今夜のご予定は?
昨日来た時の今にもその辺の脇道から谷間に向かって飛び降りそうな顔をしていた沢田はやっぱり料理って楽しいと、改めて料理に対する思いを誰も座ってない椅子に向かって一晩中語り、岳はいつの間にか酔いつぶれていた。
頼む。
沢田よ。
俺にも見える相手と話をしてくれ。
岳も寝てないで沢田に突っ込んでくれ。
いつの間にかイチゴチョコ大福は納屋の寝床へと戻り、雪達も納屋なりセカンドハウスなりと何処かへ行ってしまった模様。
頼むから俺を一人にしないでくれーっっっ!!!
やがて山間のこの家にも朝日が射して来れば沢田は誰かと別れの挨拶をし、それを合図にイチゴチョコ大福も家の裏へとマーキングに出かけてしまった。
「片付けようか」
沢田の一言に食べっ放しの状況に俺もやっと長い夜が終わった事を理解できた。
「って言うかさ、ウサッキーがいくら美味しいからってあんた何泣いてんのよ」
皿を重ねながら俺から距離を取ろうとする物音と軽快な電子音に岳が半分眠りながらスマホを探していた。
「なに……
まだ相沢んトコ。
……うん。沢田送ってから帰る。
大丈夫だって、じゃあね……」
さすがに二度寝はしなかったものの、ゆっくりと起きて周囲を見回してあくびを零し
「9時までに帰れって言って来たんだけど今何時?」
「まだ7時前。
8時までに出れば送って帰れるだろ?」
「じゃあ、それまでに片付けちゃうね」
「いや、それは俺達が片づけるから、朝飯作ってくれるか?」
「りょ―かい!」
早速と言うように母屋の台所に行って朝飯を手早く準備してくれて、俺達は離れの台所の井戸水で昨夜の食器を片づける。
井戸水は水道水ほど冷たくはないが、指先がひりひりするくらいは冷たい。
一晩中一人で台所に立たせてしまった沢田には申し訳ないなと思うも反省する前にご飯出来たよーと声がかかった。
目玉焼きにソーセージ、味噌汁の具材はじゃがいも。
至って普通の朝ごはんだなと、作ってもらって言うのもなんだがありがたく白米を頂く。
さすがにご飯を炊く時間はなかったとみえてパックのレンチンご飯だったようだが、これも何時もの事なので俺としては問題ないが、問題は隣に在った。
「嘘、ありえねえ……
お前、こんな米食べてるのかよ……」
「悪かったな。ちなみにこれが世間一般的なレンチンご飯の味だ。
米農家は黙っとれ」
「今度うちの米差し入れするな?」
「うん。岳の家のお米はうちでも使ってるくらい美味しいんだよ」
「兄貴大学に行って勉強して来たからな」
ニカリと笑う農業系高校にも入れなかった弟と何でこんなにも出来に差が出たんだと思いつつ、たぶん兄貴が大学に行けた。だから俺も大丈夫という考えなんだろう。
一番わかりやすい構図だ。
因みに嫁も大学で収穫して来たらしい。
兄嫁との折り合いが悪いとは聞いているが、そんなのはもうお約束だろうと何かあった時はうちの納屋に来てもいいぞと言ってはある。人が住める状態ではないけど岳なら問題ないだろう。
とりあえず三人とも深夜の肉祭りなんて物とも言わせない胃袋でカツカツと黙して朝食に集中する始末。
うん。
本当に良い肉って食後にも胃にダメージを与えないんだよね。
あの時間、あの量、そしてタンパク質での胃袋攻めに何の問題もない事に感動しながらもご飯を口へと運ぶわずか数分で朝食を食べ終えた後
「相沢、今夜だけどまた来てもいいかな?
今度はちゃんと準備してダンジョン入りたい」
お茶をすすりながらの沢田の言葉に物好きだなあと思いながらも
「だったら俺ちょっと出かけるけど夕方には帰ってくるようにするわ。
一応連絡先教えとく」
「だったら私の連絡先も。番号も変えたから。LIME登録しとくね」
いろいろと深い意味合いが混ざっているも、昨晩のような沢田はどこにもおらず、登録確認の為にスタンプを投げればよろしくと沢田からもスタンプが返って来た。
これで連絡は大丈夫だと、ついでに店の方と自宅の番号も登録しておく。
「じゃあ、俺も今夜ダンジョンもぐりに来るわ。
店もあるから9時過ぎるけど?」
7時閉店の上田雑貨店の閉店処理の後に飯食ってここに来るとなるとそんなもんがベターな所だろう。
「さすがにその時間には戻ってると思うから勝手にどうぞ」
今は扉が閉まり『便所』なんていかにも子供時代誰かが付けました的なボロボロのシールが貼りつくトイレを覗く。
物音がしない限り奴らはまだこの地上へと進行してないようだ。
今朝も朝一でバルサン焚いているしな。今日弁護士さんの所に出かけたらバルサン買いしめてこないとなと、ホームセンター行く事も本日の予定に組み込む事にする。
「じゃあ、私もそれぐらいにするから一緒にダンジョン潜ろう」
何故かうきうきとしている沢田に本気であんな奴等の巣に行くのかよとうんざりしてしまうが
「やっぱり夢は自分で捕まえた獲物を自分でさばいて調理するに限るもの!」
肉食系女子の志の高さに岳と二人そろって拍手を送った。
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