マロマント下さい

「10階の魔狼、通称マロを倒すには二通りの方法がある。

 一つは実体化した後火炎放射を吐く前に仕留める一番時短な方法と、マロの火炎放射を浴びながらも地道にみんなで一撃加えて経験値を稼ぐ方法がある。

 因みに水井さんが教えてくれたやり方は?」

「火炎放射を浴びながら魔狼の攻撃を見せてもらいました」


 魔狼がいるフロアまで下りる階段の途中での質問。

 ここで聞くかと思うもなるほどと言った相沢さんは俺達に一枚の布を渡してくれた。


「これはマロを倒すと出現する宝箱からゲットできる通称マロマント。

 魔力が発生していればもれなく魔力耐性も発生しているだろうけど確認する方法面倒臭いからマロの火炎放射に耐える事の出来るマント渡しておくからしっかりと体に巻き付けるように。

 じゃないと死ぬぞ」


 事もなさげに死を語る相沢さんに橘さんも


「疑って死ぬのはお前達だ。

 生き残りたいのならしっかりと身に着けるように。

 君達がその貴重なアイテムを全員自分の分をそろえるまで魔狼と対峙することになるから貸してもらえる間はしっかりと甘えておきなさい」


 何て説明。

 前に水井さんに案内されて潜った時に渡されたのは小さな布切れだったけど今回は一枚分を俺達が手にするための訓練となれば俺は素直に昔遊んだヒーローごっこのように布の端を首の前で結んだマントのように纏う。


「まずは俺が一人で行っても良いですか?」

 

 そんな挑戦に相沢さんは

「実体化したあとすぐに息を吸い込んで火炎放射を放ってくるからその間に首を切り落とす、それが基本だ」

「そう聞くと10階の主と言うのが哀れに思いますね」

 なんて身も蓋もない戦い方だろうと鼻で笑えば

「10階何てまだまだ通過点だ。無駄に体力も装備品の耐久力も落とす意味もない」

 なんて言うも俺達にマントを配りながら

「動画で知ってもらってると思うけど11階以降はひたすら広い。10階までで体力消耗何て無駄だから」

 なんて俺達が10階の魔狼をどれだけ必至になって倒そうかなんて苦労も知らずにそっけなく言う相沢を睨みつけてしまいそうになるその前に

「自衛隊とか軍隊かなんて正直どうでもいいけど魔狼と出会って数年。

 攻略の手口を諦めた世界に絶望したのはダンジョンが発生する事を放っておいた世界だから。

 ある日突然家の中にダンジョンが出来た。

 しかも最初に入れば得られる特典欲しさに所有者を見殺しにする国の方針何て納得できるわけがない」

 相沢さんの側で挑発していた俺の首元を掴んで軽い動作で振り回して睨みつけてくる視線に言葉を無くせば

「相沢さん、彼らはまだ何も知りません」

 なんて死神・橘さんが間に入ってくれた。

 知らない言葉をぶつけられて俺も何を言ってると思うも少しの間橘さんと相沢さんは睨み合って


「今さらこの事を隠す方が問題だ」

「それは俺の一存ではどうしようもない事です。

 それに広めて良い事なんて一つも想像つきません」


 ひどくまっすぐな目で相沢さんに真剣に向き合う橘さんに俺は相沢さんからの拘束を解かれ


「すみません。単なる八つ当たりです。

 手探りで攻略をしていたから沢山の情報の中でぬくぬくしている皆さんにやきもちなだけです」


 ぶっきらぼうな言葉だけどきっとそれが彼の本音なのだろう。

 彼らの攻略の糸口に俺達は訓練を受けている。

 魔狼の攻略の糸口のない中でのこの快挙。

 甘えていると言う彼の苛立ちが判ると言うものだが……


「魔狼が出現してますが……」

「一度ぐらい火炎放射をうけておけ」


 その直後俺達は魔狼の火炎放射と言う魔法に焼かれるのだった……


「ありえないでしょ!

 俺達を丸こげにするつもりとか!

 一歩間違えれば殺人罪ですよ!!!」

「その為に貴重なマロマント渡しただろ。

 挙句に自分からマロと戦うとか言っておいてマロを放置するお前が圧倒的に悪い」


 そうかもしれないけど!

 なんて言葉は相沢さんの後ろで俺を睨む橘さんの眼光の強さに唇を噛みしめ血の味を覚え飲み込みながら


「全員自前のマロマント確保するまで繰り返すぞ」

「あんた悪魔だ。

 悪魔の使者だ……」

「そりゃ親切な悪魔だな。

 とりあえずマロ剣とかマロマント拾ってこい。一応お前の戦利品だ。

 支給されるものより剣とか耐久力あるから当分使うにはおすすめー」

 なんてどうでもよさげに言われる辺り本当かと疑う。

 だけどそこから9階と10階の行ったり来たりの魔の時間。

 最初こそ不安気だったみんなだったけど三人、四人と繰り返すうちに攻略の仕方を考えてわざわざ魔狼の火炎放射を浴びる理由なんてどこにもないと理解すれば速攻でマロを仕留めていくアグレッシブさ。

 時間と言う問題を攻略するために実体化した瞬間に首を落として処理する身も蓋もない戦い方に俺だけが損した気になったけど……


 ここに到達するまで独りで苦労を重ねた相沢さんの俺達に対する苛立ちを覚えるのは当然かと最後の一人がマロを秒殺するのを見て俺は理解するのだった。

  




 

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