信じる者は救われるなんて思ってたら大けがするぞと大声で言いたい!!!

 水井さんの助けによって皆さんを古民家ダンジョンへと案内する。

 決してトイレダンジョンと言わないように。


「ねー今日みんなでダンジョン行かない?」


 なんてよくある日常(?)の会話が


「ねー、今からみんなでトイレ行かない?」


 どんな連れションだよ!!!


 って事にならないように可能な限り古民家ダンジョンとみんなの意識に摺り込むように何度も口にしたけど


「え?トイレ……」

「トイレの、は?」

「ここ、入るのです…… か?」


 爆笑しない代わりにドン引きされる困惑の顔。


「やっぱりこうなったか!!!」

「もう諦めてトイレダンジョンでいいじゃん」

「そうよー。インパクト大きすぎて古民家なんて言葉掻き消えちゃってるんだし」


 徹夜明けだから疲れてもう寝ると言う岳とこれから岳が狩ってきた魔物の解体をすると言う沢田はまだあきらめてなかったのと言うように呆れていた。

「そりゃ水井さん達も工藤達にも浸透しなかったけどさ」

「浸透しないでしょ。築100年以上の由緒あるトイレ?がそんな事でごまかせるわけないじゃん」

 沢田のいい加減に諦めたらという言葉を聞いた選抜で選ばれた皆さんは

「え?マジでダンジョンに変わる前までトイレだったの?」

「さすがにちょっと、誰か水井さんに無理って言ってきてよ」

「だけどここで諦めたら卒業後の進路だってあるし」

「俺斎藤隊の入隊希望してるからトイレにはいるけどよ……」


 相沢はレベルによって鍛え上げられた感覚によって彼らの小声の内容さえしっかり聞こえてしまっていた。

 工藤達の悪だくみを家の中から宿舎の会話が聞こえたのはラッキーだとは思っていたけど、聞こえすぎるのも心が痛いと泣き出しそうになってしまったが

「にゃ~」

 なんて雪がいつもと変わらず俺の足にまとわりついてしっぽではたきながらダンジョン行かないの?なんて急かしてくる。

 もちろん行くけどさとちらりと振り返ればドアからギリ見える所で水井さんが障子にもたれかかって必死に笑い声を殺している姿が見えた。

 ふっ、笑うがいい。

 これはかつての水井さん達の姿だと思い出すがいいと心の中で笑うも俺もそうだったなといらん事まで思い出した所で心が凪だ。


「じゃあダンジョンの案内をするけど、まずは10階までの道を覚えてね。

 マッピングとか卵の駆除は訓練中によろしく」

 そんな挨拶に沢田が俺達に2リットルのペットボトルをもたせてくれた。

 行って帰ってくるにあたりそれぐらいあれば十分という分量。いざとなれば11階で補給も出来るからこれぐらいあれば十分だしレベル20あればたかだかこの程度の重さなんて筋トレにもならない。

 いざという時は俺の収納の中に水はもちろん食料、岳が作ってくれたログハウスもある。休息が必要な時はその中に寝袋やテントもあるからそこは自衛隊を目指す人たち。自力で何とかしてくれるだろうと思う事にしている。

君たちのなれの果ての姿が水井さん達だから、現地で物資を調達して家を建てるぐらいやってのけるだろうと信じておく。

 そうやって俺がダンジョンに足を運べば雪もひょいとダンジョンの中に潜り込んでその後を橘さんがついてきたけどくるりと反転して


「お前たちは学生の授業の一環で来ているつもりかもしれないがここで特殊訓練の研修が始まった以上2士である事を忘れてはいけない。

 付随する権限を与えられ、任務の命令違反は懲罰の対象にもなる。

 長閑な景色に惑わされると取り返しのつかない大けがをするぞ」

 

 先輩らしくぴしりとした言葉に遠足気分な学生さん達の態度が心配で様子を見守っていた千賀さん達も橘さんの成長を見てかうんうんと頷いていた。

 すっかり子供の成長を見守るお父さんですね、なんてことは言わないけど俺も足を止めて一度だけ振り向き


「今から10階の扉の前まで往復約三時間をかけて行く。

 最後尾は雪が務める。遅れがちなヤツを走らせろ」

「にゃー!」

 なんてきりっとしたいい声で鳴いてくれた。雪しゃんかっこよすぎ!なんて心の中で一人で悶えながら

「橘さんは先行して魔物の討伐。皆さんは俺が連れて行きます」

「ええと、良いのですか?」

 初対面なのに大丈夫かというような心配をしてもらったけど

「橘さんは俺に追いつかれないように頑張ってください。

 容赦なく蹴り飛ばしていきますからね」

「それは、後輩にかっこ悪い所見せられないな」

 なんて真剣な顔で言う。

「学生の皆さんのウォーミングアップにはちょうどいいから。だけどマロは倒さないでくださいよ。経験は積んでいると思うけど実際どれぐらいか俺が見たいから」

「判りました。10階前でお待ちしてます」

 そう言って一人先に駆けだした橘さんは本当に真面目な人だ。

 毒霧効果でGの姿は見なくなっても何気に昆虫系が苦手な俺の為にサクッと倒してくれるのだろう。

 通りすがりに転がってるのはどうしようもないとしてもだ。

 そんな橘さんの一喝のおかげで学生の皆さん、俺とタメの方達はおとなしくダンジョン地下一階に降りてきてくれた。

 ただ居心地悪そうにしているのは

「あの、俺達武器も何も持ってないのですが……」

 まるで代表のような人が2リットルのペットボトルを手にしただけの姿で話しかけてきた。

 俺は皆さんのジャージと丸腰と言う姿を見て納得した。

「それ、水井さんの指示だろ?

 大丈夫。レベル20ぐらいあれば10階までは武器なんて必要ないから」

 怖くないからと俺なりに安心してもらうように笑顔で言えば表情が固まったような気がしたのは気のせいだと思いたい。


「それに最後は武器も破壊されて拳がものを言う世界だから。早めにそういう事にも慣れておこうな?」


 なんて気持ちがいいほどの大ウソをついてみた。

 誰がどう聞いても判る嘘だと思ったけど……


「そうか、水井教官そこまで考えての事だったんだ」

「いつも厳しい事ばかり言うけどみんな俺達の事を思ってなんだ」

「俺水井教官みたいなリーダーになりたいな」


 ちょっとこの子たちの将来が心配になった相沢はこれ以上水井の信者の言葉を聞きたくなく


「遅れたら置いていくぞ!」


 強制的に黙らせることにした。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る