星空の下で食べるカレーの味は?

 お風呂に入ってご飯を食べて、みんなで騒ぎながらアイスを食べた後の雪のブラッシングという至福のまったりタイム。動画を見てギャーギャー騒ぐ沢田と岳と一緒に時間を過ごしていれば賑やかな足音が近づいてきた。

「あ、帰ってきた」

 トイレの奥底から聞こえてきた足音を知らせれば

「相変わらずデビルイヤーね」

「レベルが高いのも問題だね」

 沢田が呆れ、岳も大変だなと言ってくれた。

「ダンジョンの中だといち早く魔物に気付けて便利。地上だと雑音が多すぎてうんざりだけど」

 なんせこの耳だと千賀さんたちの宿舎の会話ぐらい聞こえるのだ。こうなると聞こえすぎるのも便利なのかどうなのかわからなくなってくる。まあ、魔物以外の悪意あるものからの対応も早くできるけど……

 盗聴器すらいらないとはいえ千賀さんたちも対策を取って俺に聞かれてはいけないような事はPCでチャットして話をしているという手間をかけていた。さすがにそれではどんな会話をしているかはわからない。しいて言えばカチャカチャうるさいという事だろう。

 レベルを上げればこの対策もできるのかな?

 オン、オフの切り替えとか……

 このダンジョンならできる気がしてきたけどそれもどうなんだろうなんて唸っていれば


「ただ今戻りました」


 橘さんと三輪さんが息を弾ませたまますぐに顔を見せてくれた。


「おかえりー」

「思ったより早かったっすね」

「ご飯出来てます。今夜はカレーです」


 なんて雪のブラッシングタイムをしていない二人はポテチとコーラでただ流しているだけのテレビのトークショウの笑い声をBGMにスマホでおよそのダンジョン情報を見て謎の大爆笑で笑い転げていた。


 動画といえば相変わらずダンジョンの最新情報を流す俺たちの動画がぶっちぎりの再生回数とどこの国の言葉かわからない文字のコメントで埋め尽くされているけど、どこの国かわからない時点で無視をしている俺達は翻訳機能を使いこなせてない残念な配信者だ。

 もともと返信するつもりもないからね。

 動画を上げれば注目される配信者なのにほんと残念だなと笑う林さんに英語は絶対教ええもらいたくないと謎の反抗心を持つのだった。


 そしてすぐに息を整えた村瀬たちがやってきて最後に件の女子のグループと林さんと千賀さんの到着。これで予定通り救援に行けるなと俺たちの準備は万全だ。


「おー、この匂いはカレーか」

「今日は俺達が作りましたー」


 なんて俺と岳が手を上げれば千賀さんのがっかりした顔。

「沢田君が合わせたスパイスの味が結構好きだったんだけどな」

「いつも沢田の料理が食べられるなんて思ってたら罰が当たりますよ」

 なんてライトに笑ってみせる俺に千賀さんも

「当然だな」

「だったら沢田君、俺と結婚しましょう!そうしたら沢田君のご飯が家で待ってる、最高です」

「林さんそれセクハラでーす!」

 やだー!なんて笑う沢田と傷ついたというように泣き崩れる真似をして見せる林さんに呆れる千賀さん。

 いつもと変わらない様子だけど

「確かに家に帰ったらかわいい奥さんがいて、しかもご飯を準備して待っていてくれている。さらにそのご飯がおいしかったらそれは最高だな」

「うわー、三輪さんの妄想が爆発してるー」

 思わず突っ込んでしまえば

「夢ぐらい見せてくれ」

 なんて恋人を失って二度と恋なんてしないという三輪さんにそれを打ち破る人に出会えますようにと願っておく。

「そんで、林さん。美味しくご飯食べるためにも結果教えてください。

 あ、やっぱり時間がもったいないのでご飯食べながら報告お願いします」

 忘れられないカレーの味になりそうだと一応すでに庭にはキャンプ用のテーブルが並べてあるので鍋をもって移動すればすっかり寒いと思うこの季節でもダンジョンを走ってきた皆様にはちょうどいい気温だろう。

 10度だけど。

 アツアツのカレーがすぐ冷めちゃうかもしれないけどカレーは飲み物らしいしからすぐ食べれば問題ないだろう。

 まあ、食べればだけど……

 楽しい夕食なのになぜか全員顔色が悪く食が進まない様子に何があったのか想像はつく。

 きっとここにたどり着く前まに移動しながらしっかり尋問してくれたのだろう。

走りながらの公開尋問。


 聞き取り調査だろうけど林さんは相変わらずえぐいな……

 しかも千賀さんをそばに置いて威圧をさせながらだなんて……

 それって拷問って言わない?

 おまけに同じ大学の皆様にもその話を全部聞かれているのだ。

 しかも内容が


『あの子ちょっと料理が上手だからって私達の事上から見すぎ……』


 二年間の専門学校行ってその後フランス料理店で働いていたのにちょっとという評価を思わず鼻で笑ってしまう。カレーライスすらまともに作れなかったくせに、と。


『男に媚び売りすぎ。必死すぎて笑えるし』


 確かにお前らもこの人数の中での三人に浮かれているのはわかったけど所詮は大学の中だけの話だろ?

 むしろ俺達より男らしい沢田が媚び売る理由なんてわからない。

 世間に出たとき現実を見るだけどころか残念過ぎるその思考にかなり厳しい現実になるのは考えるまでもない上に


『毎晩毎晩いちいち色目使って。男と同棲しているのにどれだけビッチだよ』


「いや、俺たちの健全な友情を勝手に妄想しないでほしい」

 

 うんうんと頷く岳はいらんことまで言う。


「俺と相沢って童貞だし」

「そんな情報どうでもいい」


 当然沢田に怒られていた。俺の秘密(?)を勝手に暴いたやつをもっと叱ってやってください。

 そしてかわいそうな目を向けてくる皆様にこれは何という公開処刑だろうかと思うもそこは千賀さんと林さん。

「まあ、こんな山奥に引きこもっていれば出会いもないしな」

「そもそもこの二人が女性に出会いを求めようとする姿すら想像がつかないですしね」

「言いたい放題ですね林さん」

「やっぱり医者はモテるので」

「なのにいまだ独身とは?」

「素敵な出会いが大体重篤患者ばかりでして」

 それはどういう意味の素敵なのだろう?

 臓器を見てこの綺麗な臓器を持つ人素敵とか言わないでくれよともつ煮が好きな林さんの見方を見直したほうがいいと考えていれば

「相沢、君なんか怪しいこと考えてないか?」

「気のせいじゃね?」

 勘が鋭い人ってホント困るというかこの人相手ならもっと素直に言っておけばよかったかとちょっと後悔。きっとこれからもこうやって微妙に絡まれる懸案確実だとおもちゃにされるのを覚悟するのだった。




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