深夜二時過ぎの宴
ひとしきり笑いあった後冷静になった俺達は
「それよりも資金が必要です!」
「ダンジョンに潜れ。そして換金しろ!」
「了解です!しかしこの県に換金する所はありません!」
「それぐらい車を飛ばせ!
とりあえず沢田が魔物を調理するに当たり必要な事を調べるから、岳は目の前の肉を焦がすなよ」
「了解っす!」
何時の間にかすぐ隣でピシッと座っていたイチゴチョコ大福の頭を撫でて母屋に直行。
台所でノートパソコンを起動して魔物料理人として必要な免許と金的な額面。
もし、それをお金を貰ってふるまう事となった時と、肉の売買について。
衛生管理とか消防関係とかそう言った物も必要になってくるらしい。
俺の所では無理だなと却下して、せめて肉の売買位はお金が取れるようになりたい。
いちいち換金するにも他県に行くのはめんどくさいから、ネット通販ぐらいなら行けるかと考えてみる。
「食肉処理業者の許可も必要か……」
うーん、うーんといろいろと許可を貰わなくてはいけない事だらけにいろいろメモにコピペしていれば、何気に沢田が使わなくなって久しい土間で魔物を調理している様子を居間から覗き見る。
環境の整ったジビエ料理店で働いていたというのに理由をつけて使い勝手の悪い昔の台所で料理してくれたのだろう。
もし未知の寄生虫がうちの台所に残ってたら、複数の人間が使う場所で感染しても困ってしまう。
最低限の安全を考えてくれているようだ。
「まずは台所のリフォームだな」
土間続きの台所は土間同様衛生と言う言葉とは無縁だ。
裸電球と言う薄暗さも部屋の広さには光量が全く足りない。
何よりも冬場のあの地の底から湧き上がる寒さはストーブを焚いても温かくならない。
四方を壁で囲み屋根だけを付けただけの台所は嫁の立場の低さを物語るように、ばあさんの昔話の1つの嫁いできた所は姑さんが厳しくてと言う話を思い出してしまう。
昭和以前と同レベルではいけない。
俺はこの計画の一番最初にまずやるべき事を、一番の必要性の文字として打ち込んだ。
魔物で稼ぐ!
日本に数カ所あるダンジョンは既に過密状態だ。
だがここならまだ狩り放題だし、7階にいるウサッキーを狩れる戦力もある。
ネットで相場を見れば一体30万ほど。
良質の肉も光沢と滑らかさと密度の高い毛皮も需要が高いウサッキーを10体狩ればそれだけで300万。
大体台所のリフォーム代の金額だ。
他にも途中で狩れる奴らを仕留めればすぐに他の部分のリフォーム代も資格の資金調達も何とかなる。
今はまだ店を開店させたいわけじゃない沢田の為にもいつ言い出しても構わないように開店資金を調達したい。
「モリモリ狩らないといけないな……」
俺は一階に出る最悪のあいつらの事を綺麗すっぱりと忘れてウサッキー一体30万という謎の呪文にこれからのスケジュール表を作っていた。
「相沢、食べれるけど大丈夫?」
ひょっこりと部屋を覗きに来た沢田に俺はノートパソコンを閉じて
「オーケー!
さて、どんな料理が出来たか楽しみだな!」
「そこは私の腕を信じて楽しみにしてなさい!」
農家ならではの謎の広い庭の真ん中にキャンプ用のテーブルを置いて椅子を並べる。
料理に対して足りない机の代わりに納屋からも机を引っ張りだしてきてそこにも料理を並べた。
俺達が動き出した事でイチゴチョコ大福はもちろん、雪とその愛人達に子供達もぞろぞろとどこからか集まって来た。
雪さん何気にモテモテなんだよなーと、雪とは似ても似つかぬ子供を連れてきた母親に餌を与えてそのまま納屋に居ついてしまった住民達も好奇心を隠せずに集まって来た。
「では、料理の紹介ね。
まずはシンプルに塩胡椒でのロースト。
続きまして砂糖醤油味醂で塊を煮てみました。
さらにローストビーフならぬローストウサッキーは定番の赤ワインで作るソースも作ったけど、わさび醤油でもゴマだれでもイケるよ。
薄く切ってしゃぶしゃぶもイケるか試してみたいし、見た目が鶏肉に近いからピカタも作ってみたの。となるとどうせならって揚げてカツも作ってみたよ。
油ついでに唐揚げも作ってみました。
もやしがあったから湯がいたウサッキーのささみにごま油と醤油にコチュジャンを効かせたナムルも作ってみたから箸休めに食べてみて。
そしてメインはみんな一度は食べてみたい骨付きスペアリブ!
これはみんなでガブリって食べてみよう!」
「おおー!」
「夜中の2時になんて飯テロ!!!」
岳と二人で高速で手を叩いて褒め称えてしまう。
「ふふふ、今日はダイエットなんて忘れて食べまくるよー!それではご一緒に……」
「「「いただきまーす!!」」」
割り箸を割ってビールで乾杯と缶を鳴らして煽る。
キンキンに冷えたビールが食道を伝って胃袋に沁み渡るようにその冷たさが形を主張する。
一瞬体がその心地よさにブルリと震えるも口から出るうめき声は至福の吐息。
イチゴチョコ大福を始め、我が家に勝手に住まう猫たちも我慢が出来ないと言うように涎を垂らして周囲をうろうろとする始末に、沢田は当然のように冷凍庫に残っていた何日前かすっかり覚えてないご飯を先ほどの煮汁を使って骨と一緒に煮込んだ雑炊をもう前回使ったのはいつかも思い出せない古いどんぶりに骨を乗せて振舞っていた。
岳よ、お前の初恋相手は出来た娘よのう……
そんなどうでもいい事を岳に視線で送るも当人はマスタードをたっぷりと付けたピカタを頬張り、俺は熱いうちに食べたいカツを口に運び、本日最大の功労者の沢田は席に着き直した途端夢の骨付きスペアリブを両手で持ち上げてその小さな口を最大限に広げてカプリと噛み付く。
肉の繊維をかみ切ればあふれ出る肉汁は口から溢れて慌てて口元を拭う。
鶏肉ほどあっさりともしてなく、豚ほどこってりもしていない。
何処かのブランド豚のように鶏肉のように柔らかく、さっぱりとした脂の旨味、そしてまろやかな食感を噛みしめれば噛みしめるほど旨み成分が溢れだしてくる。
沁みだしてくるなんて半端な旨みではなく、甘みを感じる脂身にカツの縁に残された分厚い脂身も特有な獣臭さもなく噛みしめてしまう。
誰ともなく味わうようにとろけるような食感の肉を何度か咀嚼してコクンと飲み込み、お互いの顔を無言で眺める。
隠し様のない笑みを浮かべ視線だけで会話は成立し、言葉はなくとも想像を超えるそれに歓喜の悲鳴はありきたりなまでの単純な言葉で表現してしまう。
「「「んま────い!!!」」」
深夜2時過ぎの宴。
周囲数キロに家のない山奥の一軒家でのパーティーは食べきれないほどの料理は瞬く間に無くなり、はち切れんばかりの腹をさすりながら次の機会を夢見て朝を迎えた。
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