バケツ一杯100円で

 5ケースでほぼほぼ完済できる工藤の借金。だけど正直言ってそんなつまらない事をするつもりはない。

 借金鳥の呼び出し方法は分かったけどダンジョン内で確保できたアイテムのお値段を調べるのに借金鳥は欠かせない。


 俺達の世界とでは今の所ダンジョンと物価の差が出ているが、これからたくさんの人がダンジョンの奥深くにもぐりこんだ時、その価値がどんどん訂正されていくはずだ。

 マロ肉よりクズ角の方が高い、いいじゃないか。

 深く潜る人が得たものの価値が高くなるのは命懸けな以上差をつけてもらいたい。なんせ未だに10階のマロを攻略できる人の方が少ないこの世界。命大切のコマンドを優先すれば当然だ。

 そしていつまでもリポップされる魔物の値段が高額のままでいられるなと俺達にもダメージがあってももっと普及されればいいのにと願ってしまう。

魔物肉当たりはずれはあるけど基本は美味いからね。もっと当たり前のように食べれればいいと思う。

 実際10階までのお肉のお味はそれ以降の階のお肉を知ってしまうと今一つだからね。正しいお値段で取引してもらいたいというものだ。

 それよりもだ。

ダンジョンが懲罰の場にならないように、あの美しい自然をたくさんの人たちに見てもらいたい。危険と隣り合わせだけど知ってもらいたい俺の小さな願いだ。

この世界にも似た、そして似てないともいえる景色と空気。水も違えば風も違う。

 海外なんて行った事ないから知らないけど、そういった感動を異世界で気軽に楽しめるようになればいいと思う。海外旅行行くようなノリで。

安全…… とは縁遠くても資源開発の為に懲罰の場にするが正しいという案はこの世界の長い歴史を紐解いても間違言い切れないのは確実だ。

最後の最後で鳥人間みたいな救いようのない奴らに出会ったけど……

 彼らのクソみたいな事情でも必死に生き延びようとしていた事は確か。

 崩壊する世界から安全な世界に逃げ出したい、きっとこの世界でもダンジョンから魔物が溢れてそういった考えを持つような人たちも出るだろう。だけど逃げ出した世界を蹂躙し、心地よい生活を求め、先住人を支配下に置くなんて思いは全く理解なんてできないし、間違った歴史の繰り返えさせてはいけない。


 だから俺はここで幸せそうに体を震わして満足そうにしている奴に俺の一番の疑問をぶつける事にする。


「なぁ、ダンジョン」

「なぁあにぃぃぃ?」


 あっさりと返された答え。

一瞬で俺の疑問タイムが終了してしまった。

 そもそも工藤のせいで借金鳥なんて変な名前を付けたからどしょっぱつから勘違いをしていたことを理解した。

 背後で見守っていた結城さん達の驚く気配を背中で受け止めながらもこれですべてが納得できる。

 神出鬼没な所、無尽蔵に増えたり工藤に対する執着、そして羽をまき散らしてダンジョンを修復した様子。魔物の中で唯一武器を扱った事も疑問の一つに挙げたい。

 ダンジョンが作り出した手下のような魔物みたいに考えていたけどダンジョンを修復する姿を見て考えが変わった。

羽無し様がダンジョンを破壊した時に見せたその感情。表情が分からなくても確実に怒りだった。

 その様子に単なるダンジョンの魔物ではない事という事が想定できて、ダンジョン自体は不動だからこそ手足のように自由に動ける分身体みたいなものが必要となり、作り出されたのが借金鳥なのだろう。

 だから倒しても復活するし、すぐ傷も治る。オスとメスがあるのはダンジョンが取り込んだ世界をよく見ていたからそこで学習した程度と判断する。実際俺達の事もよく見ていたしね。


 勝手に勘違いしたのは俺達だとしても今までビビらせてもらった事もあり、敵に回したいわけじゃないけど少し意地悪をしてみたくもなる。

 一箱分の源泉水を収納した借金鳥は満足げにおなかをさするのを見て俺は次にバケツ一杯の妙に生々しい足をつけた魚を工藤に渡す。

 美味しくない事を知る借金鳥はあからさまにしょぼんとした顔でしばらくの間バケツの中の魚を見た後俺を見るも工藤が押し付けるようなバケツの中身が変わらない事を理解して手の様な羽でそのバケツを受け取り……

「あ、100円にしかならなかったよ」

 岳が教えてくれた。

「クソッ、前回より価格が下がってるって言うかバケツ一杯で100円しかつかないのかよ!」

バケツの代金の方が高いじゃないかと舌打ちしながらとある俺の少ない知り合いから仕入れた烏骨鶏で作ったサムゲタンを取り出した。

 こっちの世界の料理がどれほどの値が付くのか気にもなるし、こっちの食材がどれだけ価値があるかちょっと気になるのは俺だけではないはず

 テンションがどん底の借金鳥だけど、しょうがの香り高いサムゲタンに泣きそうな瞳が一気に輝いた。真っ黒だけど。

「俺達の世界でも貴重な鳥だぞー。五本指の鳥だぞー」

 真っ黒な借金鳥に黒い肌を持つ烏骨鶏を丸鳥のまま作られたスープに

「いいぃにおいいいぃぃぃ!」

 聞いている方の背筋がぞわりとするほどの喜びの悲鳴。

 生足魅力なお魚の後だから嬉しいは分かるけど俺達を泣かせたいのかどっちだよと心の中で叫びながらもそのスープから一皿分取り分けて

「まずは試食だ」

 そういって借金鳥に食べさせればふわっと羽が膨らませて死神の鎌をダンジョンのちょうど階段の所に何度も打ち付ける

「おいぃしいぃぃぃ!」

 足つき魚の後なら特にそう思うだろう。

 それに花梨が作ったから美味しいに決まってるしな。

 なぜかくるくる回りだした借金鳥の謎の踊りを見ながらこれは何の儀式だろうかと警戒してしまいながら落ち着くのを待って残りを工藤から渡させた。

 気になるお値段は……

「10万円?!」

「やめて! そんな微妙な数字! それなら適正価格かもっと普通にぶっ飛んだ数字にして!!!」

 作った花梨はそう叫ぶも烏骨鶏で作ったサムゲタンをどこで買えば10万になるのかぜひとも聞いてみたい。十分ぶっ飛んだお値段じゃないかと思うも

「確かに源泉水を使って煮込んだわよ。高い火力と長い間燃えてくれるからダンジョンから持ってきた薪で煮込んだわよ!

 だけどこのごく普通のサムゲタンで10万なんてお爺ちゃんが孫娘に頑張ったねってお小遣いくれるような金額じゃない!」

 いやあああぁぁぁ!!!

 なんて叫ぶ花梨だけど

「どこの世界に孫娘にポンと小遣いで10万出す家があんだよ」

正直者の工藤が俺の心の内を代わりに言ってくれた。だけど

「まあ、この金額ならあるかもしれないな」

 結城さんは意外とあるぞとさらりと言う。

 まじ?と目をむくのは岳で

「つまり、正当な評価ではなく評価を無視した借金鳥の気持ち金額なのが許せないのですね」

「貴重な、いつまた遥がもらってくれるかわからない烏骨鶏なのに、何その金額。また食べさせてねなんておねだり金額ほんと止めてよ!!!」

 ああ、そういう事。

 橘さんと三輪さんも納得したような顔にそれでも鍋一杯10万はやりすぎだと思う。

「けどまあ……」

 工藤の借金では焼け石に水。どうやって花梨を慰めようかと思えば

「せっかくの烏骨鶏を工藤の借金返済に使うなんて、それだったら私が一人で全部食べたわよ! もったいないっ!!!」

 うなだれて握りこぶしを体育館の床に押し当てた乙女の本音に誰ともなく失笑をするのだった。

 

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