友を待つ間に
すー、はー……
すー、はー……
胸いっぱいに雪しゃんの匂いを吸い込む変た……いや俺。猫好きあるあるなので問題はない。
時々俺の精神がよろしくない時こうやって触らせてくれるからそれだけ俺がやばいってことだろう。
ありがたく触らせてもらおうじゃないか(キリッ)
それを沢田にやったら絶対殴るだけじゃなく蹴られて踏まれてしばかれて……
ああ、女王様が出来上がったよ。
もともと女王様の素質があったんだと改めてどうでもいい事を思い出しながらどれだけ昔に攻略されたのかまだ風化しきってないお骨様の集団にあれがまだ生生しくって肉が残ってたら絶対無理だなと想像してまた気持ち悪くなる。
だけど今の俺にはその対抗策がある。
先日存在を思い出した親父の顔を思い出してみよう。
「あ、すげームカついてきた」
秒でお骨様の事を忘れて腹立たしさの方が増す。
それに気づいてか雪ももう大丈夫だなと言わんばかりに俺の腕からぴょんと飛び降りて身づくろいという様に念入りに体を舐め回していた。
「そんなに臭くはないつもりなんだけどなあ」
『相沢の匂いを消してるだけでしょ?!』
なんて岳の雪を憂いる視線を向けながらの突っ込み。
分かっていても俺色に染めたいじゃないけど触らせてくれる時は触りまくりたいものじゃん?と言わずにはいられない俺。かわいそうな子を見る目を向けるな。
そんな俺の匂いを消そうと必死にペロリスト化している雪に
「みんなが合流するまで休憩しようか」
「にゃ!」
カリカリとお水、そしてちゅーるは別皿で用意すればすぐに身づくろいをやめてちゅーるタイムに突入。
ああ、雪さん。ちゅーるを食べてる時が一番かわいいよ……
飼い主としてこの発言はいかがなものだろうかと思うも俺も前に買いだめしておいたパンをかじりながらカセットコンロを取り出して薬缶に源泉を入れる。
温泉なのに硫黄成分がないので本当に飲みやすいのがありがたいがアツアツのお湯ではないので沸かす必要がある。魔法で熱湯も作れるけど
「やっぱり源泉の方が美味しい気がするんだよね」
実際効能として怪我や痛み、疲労などによく効く。あの林さんの顔の火傷も今ではほとんどうっすら程度だ。
千賀さんの訓練に付き合って可能な限り二人で湯治に通っただけはある。むしろよく効きすぎて怖いよと言うのは俺にはまだ虫歯の治療程度の体験しかしていないからか。
そんなことを考えているうちにお湯も沸き
「やっぱりこういうときってコーヒーが飲みたいよね」
緑茶派だけどキャンプで飲むコーヒーってすごくおいしそうに見えるじゃん?
インスタントコーヒーをみて前に沢田がおやつに作ってくれたワッフルを取り出して食べながら俺達がいる事で集まってくるお骨様たちの集団に遊んであげている雪の姿を眺めている。
ああ、雪しゃんかわいい……
そんなまったりタイム。
今の俺の視界にはお骨様は一切入れず、雪しゃんが活躍する姿しか俺には映っていない。ああ、至福……
この玉座の間から水を流したから下の階にほとんど魔物が押し流されたのだろうけど、上の階から降りてくる魔物にどうしようかと思うもそこは雪が喜々として遊んでいるので正直に言えばやる事がない。
とはいえ上からお骨様一行が下りてくるのでどうしてもこの王様に謁見するような広間にやってくるとかなんて言うボーナスステージ?と言わんばかりに雪は大はしゃぎだ。
そして仕留め終えた後の次のお骨様たちが来るまでのインターバルの時に俺の所に戦利品を見せに来ないでほしい。
まあ、これも雪が俺を気遣う優しさなのだからいらないとは言わないけど、目の前に積みあがっていくお骨様。いい感じに山になってるのは見ても何とも思わない。
あれよ。
理科室にお住いの人体骨格模型の角さん。
理科室のすみっこに置かれているから小学校でつけられた名前。ちなみに角さんがやってきた当時の教頭の名前をちなんだとかいう噂もあるが俺が知った時には誰かが作った手作りエプロンに名前を刺しゅうまでしてあったので理科室の住民として子供たちには大人気だ。小学校だからね。
だけど今目の前にあるのは雪が適当に咥えて持ってきた骨が山積みになっただけのもの。
これなら俺は全く生理的嫌悪を感じないので大丈夫。
むしろ
「うちの雪がすみませんね。俺にお骨様耐性つけたいらしくて大人げなく無双しまして……」
なんて暇も合わさり手も合わせて語り掛けていれば
「そうだ。いいものがあった」
俺は収納から段ボール箱入ったままどころか宅配の伝票が張られた状態の未開封の物を取り出した。
びりびりと封を開けて中身を取り出す。
入っていたのは小さないくつかの箱。
その一つを開けて緑色の束になったものを一つ取り出す。
帯を外して扇子のように広げたら火をつけて……
立ち上がる炎を手で仰いで火を消せばくゆりと揺らめく煙が立ち上るのを眺めた。
そして雪の戦利品の前にそれ、お線香を置いて
「どうか成仏して二度と復活しませんように」
なむーと手を合わせる。
なんとなくいいことしたな。そんな思い込みだけど一つ箱を開けてしまったのだ。
どうせなら一箱ぐらい使い切ってもいいよな。
なんて顔を上げれば
「雪、ちょっとお線香あげに下に降りるからここで待っててな」
「にゃー!」
いいお返事。
とはいえ沢田たちもそろそろ来る頃だから手早く終わらせよう。
言いながら階段を下に降りながら各階ごとにお線香に火をつけて置いてくる。
床は濡れているからあまり使ってないお皿の上に置いて湿気を防ぐ。
そのまま城の入り口を目指して歩くもなかなか水の勢いがすごかったようで全く魔物どころかお骨様にも合わない素敵なお城。
そして水も引いた街並みを見ればふと視界の端にどこから飛ばされてきた種が咲かせ、楚々とした白い花が風に揺らめいていた。花の名はもちろん知らない。
あれだけの水害にあっても咲き続けるその花を俺は少し悩んだけど摘んで
「やっぱりお線香のそばには花も必要だよな」
煙の立ち上るお線香の隣に一輪添えて、主がいなくなって久しいこの城に少しぬくもりが戻ったような気がした。
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