借金鳥のヤバさを改めて思い知る
ダンジョンがどこかの世界とつながった先から召喚されたオリジナルが残した物とダンジョンが模写して生み出した物。
どちらが強いか興味はある。
俺が思うに10階、15階、そして20階はその次のボス部屋までの世界の中で一番強い種族って言うの?が召喚されると思っている。ただの思い込みだけど。
強さにはピンキリがあるけどそこは運ゲー。キュートな子象が出た時は本当にピンチだった。
そして現れた天使と悪魔。
一人二役、背後には何がいるんだろうと考えればビビってしまうけど今はそんな奴が残して逝った剣で借金鳥が振り回す鎌に対応している。
使い心地に不満はない。しかし剣を鑑定すれば
魔界の剣
ランク:8/10
攻撃力:400
備考:闇の加護
「しまった。沢田向けの武器だったか」
これにあのえげつない効果が上乗せされたらどうなるんだろうと期待は膨らむけど今は目の前の敵に集中する。
死神の鎌対悪魔の剣。
なかなかに禍々しい戦いになりそうだ。
気持ち空気が重くなったような気もしたがそれは気のせいだと思う事にする。こんなにも緑に囲まれて気持ちのいいところなのにね。
なのに鎌を振り回しながら追いかけてくるのだからたまったもんじゃない。
挙句に木をばっさばっさ切り倒すから足場も悪く、とりあえず俺の邪魔になるので木は収納しておく。
おかげで薪確保と言うか何というか……
「ちょ!相沢!これ以上木を切られると隠れ場所がなくなるんだけど!」
なんて沢田に怒られてしまった。
「俺も頑張ってるからとりあえず頑張って!」
俺だってそれどころじゃない。
軽々と木を切り倒す鎌なんて俺だって欲しいけど、今まさに俺はそれに刈られそうで、雪だったら小回りもまとも小さいから余裕によけていたけどこういう時人間って本当にどんくさいよねと髪の毛先がピッと切られてしまう。
「やっぱりそろそろ髪切らないといけないか?!」
「今それ気にする?!」
なんて突っ込まれてしまうけど、俺はある程度見晴らしの良くなったこの広場で借金鳥と対面する。
とりあえず俺好みのフィールドにするためには切り株が邪魔だ。
俺は切り株の根元に足を引っかけて
くいっ……
ぼこっと木の根が抜けた。
山でさんざん磨いたこの伐根術。
表情はないけど多少驚いたような姿を見せる借金鳥にすかさず俺は
「くらえっ!!!」
そのまま伐根したものを借金鳥に向かって蹴りつけるのだった。
まさか蹴り飛ばしてくるとは思わなかったようで正面から受け止めてしまい、そのまま吹っ飛ばされて背後の木に挟まれる結果となった。
もちろん怪我一つ負ってはいないのは理解していたけど
「このサイズなら割とうまく出来るのにな」
千賀さんみたいに小さな小石を拾い上げてのシュートはへたくそだけどこれぐらいの大きさと重さがあればそれなりに俺だって上手にできていると思う。
山で倒木してた木をこうやって処理していただけあってそれなりに練習は積んでいる。
重機を入れる事が出来なかったから爺ちゃんが死んでからうちの山ってずっと放置されていたからね。雪の重みで倒れた木はもちろんそこに残された株を放置するのは山にとっても不健康な結果を生み出すことになる。動物が隠れる場所になったり大雨が降った時そこに泥がたまってふとしたきっかけで大量に流れてきたりといろいろな事が起きる。
そんな土地にダンジョンが出来てダンジョンの外でもこの力が使えるとなれば気合を入れて山の整備に手を入れたのは言うまでもない!
そんな俺が編み出したこの技を見ろ!
「おーら、まだまだ伐根、伐根行くぞっ!!」
「言い方やめてっ!!!」
株を引っこ抜いてから蹴り続けるための気合に沢田が切れる。
「三輪さんあのセクハラ男何とかできないですか?!」
「いや、ただの園芸用語だし。限りなく黒に近いグレーだけど言葉と作業があっているからセーフになるかな……」
とはいえ三輪さんも俺がここまで開き直って叫ぶさまに苦笑い。笑いが取れて何よりだ。
借金鳥に言葉が通じない事を良い事に気晴らしにアホなことを大声で叫んでしまうのは蝙蝠男と借金鳥という謎の相手との二連戦と言うテンションもあるが、これだけ株をぶつけても崩れ落ちた株をかき分けて姿を現した借金鳥は当然傷の一つも負っていない。
雪にむしられて治ってない所だけが痛々しいけど。
心なしか足元はふらついている。
なので
「鑑定!」
ちょっとのぞき見させてもらえば
借金鳥 (---才) 性別:メス
称号:---
レベル:---
体力:---
魔力:---
攻撃力:---
防御力:---
俊敏性:---
スキル:自動修復
「ちょっとこれ何!!!」
よくわからないというか全くわからないステータスに驚きながらもまさかの借金鳥って名前に確定だったうえにメスだった件。
「相沢、ギルティ」
「すみません。玉子食べさせてください。いえ、セクハラはもうやめます。
雪もこれ以上女の子の毛を毟ちゃだめだよ。せめて一撃で仕留めるんだよ」
「なー」
沢田にビビりながらも言えばそっぽを向かれた。
雪は普通にヤル気だ。
ぶれない雪、かっこいい。これこそ見習う姿だ。
だったら俺はとりあえず
「こんな鎌を振りまわる奴絶対女子枠に入れるのに異議申し立て!」
ステータスを覗かれたのがまるで恥だと言わんばかりに鎌を振り回す借金鳥からまた逃げ回る。
それなりに感情はあったのかと思えば借金鳥もただのビジネスストライクな鳥だと考えながらあの自動修復とかいうスキルが面倒だなと顔をゆがませる。何せ数値的な情報が一切ないこの借金鳥。破壊されたらすぐ修復と言うのも頷ける。さっきまでふらついていた足元はもう元通りだ。
そして毛ではなく羽が生えないのはたぶん、修復するまでもない微々たる変更程度なのだろう。服が破れた程度のダメージだとすれば修復するまでのないできごとなのだろう。
俺達がこんな目に合うとかなり深いダメージになるのにねとやっぱりこのダンジョンはいろんな意味で気が許せないと警戒してしまう。
そんなわけでダンジョン内のスキルから発生した借金を回収に来たという事ならたぶんこの鳥はダンジョンのオブジェなのだろういわゆるNPC。
それなら一切の攻撃もダメージも受けないのは納得したし、この回復という代わりの修復能力の高さも理解できる。
そして工藤が逃げられないのもダンジョンとかかわる以上仕方がないだろう。
とはいえ借金の回収の執念はすごい。
邪魔する俺達を排除しようとかその根性にはドン引きだけど普通に考えればまじめに仕事をしているだけ。かなり過激なストーカーだけど……
ステータスを見られた借金鳥。まるでスマホの中身を見られたようなその反応。切れっぷりにさすがによけ続けるのもしんどくなってきた。
因みに俺のスマホの中身は見られて恥ずかしいものはない。
むしろ見るものがなくて申し訳ないというくらいに中身がなくて恥ずかしい程度。残念!
とりあえず俺は剣を構えなおす。
「さっき蝙蝠男がダンジョンを部分的にも破壊に成功したんだ。その体で試させてもらおうか」
「だから言葉!」
ぶれずに突っ込んでくれる沢田の声は集中して俺には聞こえない程度に集中している。
闇の加護ぐらいしか効果のない剣だけどさっきあの蝙蝠男が見せてくれたあのブラックホールのような魔法。
大丈夫。
俺はやればやれる子。
婆ちゃんも言ってたから間違いない!
思い出すイメージはさっき見た突如生まれた真っ黒な塊……
「大きくなって飲み込むっ!!!」
蝙蝠男の真っ黒な剣をで襲い掛かれば巨大な鎌で俺の剣を受け止めた場所を起点にイメージを爆発!
黒い塊が生まれた。
生み出しておいて背筋がぞっとする。
本能的に一度でも食らったら命がない、そんな恐怖が鳥肌を生み出すが、それでも表情を変えることなく、そしておびえる事もなく黒い塊に飲み込まれていく借金鳥に恐怖さえ覚える。
感情のないこんなのに襲い掛かってこられていたという恐怖に俺は黒い塊をコントロールしながら距離を取ればすぐさま借金鳥を飲み込んだ。
そして魔法を解除。
一部地面をえぐり取りながら何もなくなってしまった空間に借金鳥の鎌だけが取り残されていた。
柄の部分が一部消えてしまったが、その滑らかな切口にこの魔法のヤバさを改めて思い知った。
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