沢田 花梨
まったりと時間を潰しながらテレビのバラエティーの音を聞きながらネットを彷徨っていれば一台の聞き慣れた車の音。
暫し待つ事複数の足音とと共に
「よう、邪魔するぜ」
その掛け声と共にどさどさと物を置く音が聞こえる。
お茶をケースで買ったんだっけと思い出して受け取りに行けば他にも俺が愛飲する銀色のヤツが1ケースと洗剤がいくつか。
更に大きな旅行バックに詰められた何かと金属バットとかボロボロのゴルフバックに詰められていたそれだけの間放置されていたゴルフセットとか何を考えてかフライパンとか……
何故かイチゴチョコ大福の三匹も連れてやってきた。
これで全部かと思えば上田の影から現れるようにどこか儚げな姿が現れた。
沢田 花梨
岳の幼馴染にして上田商店の集落と隣町との間に在る峠の蕎麦屋の娘で俺達の同級生だった。
クラスは岳と同じ普通科だったからあまり話す機会はなくとも同じバスの常連だ。
親父、おふくろのW不倫の遭遇でダメージを負っていた俺を岳と二人何かと励ましてくれたこの村の数少ない友人の一人。
いいよ。
別にお前の友達岳と沢田だけだろって言っても……
実際そうだしね……
やべ、意識遠くなりそうになった。
だけど俺の知る沢田はもっとビタミン系の元気な子だったのに、岳の影に隠れる存在じゃないのにと不安がよぎる。
「久しぶり……だね?」
「よう。岳から戻って来た事聞いてたぞー。
戻って来たのなら教えてくれたっていいのに、水臭いじゃないか」
こんな所に居ないでとにかく上がれよ。
カレーあるけど食べるか?あ、食べてきたからいい?
岳、てめーには聞いてないっていうか、カレーは飲み物じゃないから鍋から直接食べるのはやめなさい!
俺達のこんなやり取りにもクスリとも笑わない沢田にどうしたんだと岳に視線で訴えてもただ苦笑するだけ。
沢田は久しぶりの訪問に仏壇に線香を上げてばあさんに帰郷の挨拶をしていた。
時間稼ぎのつもりか岳がご飯を要求して来た所でカレーをてんこ盛りに盛ってやり、ばあちゃんの仏壇の前から離れない沢田に聞こえない声で
「あいつどうしたんだよ?
全然らしくないじゃん」
と聞けば
「調理師の専門学校行ってレストランに修行しに行ったのは知ってるだろ?」
「ああ、フランスのジビエ料理だったか?
時々メールで報告貰ってたけど……」
いつの間にか途絶えたメール。
それは沢田がその地に馴染んだためと少し寂しいものの彼女の成長を喜ばしく思っていたがどうやら違ったらしい。
「母さんが聞いてきた噂話だけど、男に捨てられたらしい。
結婚を迫った途端逃げたんだと。
一緒に店を開こうってためた貯金も持ち逃げされて、何とか探し出したらそいつ妻子持ちだったんだと」
何ですかそのテンプレは……
って言うか諸事情詳しすぎだろう……
改めて個人の情報が筒抜けの田舎怖いと一人ブルってしまう。
「建てたばかりの家に給料とは不釣り合いの外車があって、だまされたってあいつ言ったんだ」
「最悪だな。っていうか、文句ひとつ言わなかったのかよ」
「どう考えても妻子持ちの男に手を出した方が悪いし、一緒に貯めた貯金も男の通帳だったから証明できない。
送金記録があれば少しは取り返せるかもしれないけど、いつも現金で渡していたんだと」
「お前やけに詳しいな……」
「ここに来るまでに本人から聞き出した」
「……」
良く聞き出した。お疲れさまとカレーのお替りを無言でしてあげた。
「んで、大丈夫なのかよ?」
あまりのドラマみたいな内容に不安になって聞けば岳もうつむき
「身体よりも心の方が問題だ。
とりあえず沢田のおばさん達も客商売だし気分転換にって俺が話聞いて連れ出してきたまではいいけど……」
「ダンジョンに連れてく気か?」
「男への恨みをモンスターで晴らせれるなら安い物じゃないか」
そうか?と疑問に首をかしげつつ二人にお茶を入れて岳の分はここに、沢田の分はせんべいと一緒に居間まで持っていく。
「ばあさんの挨拶はもういいだろ?
お茶でも飲もうか。それともビールの方がいいか?」
聞けばフルフルと首を横に振るだけど、テーブルには付いてくれた。
「話、聞いた?」
「まぁ、岳が話してくれた分は」
「そっか……」
言ってまだ心のダメージが強いせいか溢れた涙をぬぐいながら
「久々に会ったのに変な話聞かせてごめんね」
なんてらしくない顔で言われれば俺達の方まで悲しくなる。
「で、これからどうすんのさ」
俺はビールの缶を開ければ、うつむきがちの彼女はまだ決めかねて無いようで首を横に振る。
彼女はこんな儚げでか弱いイメージじゃなかったのにと、何度も励まされた太陽のような笑みを思い出し机の下で握りこぶしを握りしめる。
この場に件の男が居れば確実にぶちのめしただろう。
とりあえず後でネットで正しい復讐の仕方を検索するとしてだな……
「傷ついて帰って来た所悪いんだけどうちもさ、少しまた問題が発生してよ……」
沢田にも負けないくらいの重苦しい声で伝えれば、こんな時でももともと面倒見の良い性格がそうさせるように下を俯いてばかりの彼女の顔を少し上を向かせた。
「ちょっと見てもらえるかな?」
立ち上がり、またあの時の俺の様を思い出してか自分の事でボロボロなのに俺をいたわるように着いて来てくれた。
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ストックがあるまで一日一話で宜しくお願いします!
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