見る人が変われば世界って簡単に反転するね

 目の前で開けてはいけない扉が開いてしまった。

 前にこの扉をくぐった時は水井教官と共に入ったので安心があった。

 だけど今回はこの研修を前に動画を見るようにと言われた人たちと一緒。

 いま世界を揺るがす一番注目を浴びている冒険者だと紹介を受けた。

 大学から車でン時間。

 視界はほぼ空と山の緑しかない地域までやってきて少し心細くなる。

 だけどその感情なんて生易しいと最後の曲がり角を曲がれば家一軒もない道をひたすら走り、工事が完了していない崖と絶壁と言わんばかりの崖に挟まれた車一台が通れる道を進む、乗車してるだけなのに悲鳴を上げたくなる僻地に本当にこんな所で遠くを見ながら水井教官を信じて運転の邪魔にならないように悲鳴を上げずに我慢をしていれば……


 びっくりするくらいの開けた場所に古民家をメインにいくつもの古い家が連なっていた。

 

 ここはなんていう所だろうか……

 あまりに閑散とした場所に身の置き場もなく水井教官曰く庭だと言う場所に荷物を持って並べばゆっくりと姿を現すこの家の人がやってきた。

 頭はぼさぼさ、顔は洗ってないようだし、起きたままの姿と言わんばかりにジャージを着ていた。 

 さらに小さな小屋から出てきた女性は血まみれのエプロンと包丁を持ち、俺達と一瞬目が合った瞬間小屋の中に戻って次に現れた時は血まみれのエプロンなんて知らないと言うような綺麗なエプロンを付けて姿を現した。

 さらにもう一人。

 この家に発生したダンジョンから帰って来たばかりと言わんばかりの姿の人が俺達を見てバグを起こしたかのように立ちすくみ、血まみれエプロンの人に説明を受けて納得したかのような人の良い笑みを浮かべてくれた。

 まあ、全身魔物の返り血を浴びた姿なので返って恐怖をあおるしかない笑みだったけど水井教官が仕方がないと言うように笑うから……まあ、大丈夫だと思うけど……

 とりあえずと言うように挨拶を交わして俺達もジャージに着替える。

 その時にみんなでこの状況を確認する。

「千賀隊長だよね?あの左腕無くしたの。私秋葉のダンジョンの救護班の応援にかり出された時に見たんだけど!」

「じゃあ、隣にいた人副隊長だった林さんか?

 怪我で髪型とか変わっちゃったけどひょっとしたらって思ったら?!」

「あとあと三輪さんだよね?!

 秋葉のダンジョンの一番の功労者の!」

「やっぱり三輪さんだよね!」

 なんて女子たちが沸いていた。

 もちろん俺もLiveを見ていたからひょっとしてとそれからいろんな人たちによって消される事無く今もものすごい視聴回数を記録する動画をみて期待したけど……


 噂では地方に飛ばされたなんて言う噂を耳にしたけどそれがまさかここだなんて……

 サイン貰おうかな?

 そんな風に考えてしまうくらい崇拝する人たちが目の前にそろえばこそなんで俺達はこのジャージの人達と挨拶しているのか疑問を覚える。

 だけどよくよく見れば……


「動画の人!」


 なんて今は声を出せない状態の中恐ろしい事に動画のリーダーのような野郎のくせに『アイ』とか言うかわいらしい名前の人が一佐の結城さんとものすごくフレンドリーにおしゃべりをしていた。

 おい、お前ごときがそんな風に話しかけられる人じゃないんだぞと睨むも全く見向きもされない苛立ちは同年代どころか同じ年に生まれた相手だからだろか。

 正直に言えば羨ましいだけど、俺達とは何も話をする事無く帰って行った一佐を見送り……


 いきなり俺達もダンジョンに潜る事になった。

 しかも


「このダンジョンについては家主の相沢と常駐している橘が一番詳しいから最初は彼らに引率をお願いしたから。

 ここのペースになれる為にもいろいろ教えてもらうと良いよ」

 

 なんて笑顔の水井さんの言葉。

 だけどきっと俺達は不服という顔を隠しきれなかったのだろう。

 橘さんと言えば奇跡の卒業生と言われた大学に発生したダンジョンからあふれ出した魔物に全滅と言われた年の中で唯一の生き残った卒業生なのは有名な話。

 千賀隊長の部隊に居ると聞いていたけどまさかこんな所で幸運のようで不幸を一身に背負う人と会うとは思わなかった。

 不安しかないようなこの環境で出会った死神のような人に緊張をしてしまうも


「雪しゃんもダンジョン行く?行ってくれる?

 ありがとう~!

 今回はね、新人さんを案内しなくちゃいけないの。

 安全に怪我をしないようにレベルアップしてもらわないといけないから、雪しゃん手伝ってくれる?手伝ってくれるの?!

 ありがとう!雪しゃんが手伝ってくれるなら完璧だよ!」


 なにこの人……

 猫に向って雪しゃんとか……


 いやいやいや、これが同世代ってありえんだろ。

 肩書は冒険者だけどダンジョンが発生する前までは不労所得で生活していたってただのニートだろ。


 そんな奴らに俺達はダンジョンに案内……

 

 ダンジョンに……


 ダンジョン……


「ふっざけるな!!!」


 俺達はトイレに突入する為に日々鍛えてきたわけじゃないっっっ!!!


 そう叫ぶことが出来たらどれだけよかっただろうか。

 いや、そんな感情すら押さえつけることが出来た三年間に感謝をするべきだろうかと悩みながらもダンジョンを10階に向けて走る事になった。

 

 一応これでも学年主席だ。

 俺の後ろをついてかけてくる仲間も俺を信頼して追いかけてきてくれる。

 とにかく先行するニートを追いかけて、おいかけて、おいかけて……


 おいていかれた……


 合同練習の時ですら現役の人達について行けた脚力はあっさりと意味を失い、だけどすぐに近づいた姿は俺ではなくはるか後方を見ていた。


「ごめん!ペース配分判らなくって置いてきぼりにするところだった!」

 

 言いながら全員いるか数を数えながら白猫に向って何やら話しかけていた。

 何なんだよこいつ、なんて思っていたけどそれからの再スタート。

 常に俺達が置いて行かれないようなそんなペースで走り、緩急付けて走るペースは全員がちゃんとついてこられるような配分。

 最後尾の奴は大変だけど、それよりも全員がバラバラにならずについてこれるペース配分をする相沢だったか。

 少しだけ見直す事にした。

 

 だけど10階の扉を前に死神・橘さんと合流して


「じゃあ、マロとご対面しようか」


 そんな事を言われた時一瞬俺達合法的に葬られる?なんて考え俺達なにかやったか?なんて水井教官が大学にやってきて短いながらもいろんなことを教えてもらってここまで来たけど何かしでかしていたかと必死に考えてしまったのは……

 

 後に俺だけではない事を知った村瀬修司、今回の選抜隊のリーダーだった。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る