山にお出かけに行こう!
俺達がダンジョンでマゾ狩りをした翌日。
「相沢おはよう。少し相談なのだが」
「千賀さんおはようございます。何かありましたか?」
朝の挨拶は日の出と共に畑でご挨拶。
野菜の面倒は主に岳が世話をしているが雑草の面倒は俺も手を入れている。
野菜を作るより圧倒的に雑草が育つ方が早いからね。
一度ニラと水仙を間違えて岳に渡して以来岳は可能な限り俺に畑仕事を手伝わせようとしなかった。まあ、今まで畑仕事何て興味がなかったから当然かもしれないけど。
一歩間違えたら確実にヤバいからね。
こんな山奥だと救急車は確実に間に合わないお迎え役だからね。それどころか発見してもらうのも危ういと言うのに野菜がどれかも判らない俺に触らせてくれるのはあからさまに見てわかる野菜ぐらい。
トマトとかキュウリとかナスとかキャベツとか。
一度キャベツとレタスを間違えて渡したらものすごくバカにされて以来ちゃんと覚えたし。
普通緑色でボール状に丸まってたらキャベツと思うだろ?
二分の一の確率で間違えた俺のセンスから岳の警戒注意報が張り巡らされていたらしいが、本音を言えば地味に傷ついたのは言うまでもない。勿論傷つけたのは自分だから文句は言わないけど。
そんな畑で無限に湧いてくる雑草を抜いていれば隣に千賀さんがしゃがみこんだ。
因みに俺が雑草を抜くのは畝以外の場所。
こんもり土が盛ってある所以外の草なら抜いていいよと言う岳のお許しに通り道ぐらいの雑草は抜いておこうと言う俺の最低限の心遣い。
岳的には近寄って欲しくもないらしいけど一応ここ俺の土地だからね。
俺は使うつもりのない竈ハウスはともかく山に上がる通路横の畑まで治外法権は許さないと邪魔をする。
別に構って欲しくて邪魔をしてるわけじゃないんだからと抜いた草は収納して後からコンポストに纏めて捨てるちょっとしたずるに千賀さんはそんな使い方をするのかと笑っていた。
そして俺と同じように器用に右手を駆使して雑草を抜くのを手伝ってくれながら
「今日は山歩きを訓練に入れようと思う」
「ですね。森の中走っていて思ったけど圧倒的に山の中を走るどころか歩くのも不慣れ過ぎです。
12階からはほぼ山歩きなのにわりと走りやすいあの森であの程度だと予定時間内での活動が出来ませんよ」
「それなんだよ。
10階までがレンガ造りの通路だから11階以降もそのままを想定した訓練をして来た学年だからな。卒業までにこのギャップを何としても埋めてやりたい」
「自衛隊に就職後で十分じゃないですか」
「即戦力、それが彼らに求められる能力だ。優秀と言う事でダンジョンの最前線に投入して全滅されたら目も当てられん」
この場合殉職と言う事でいいのだろうか。
それを前提で話しをするのだから朝から重いよと言う様に睨めば苦笑して
「まあ、そう睨まなんだ。
俺達がしてやれるのはただ鍛えてやる程度だ。
ただ運よくダンジョン内みたいな魔物の居ない場所でダンジョン内に似たような環境に居るのだから少し山歩きをさせてやりたいのだよ」
「で、ガイドが必用とか言わないでしょうね……
今なら近くの山のハイキングコースがお勧めです。まだ閉山してないし平日なので観光客も少なくてお勧めです」
「まあな。一応それも考えたのだが……
やっぱり登山道は走る所ではないからな」
「トレイルランニングするのならうちの山以外でお願いします。
何年か前にうちの山じゃないけど行方不明者がお亡くなりになった事故がある地域なので。ダンジョン内ならワンチャン迎撃できてもここじゃ完全無力だから人目がある所の方がいいですよ」
何てやんわりと断れば
「やっぱりだめか」
おっさんがしょぼんとする姿。申し訳なく思うのはその肩書きのせいだろうか。
「責任を取りたくないので」
きっぱりと言えば
「確かに家の敷地内に仏さんが発生するのはよろしくないと思うのは理解できた」
ただでさえダンジョンが発生したと言う事件が起きているというのにだ。
「これ以上ここを事故物件にするわけにはいかないからな」
「ただでさえ資産価値ゼロに近いのにマイナスにしたくないので」
「なに、いざとなれば自衛隊が買い取る」
「……」
「揺れるな、揺れるな」
一瞬本気で迷った。しかもかなり本気で考えていた事は口に出さなくても千賀さんには丸わかりだろう。だから困ったかのように注意を促してくれたのだろうが……
「知ってます?ここの資産価値国産車が買える程度しかないんですよ」
「いや、そう言う物なのか?」
驚く千賀さんと雑草を抜きながら
「登記上は雑木扱いの山だし、材木として切り出す杉とかは手入れしてないし、そもそも木の切だしとか判らないし」
「なに、そう言うのも自衛隊で取扱いするぞ」
「丸坊主にされそうなのでお断りします」
言えば楽しそうに笑う千賀さんに
「今日の予定変更ってできますか?」
脈絡のない俺の問いかけに千賀さんは何一つ詳しく聞く事はなく
「問題ないぞ?何か用があるのなら手伝うぞ」
こう言った柔らかい思考の千賀さんを俺は好ましいと思いながら
「じゃあ、朝食食べたら山菜取りに行きませんか?」
そんな誘い文句にニヤリと笑いながら
「今晩は山菜ごはんが食べられるな」
ふっふっふー。
ふっふっふー。
楽しみだと笑う千賀さんと運が良ければ山菜以外の秋の味覚の王様に出会えるだろう俺の期待に雑草を握りしめながら二人して笑いあっている背後でご飯に呼びに来た沢田と一緒についてきた岳が声をかけれずに固まっていたのを見て林は
「あの二人は何をやってるんだ……」
沢田たちの思いを合わせて言葉にしてくれるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます