぁを~ん!」

 全速力でしっぽを振りながら甘えた声の大コーラス。

 こんなにも歓迎されるなんてと思いながら順位付け通りにイチゴからわしわしと首をさすってやる。

「沢田にご飯貰ったか?俺みたいに体調悪くなってないか?

 とりあえずトイレ行くか?」

言って鎖を外してやればジャンプしながら俺に甘えるも一通りかまってやれば満足したようで三匹揃って山の方へと入り、鹿でもいたのか何やら懸命に吠える声が聞こえたかと思えば……


「わふっ!」


 イチゴが一羽の雉を咥えて戻って来た。

「あー……」

 褒めてと言うように首があらぬ方に曲がってしまったものを目の前に置いてくれたがこれをどうしろと言うのだろうかと思いながらも

「うまく捕まえたなー。すごいなー」

 とりあえず褒めまくっておく。

 猟のシーズンじゃないのにと思うも自慢じゃないがこのイチゴチョコ大福は婆さんの知り合いの猟師さんに寄って狩猟の躾をされている。その時ついでにお手とかお座りと言った基本の躾もしてもらえたらしく、だけど俺も教えていた手前三匹の躾は俺がしたんだと思っている。苦しい言い訳に聞こえるけどね。

 とりあえずどうするんだこれーなんて思っていれば


「相沢?

 今日は大丈夫かよ」

「おう、岳か。

 なんかよく寝たらずいぶんすっきりしてさ。

 そしたらイチゴが雉を捕まえてきたけどこれどーする?」

「うわ!イチゴやるなあ!

 とりあえず焼いて食べようぜ!」

 朝から雉を食べるのかと思えば

「なーに?あんたたち朝から元気良過ぎでしょ……」


 まだ空は白々としたばかり。

 この季節なら朝の五時前。

 沢田が窓からかノーメイクのままゾンビのように顔を出す姿はそのまま落下してもおかしくないくらい寝ぼけていた。

 とは言え滑り落ちるように部屋の中に姿を消したと思えばパーカーのフードを被った姿で納屋の二階の部屋から降りてきた。

 そして俺の岳の間でまだひくひくともがいている雉を見て

「ああ、もう。狩猟期間じゃないのに。とりあえず証拠隠滅で羽毟っておいて。内臓も出して、冷凍庫に入れておいてくれれば雉のロースト作るから。

 内臓は茹でておいてくれればイチゴチョコ大福の朝ごはんに分けてあげるね」

 言いながら欠伸を落として

「あと三十分だけ寝かせて」

 そう言って二階へと行ってしまった。

 決してお寝坊さんでもないし、まだ朝の四時台。起きるにはさすがに早すぎる。逆に自衛隊の皆さまはイチゴチョコ大福が鳴いていても起きてこない辺り危機感のない人たちだと俺達は心配をする。

 なんでって?

 ほら、ここ山の中の家だよ?

 リアル野生の王国の中のポツンと一軒家だよ?

 イチゴチョコ大福が鳴くのは野生の動物が出た時ぐらいだよ?

 鹿とか猪とか熊とか。

 こいつら普通に玄関の前で雨宿りするし熊に至っては家の中に入ってくるんだぞ?

 もうちょっと危機感もってもらいたいよと呆れる中

「じゃあ、久しぶりに一緒に畑弄らね?」

「あー、喉乾いた。トマトくいてー」

「食べごろなのいっぱいあるからな。食べ放題だぞー!」

「いっても二個ぐらいが限度だってw」

 たわわに実るトマトは肥料が良いのか岳の腕がいいのかどれもこれも巨大サイズな野菜たち。適当にもいで一応水であらってからの


 カプリっ……


「汁飛んだー!」


 口元も手も自分の匂いの染みついたシャツ迄汚しながら喚きながら二口、三口と食べていく。

 岳も同じように、だけどこいつは汁を滴らせるだけで上手に食べるこなれた感に俺と何食べ方が違うんだと頭をひねるものの


「やっぱりトマトって美味いよな」


 にかりと笑う向日葵のような笑顔を見せてくれる様子は高校時代から変わらない笑顔。

 そんな笑顔に釣られるように

「やっぱり土が良いんだよ」

「えー?そこは俺の腕だろ」

 なんて笑いあう。

 そうすれば


「ちょっと―!

 あんたたち朝から元気良すぎ!

 おかげで寝れなくなっちゃったでしょ!」


 いつもの通りのメイクと寝癖を直した髪、そしてしっかりと着替えを済ませた姿に俺も岳も目を合わせて笑う。

 もう一度寝ると言ってからのこの姿に変身するには十分な時間。

 これでこそ沢田だとその手には雉の首を掴んでいるあたりが特にそう思う。

 

「よし!

 今日は魔象を解体するわよ!」


 そんな気会いに岳も両手を振り上げて


「頑張ろう!」


 なんて声を張り上げる。

 そうして俺達はダンジョン入り口の階段を降りた所で魔象事マゾを輩出した実物を見て


「ねえ、ちょっとー。

 なんか通路塞いでるんですけどー」

「まじかwww

 マゾってこんなでかかったんかwww」

「って言うかさ、これクズの角?

 剣山みたいでズタボロなんだけどー?これ食べられる所あるのー?」

「沢田!マゾの牙すげー!

 四本もあるしー!歯もめっちゃでけー!」

 所でこれどうやって解体するの?」

「知らないわよ!

 私の解体用ナイフみんな通らないし!」


 岳と沢田の妙なテンションの高さに俺は様子を見に来た雪さんの隣に座り


「雪さん、どうやらマゾはまだ食べられなさそうだぞ?」

 

 なんて言えば雪はマゾに向かってまた爪を突き立て始めた。

 薄皮一枚程度にしかダメージを与えられないのは変わらず……


「とりあえずクズの角だけでも回収するか」

 

 意外と役に立った武器に当面のメイン武器はこれだなと自衛隊に依頼しているクズの角で作ってもらってる剣が出来る日を楽しみにするのだった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る