誰がこの二人を組ませたのか問い質したい件
何とか全員マロ剣とマロマントを手に入れて借りていた剣とマントを返すのだった。
マロマント何てもういらないと思ったけど
「今から11階をちょっと案内するけどマロマント必須だからなるべく動きが悪くなるけど頭からかぶるように」
そう言って相沢さんは頭を守るようにかぶって顎の下でマントを縛るようなスタイルを見せてくれた。
思わず俺以外全員フリーズしてしまったけど橘さんはマロマントに余裕があるのか一枚の切れ端を頭に巻き付けるように、そして余分にあるマントをポンチョのように切り込みを入れたものを被っていた。
これが初心者と経験者の格差……
いや、どっちも酷いけどとりあえず魔狼を秒殺するまで心を殺された俺達は文句を言わずに相沢さんスタイルにするも相沢さんはしっかりと橘さん同様ポンチョスタイルに変えていた。
うん。凄く俺達恥ずかしいと感情まで殺されかかったけどそんなスタイルで11階へと降りれば……
「眩しい……」
突然の太陽の射すような陽射しに思わず目を細めてしまう。
そんな中で
「一度マントを脱いでみると良い。
正直そのどうしようもないスタイルでも文句はないからな」
なんて言葉に真っ先に恥ずかしさに女子が脱いでみたけど
「あっつ!ここ何度なの?!」
なんてすぐに10階に向う階段に引きこもってマントをしっかりと被り直していた。
そんな様子に橘さんは笑い
「みっともなくてもこのマントを着る理由だ。
そして全員に魔狼を倒してこのマントを所持していい理由にもなる。
このマントなら15階までの気候の変化に対応できるからここに滞在中の間は一枚でもマントの枚数を増やして多少なりでも活動しやすいようにするように」
その結果がタオル巻きとポンチョなのだろう。
秒で作れるそのスタイルに納得は行くものの
「因みに気温は50度を超える。
うちから持ってきた温度計じゃ計れないからみんな水分補給はしっかりとな」
そう言われて俺達はダンジョンに入った時の持たされたペットボトルを見て冷や汗を流す。
言われて皆水分補給と言うように水を飲んだもののあからさまに俺のペットボトルの水が少ない事が目に見えた。
いくらこのマントに守ってもらってるとはいえこの先どこまで行くか分からないがこれは大丈夫なのだろうかと思えばあふれ出す冷や汗に
「今回は初回特別サービスだぞ」
そう言って相沢さんが俺たち全員のペットボトルを中身が満タンの物と交換してくれた。
あからさまにほっとしてしまった俺だけどみんなも同様にほっとして水を受け取っていた。
「じゃあ、そろそろ出発するが、これから行く所はこのダンジョンの出入り口になる場所から正面やや右側に向かって真っすぐ進んだ先だ。
見た通り目印はないから、自分の方向感覚を信じてまっすぐ走ればいい。
そのうち正面に森林ゾーンに入るから。目的地に向かう通路は作ったつもりだが、森に着く着地地点が毎回一緒になるのは多分難しい。
だから通路より右側なら赤い色で木にラッカーを吹きかけている。左側なら青い色だ。
もし色を間違えてもラッカーがついてない木を見たら間違えで反対側に修正すればいい。これからその道に向って進むぞ。付いてこい」
なんて恐ろしくあいまいな行程。
大丈夫かと思うもすでに先行した橘さんの姿はどこにもなく、相沢さんの背中を信じて俺達はこの肌を刺すような灼熱の大地の中走る事になり、最後尾を付いてくる雪さんにはいつの間にかかわいらしいブーツをはいていた姿に少しときめくのだった。
とは言え今度はこまめに10分ごとに水分補給をするように注意が飛ぶ。
ダンジョンの中ではかなり飲んでしまったけど、このいつまで続くか分からない大地の中がぶ飲みしたいのを我慢して一口一口を大切に飲む。
もちろんみんなも大切に飲めば雪さんも時々俺達を追い抜いて相沢さんに走りながら水を飲ませてもらっていた。
「あー、雪は先に橘さんと合流するか目的地で待ってる?
このペースだと雪にはつらいだろう?」
なんて言えば不服と言わんばかりに一声にゃーと鳴いたかと思えば肩をひょいと降りた瞬間、その姿はあっと言う間に小さくなってしまった。
「あ、あの、雪さんは……」
見た事もないようなスピードに
「悪いな。雪は猫だからあの小さい体だとここは無駄に体力消耗し過ぎるから先に行って貰った」
いや、そうじゃなくって……
水井さんも早かったけど雪さんはそれとは比べ物にならないくらいのスピードで、あんなにも早くなれる物かと思えば代りに何かがやって来た。
土埃を上げてやってくる何かに俺達は思わず剣の柄を握りしめてしまうもやがて見えてきたのは橘さん。
「何かありましたか?」
ごく普通のように返答する相沢さんに橘さんだってわかっていたのかと聞きたかったけど、走りながら無駄な体力は使えないと言うように耳だけを傾けていれば
「いえ、雪さんが先行するからしんがりを頼むと言って来たので交代に来ました」
「すみません。
俺だと取りこぼしが起きそうなので助かります」
そんな反省にも似た相沢さんの言葉に橘さんはくすりと笑い
「さあ、あと20分も走れば森に着くぞ!もう少しだから頑張れ!」
そんな激励。
時間が判れば心も軽くなって、足まで軽くなったような気がしてなんとか走り切った草原地帯を抜ければ見るからに心地よさそうな木陰の世界と説明を受けた通りの森の小道があった。
森の小道と言っても走りやすそうに木を抜いて、それを両側に並べただけの目印のような道。
何度も踏みしめられたように雑草も少なく、そしてどこか踏み均された地面は歩きやすい。
草原地帯を抜けて少し休憩を兼ねて歩いて呼吸を整えながらも水分補給とおやつのビスケットを貰って食べながらの森林浴。
どれも見た事のないような木々はだんだんと巨木になって行き……
「こうなるとどれだけ魔物が隠れているか分かりませんね」
藤原の少し警戒した声に俺達みんな気を引き締めれば
「まあ、雪が何とかしたみたいだから大丈夫だろう」
どこか感情のない相沢さんの声にいい加減良くない事の前触れだと警戒をすれば……
「やっぱり雪さんは一人で自由にした方がよろしいかと思いますね」
「って言うか、これ持って帰れって事か?」
言いながら目の前に飛び込んできたのは角が木の枝のような鹿の群れが敗戦した姿……
「どれも急所を一撃、あいかわらずキレッキレですね」
「キレキレなのはいいけどそれを処分する方の身にもなれってやつだよ!」
言いながらも角が木の枝のような鹿を掴んではしゅるんと消える……
「手品?」
なんて言ってしまえば
「お前賢そうなふりしてボケ担当か?」
いや、さっきもどこからペットボトルだしたとか聞きたかったけど今回も訳の分からない状況についに突っ込んでしまうのは仕方がないだろう。
だけど目の前に立つ二人は
「スケジュールが押しているので後ほど説明します」
「見慣れれば気にならないから早く雪を追いかけよう」
どうでもよさそうに言ってあまり走り慣れない木々の根っこがデコボコの道を草原と同じようにスピードを緩めることなく走らされるのだった。
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