早くここから出たいんだけど
あんな奴が潜む建物から脱出できると思ったら大間違いだ。
少なくとも脱出という展開には妨害はお約束。
たとえ数階とはいえエレベーターを待って1階に降りたとしてもそのわずかな待ち時間で先回りする敵役だってお約束。
「待て、なぜ挨拶もせずに帰る」
アラフィフなのに息も切らさずに目の前に立つどれだけ否定したくても気持ち悪いほど遺伝子を俺に与えた男が立っていた。
「相沢って大きくなるとあんなふうになるんだねー」
なんて岳がものすごい呪いの言葉をつぶやいたが
「どうだろ?俺的には爺ちゃんに似てると思ってるからあんな筋肉ダルマになるとは思ってないんだけど」
「うーん。俺達の中で一番レベル高いのに一番ひょろっとしてますからね」
橘さんもそんな評価をしてくれたけど地味に傷つくんだけどと目じりに涙がたまりそうだ。たまってもないけど軽く手の甲でぬぐって
「で、今更なんか用?
って言うかなんであいさつする必要があるの。俺からの電話やメッセージ全無視しておいて関係を絶ったのはあんたの方からだろ」
どんどん出てくる男のしでかしにあの日同じ場所で生き延びた同胞に千賀さんと橘さんはこれでもかというくらい嫌悪感を浮かべるまなざしで睨みつけていた。
そしてこれだけクズな人間性を披露してもまだ自分の方が上にいるというおめでたい男は俺を睨みつけてくる。
ああ、なるほどそういう事か。
俺はポンと手を打って
「愛人さんの浮気の証拠が欲しいならそういえばいいのに。
コピーだけど用意してあるよ」
俺はパチンと指を鳴らして収納の開け口を男の上に意識すれば指を鳴らした音と共に数々の浮気の証拠写真を雨のように降らせた。練習したかいがあるってやつだね。
とはいえどうやって調べたのか探偵さんにお任せだから知らないけど目の前の男の通帳のお金が赤の他人の通帳に移動している記録や、件の腹違いの赤の他人の弟とのDNAの親子検査の結果が入った封筒。
「なぜこれを調べられる……」
真っ先に封筒を開けて確認する当たりさすがに俺だって傷つくんだよと赤の他人でも望まれている子供に嫉妬なんてしないけど
「調べるのなんて簡単じゃん。
俺だってガキん時から使っていたマンションのカギ持ったままなんだから普通に玄関から上がって久しぶりに帰ったら散らかった家を掃除する程度の事はできる人間になったよ。まあ、その書類はごみを片付けた時の副産物だと思ってくれればいいよ」
「まさかの正面突破ですか……」
林さんの呆れた声がしたけど
「もうあの家にお前の場所はないからカギは返せ!」
なんて言うから俺は素直に鍵を返すけど
「言っておくけどあんた婆ちゃんに鍵のコピー渡したの覚えてる?」
鍵を返せば問題解決じゃないというようにいいながら
「あと、悪いけどたかがカギがかかってる家程度、今の俺だと意味はないから。鍵変えても普通に家に帰る事はできるからね」
いつの間にか並んだ視線の男ににそっと笑えば
がっ!!!
「うっ!!」
いきなり殴られた。けどすぐさま殴りつけた手を握りしめてうずくまっていた。
「だから言ったじゃん。今の俺にそんな攻撃意味ないって。
でも、まあ、あんた……あんたたちが捨てた子供が生き延びた場所でこんな化け物に育ってなかなかどうして感慨深いだろ?」
言えば顔を引きつらせて一歩俺から距離を取る気持ちいいくらいの小物ぶりに
「大学ダンジョンの英雄の息子がダンジョン初攻略をしたんだ。
これからいろいろ注目されるだろうな」
はっ!
なんて鼻で笑えばもう逃げようのない事を理解して俺を見上げる視線に俺はなお笑って見せる。
「扶養手当とか住居手当もらってるらしいじゃん?それの正当性はどうなんだろうね。そこのところも聞いておかないとな。やばっ、わくわくがとまんねーw」
考えれば考えるほどお花畑の男がしでかした出来事の一連はすべて自分の首を絞める結果にたどり着く素敵なブーメラン。
って言うかこの6年間ガチで何も疑問に思わなかったのかなんて俺の方がびっくりだったんだけど、まあ、それももうこんな男にかける時間なんて意味が分からないから
「あとは結城さんにお願いするから楽しい結末待ってるよ」
そんな別れの挨拶。
もう誤魔化しようもできないし、職業柄逃げる事も出来ない。まあ、逃げてもらって罪を増やしてくれた方が俺は楽しいが、一緒に働く人に迷惑かける事だけはやめてほしいのでそろそろお迎えが来るだろうことを期待するようにロビーでおしゃべりをしていれば結城さんが部下を何人か連れてやってきた。
「あ、お見送りとか?忙しいのにありがとうございます! 」
そうじゃないという視線で返されたけどそこは全く気にせずに居れば結城さんはあまり感情を出さずに
「あとのことはまかせてくれればいい。そして相沢一佐、迎えに来ました」
言えばその部下の人たちが両腕をしっかりとホールドしてすぐさま建物の奥へと連れて行ってしまった。
皆でそれを見送り、そのあと何とも言えない視線を結城さんから向けられるがあの男に対する感情はもう何もないというくらいフラットな俺は
「とりあえず結果報告楽しみにしてます。
未来しかない人一人の人生を台無しにしてくれたんだ。少し早い終活になるていどの人生が台無しになればいいとは思いますけどね、って……
結城さんにもプレゼントあげるね。
この散らばってるやつと同じやつのコピーだけど、参考程度にも使っていただければお金をつぎ込んだ甲斐がありますからね」
散らばった写真とかは岳と沢田が拾い集めてくれていたけど、それに視線を落として顔を歪める結城さんは俺に確認を取る。
「本当に良いのか?」
「良いに決まってるでしょ。
そもそも俺あいつが自衛官だって言うのさえ今の今まで知らなかったぐらい関係は希薄だったんだから。親が恋しいなんて思っていた時代はとうに終わりましたよ。
あ、でも俺達に飛び火しないようにそこんところよろしく」
「だんだん図々しくなったな」
なんて少し笑いながらも
「沢田君にも話があるからあと数日こちらに滞在してほしい。
できればお寺ダンジョンにも遊びに行ってほしいが……」
「あ、すみません。明日は特に予定がなければ岳の希望で観光行きたいのでお寺ダンジョンなら千賀さん達に行ってもらってください」
ちゃんとお断りができるようになった俺は岳が楽しみにしていたイベントを最優先する。
「そうだな。だが連絡用件案内役に誰かひとりつけておきなさい。決まったら千賀からこちらに連絡をもらえれば十分だ」
なんて提案に
「やったー!やっと東京観光できる!うちの中学、高校の修学旅行先は東京じゃないからめっちゃ楽しみにしてた!!!」
なんて満面の笑顔は今の俺にとって究極の癒し。
あんな腹の底から呪い殺したい奴と会ったばかりなのに岳の腹の底からの喜びの叫び声にあんな男の存在は一瞬で掻き消えていた。
「イベント行って、そのあとショップ行って、ヤバ!どう考えても一日じゃ無理じゃん!」
なんてハイテンションな様子にみんなも仕方がない奴目という様に笑みを浮かべていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます