プリントTシャツはセンスを問われる件
時間がもったいないという様に俺達は結城さんに連れられて小型バスで秋葉のダンジョンまで移動する事になった。
秋葉のダンジョンと言えば動画配信者に乗っ取られてマロを地上に出してしまった事で世界中に知られてしまった千賀さん達の元担当だった場所だ。
今では部下だった人が引き継ぎ、うちのダンジョンで縁が付いたという様に工藤に首輪をつけて借金返済をさせているというざっくりとした説明を受けた。
因みに橘さん達も一緒に乗せて皆でバス移動。
皆さんダンジョン対策課の制服を着ていますが、俺達思いっきり動きやすい格好をしています。
俺はシャツにジーパン。沢田はシャツにパーカーを羽織ってのカーゴパンツ。岳にいたってはTシャツにジャージ。
大学ダンジョンでも皆様の視線が痛かったけど、ここまで軽装な冒険者っていないよね。
真夏の時普通に短パンだったしね。
もちろん10階までの話だけど。いや、その後も普通に短パンだったな。
でもまあ、仕方がないじゃん。
あんなド田舎のダンジョンに潜る為のウェアなんて売ってないし。4階あたりで出る蜘蛛の糸で作ったという布が軽くて丈夫らしいけどそんな希少価値しかない服なんてまず買うチャンスがないし。
それよりもマロマントやマゾマントで作ったポンチョの方が優秀だし、沢田がこれを使ってお揃いのユニフォームを作ろうとか言い出したけど俺達三人裁縫なんてできなかった事実にとん挫した計画だったし……
ちょっと待て。
ここにものすごく都合のいい人いるじゃん。
なんてなぜか通路を挟んだ俺の隣に座る結城さんを見ればまるで監視するかのようにすでに俺を見ていた結城さんと目が合った。
ちょー怖いんですけど……
とりあえずビビっている事がばれないようにして
「ダンジョン潜る時用にマロマントとかで俺達お揃いのユニフォームみたいなの作ってもらう事できませんか?」
「ふむ、確かにそんな恰好のお前達を紹介するのも恥ずかしいからな。
開発部の方に可能かどうか聞いてみよう」
なんてあっさり約束が出来てしまった。
って言うか、俺達の事恥ずかしかったのかという事実にまあ、確かに恥ずかしいよなと俺の着ているシャツには『おうちに帰りたい』と文字がプリントされたもの。
ほら、人とあまり会わないし服屋もないからネットで買ううちにこういうのを着ても誰も気にしないとその時のテンションで買った服がこういうものばかり。
因みに岳は脳内嫁のリムたんのイラストが描かれたTシャツ。同人かなんかでネットで購入したものを着るという強者。
大体ワンポイントの物ばかりだけど毎日着ているからみんな慣れて違和感がなくなっていたので改めて浮いている事に気付いたが、まあいいかとおもう。
恥ずかしいのはそんな俺達を紹介する結城さんだけだしね。
とは言えせっかくマロマントとかマゾマントとか素材はたくさん持っているのだ。
いい加減ポンチョ生活からもっと動きやすいものに変えてもいいのではというチャンスを得たので
「じゃあ、じゃあ、私デザイン決めてもいい?」
「あ、俺フード付きがいい」
なんて言いながらも岳はリムたんのプリントは入れてくれるかな?なんて言っていた。
「俺は少しダボっとしているのがいいな」
いざとなったら雪を服の中に入れてやらないといけないからな。
そんなつもりで言えば
「普通にストリート系だね。その線で考えるね」
よかった、普通でと小声でぼやく沢田になんかすでに主導権をもっていかれた気もしたが、まあ、沢田が唯一普通のファッションセンスを持っているので任せておけばいいと思う事にする。
そんな感じで話が盛り上がった所で
「これから向かう秋葉ダンジョンの事を説明する」
突如話をぶっこんできた結城さんに俺達は黙ってしまう。
それを見て結城さんは一つ頷き
「工藤の話だ」
思わず三人そろって工藤の話なんて聞きたくないという顔をする。
「なんか未知の魔物が出てくるとかいう話だっけ?」
早く話を終わらせたいという様に言えば結城さんは頷き
「なぜか必要に工藤を追いかけてくる。
出現は不特定。出現条件も不明だ」
「なんか昔のゲームにそういうのってあったよね」
そんな岳の言葉に
「そこまでゲームやってないから知らねー」
「私もそこまでゲームやってなかったかも」
因みに一日中ほとんどゲームに時間を費やしている岳を基準にしているので大概の人はあまりゲームをしてないというだけの違い。普通にゲームして周囲と話題を合わせる程度にはゲームをしてきたという程度には遊んでいたぐらいだ。
そんな根本が間違っている事を知らない結城さんは珍しいという目を向けてきたけど
「とりあえず真っ黒の鳥のような姿で巨大な鎌を持っている」
今までいなかったようなタイプの魔物に目を瞠れば
「身長は3メートルはないだろうが、それよりも巨大な鎌を手のように使い、その鎌で巻き込まれた隊員の何人かが殺されている」
ぞっとするような話だが
「なんで工藤を狙うのか本当に判ってないのですか?」
なんか目的があるだろうと聞くも
「それが全く分からない。
ただ、かろうじて工藤は逃げ切る事に成功している」
つまり戦えば負けると言う事だろう。
「出現ポイントは本当にわからないのですか?」
沢田も何か条件があるはずだという様に聞くものの結城さんは首を横に振って
「最初は11階の探索の時に遭遇した。
その後は工藤がダンジョンに入る時前触れもなく現れるくらいだ。
1階でも出てきたが、魔狼とは違って地上には出てこられないようだった」
身震いをする。
工藤だって冒険者としてはレベルが高いから14階までは何とかできるはずなのにと思えば15階以降の魔物がそんなやばい奴なのかと16階からの探索を考え直さないといけない。
何せ時間が経てばたつほど攻略は難易度を増していくのだから。できる限り早めにダンジョンをつぶしたいと改めて強く思う。
「それとこの魔物だが、秋葉のダンジョン以外でも出没が確認できた。試しにお寺ダンジョンに工藤を潜らせたらやはり出現した。
おかげで今の工藤は待機の状態だ」
なんて結城さんのびっくりするような説明に
「なあ、なんで工藤をダンジョンに入れてるんだ?」
そもそも論のような岳の質問に結城さんは顔を歪めて
「お前たちにした事の懲罰でダンジョン探索の最前線探索をさせている。
古民家ダンジョンでの実績は十分に役に立って秋葉のダンジョンも随分探索が進んだ」
「なるほど。さらに最前線のチームの護衛にも役に立つと」
「狩った魔物で借金の返済にも役に立つ。最も被害者からの損害請求の支払いに回収しているがな」
容赦ない世界にざまあと思うもそこで疑問。
「なんで工藤みたいなやつが素直に従ってるのですか?」
俺が言えば
「そうよね。あのクズだったら真っ先に逃げだしそうなのに」
沢田も不思議そうに首を傾げる。
「確かに逃げ出そうとした奴もいた。
当然探し出して国内で一番古いダンジョンに放り込んでそのまま帰ってこなかった奴もいるが……
工藤の場合少し事情が変わった」
「「「変わった?」」」
変わるような事があるのかと思えば
「あいつの母親がやってきて一緒に借金を背負うと言ってきたんだ」
「はあ……」
それがどうしたという工藤だろうにと思えば
「まあ、なかなかすれ違いをしていた親子だったらしいな」
なぜか笑みを浮かべる結城さんに何があったんだよ、早く教えろよといつの間にか俺達は身を乗り出して結城さんの話を聞いていた。
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