6畳の部屋にこの人数はキツイ件

 目が覚めれば自分の匂いが染みついたベッドの中にいた。

 確か下の居間で寝ていたはずなのにと思いながら伸ばした先にスマホがないのでごろりと転がって壁に掛けられた時計を見ればもうすぐお昼の時間。

 寝すぎだろ……

 だけど体が重くて起きる気にならなかった。

 だけどこの家ではいつまでもゆっくり寝かせてくれる環境ではいつの間にかなくなっていた。


「にゃー」


 聞き覚えのある声は

「雪さん。二階に来るなんて珍しい」

 言えば寝ている俺の足元で丸まっていたようでトン、と小さな足音を立ててベッドを下りてうーんと言うような伸びを披露してくれる。

 それからもう一度「にゃー」と鳴いて障子の一番下の破れた部分を通って部屋を出て行った。

「また直さないとな……」

 今はまだ夏場だからいいが冬場になると寒いんだよ。

 でも塞ぐとまた来なくなるしなとの葛藤。

 だけど今は考えるのも面倒と言うようにまたベッドの中に潜り込み、瞼を閉ざせばうとうとと……


「相沢ー!

 なーに二度寝しようとしてるのよー!」


 スパーンと開いた障子に思わず布団を抱きしめてベッドの隅っこで固まってしまった。そして

「にゃー」

 なんて、まだ寝るつもりかとどこか呆れたと言わんばかりの雪の鳴き声に犯人はお前かと思うも

「あー、やっと起きた。

 今からご飯だから食べよーぜー」

 なんて岳までやってきて

「相沢、調子はどうだ?」

 橘さんまでやって来た。

 エプロンを着ている所を見ると今日のご飯の当番は橘さんという事が分かった。

「まだなんかすごくとてつもなく眠い」

「ものすごく眠いのね。

 それは判ったけどだったらなおさら食べて飲んで歯を磨いてトイレに行ってからよ」

「どこのオカンだ」

 言えば苦笑してしまうものの


「丸一日寝ていた相沢を心配するなら当然でしょう」

「ま」


 じか?なんて目を見開いてしまえば

「とりあえずポカリを用意してきたから飲みなさい」

「あざっす」

 言えば三輪さんがキャップを外して渡してくれた。

 みんな心配したと言うようにいつの間にか千賀さんも林さんもいる。

 そして飲みなさいと言われたようにひとたび口に水分を含めば喉が渇いている事を自覚し、一気に三分の二ほど飲んでしまった。


 ほんの二、三口飲んだつもりだったのにとゆっくり息を吐きだせばそっと沢田が手を伸ばしてきた。

 何だ?と言うように眉間を狭めるも沢田に反抗すればひどい目にしかあった事のない摺り込みからおとなしくしていればその細い指先が俺の額をゆっくりと包むように触れて


「もう熱は下がったみたいだね」


 言えば橘さんが電子体温計をもって俺の顔に向かって熱を測っていた。

 この家には水銀計しかないので文明だーと思いながら瞬間的に計る事の出来る体温計を今度買おうと密かに脳内買いたい物リストの中に書き込む。大体忘れるやつだ。

 そんな事を考えていれば


「本当に驚きましたよ」

 

 体温計には俺の標準より少しまだ高めの数値が現れていた。まあ、誤差範囲内だよなと考えている合間に沢田が下がって行った。

「ここは夏だと言うのに夜になると寒く感じるくらい気温が下がって、一昨日の夜は雨が降り始めて気温も二十度以下になったのにお風呂上がりの薄い格好で、ろくに髪も乾かさずに寝たでしょう?

 すっかり体を冷やして見るからに様子がおかしくって体温を計ったら三十九度まで上がったんですよ?」

「橘が体温計を取りに走って来たから何かと思えば夕飯の時間になっても戻ってこない相沢が返ってきたと思ったら熱を出したって大騒ぎだったぞ」

 三輪さんも呆れたと言いながらも心配そうに少し目が据わっている。はい。怒ってらっしゃいますよねと申し訳ない顔をすれば

「我々もやっと帰って来れてとりあえず挨拶と土産を持ってきたら橘が相沢を抱えているだろう?本当に何があったか、ひょっとしたら隔離施設に放り込まないといけないかと心配だったんだぞ」

「隔離施設と言っても我々の宿舎の一室を無菌室にしただけの部屋です。そもそもこの立地こそ隔離施設ですしね」

 林さんも呆れていたが


「で、相沢は何をやって来たんだ?」


 ラスボス千賀さんの言葉に俺は雪に援護を求めるも、雪は知らなーいと言わんばかりにしっぽをふりふりと振りながら後はよろしくと言うように階段を降りて行ってしまった。


 四面楚歌とはこの状況を言うのだろうか。

 まあ、もともとぼっち歴六年を刻もうとしているので動じる事はないけど相手が悪い。

 ムチョマチョな体育系のお兄様方相手に俺が勝てる要素はどこにもない。主に心理的部分で。

 なのでどうやって説明すればいいかと考えるも一瞬でこのけだるい体は考える事を放棄してくださった。

 

「ちょっと15階まで行ってきました。

 相手は象でした。魔象を略したらなんてなるだろうなんて考えたらマゾになりました。

 あとスマホに運が良ければ16階の景色が映っているかと思います」


「それを先に言え!!!」


 なんて千賀さんに叱られたけど全部先に言わないといけない懸案。

 どれを先に言っても支障がないと思ったけどこうなるとむしろ何を先に言えばいいのか逆に分からなくなった。




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