掃除でもしてあげようか

 さすがに各城の一階にお約束のように設置されてる蝙蝠と蜘蛛の落下トラップ以外休まずに走り続ければ俺だって息は切れる。

 なのに源泉で体は回復、どんなブートキャンプ?と雪のスパルタに悲鳴が上がるがうちのダンジョンの蝙蝠と蜘蛛の少なさに感謝する。

 こいつらここでは捕食関係じゃなく協力関係とか本当にたちが悪いと一気に収納してはお外に向かって近くの窓からぺっと排出。

 いちいち扉の外まで出なくてもごみを捨てる分には窓から捨てれることが可能な事が分かりいちいち扉まで行かなくてもいいのならと思えばそうするべきだと思うのは当然だ。なんとなく窓からごみを捨てるという罪悪感を感じながらもいつまでも俺の収納空間に蝙蝠とか蜘蛛とかを入れておく方が精神的にもよろしくないのでぺっと処分。お近くにお住いの魔物が処分してくれるだろうから問題はないだろう。

 そしてやっと膝をがくがくとさせながら19階に続く城の階段を登り切って

「なんでこの世界の階段はやたらと段差が高いんだ!!!」

 なんて叫ばずにはいられない。

 うちのダンジョンなら階段なんてひとっとびだけどこれだけ魔物が多いとそれもできない。飛べばすぐ様魔物がとびかかってくるからね。

 しかも19階となれば毒霧ぐらいでは倒れない。ふらふらしながらも襲い掛かってくるその本能。毒霧の重ね掛けでお断り。

 よいね、毒霧。

 たとえ廃墟とはいえオブジェクト化した建物だって戦闘の激しさに破壊されていくのに毒霧は破壊されることなくただ敵を倒していくだけ。

 毒霧まみれの魔物を収納して窓からぺっと掃き出し、毒漬けの魔物を食べた魔物もお亡くなりになるこのコンボ。当然俺のレベルの糧となってくれる謎の神仕様。レベルはもう早々に上がらないけどね。

 いつか俺達も俺の毒霧で召されるのでは?なんて思うもとっくに毒霧の付着した肉を何度も食べている。

 俺のポンコツステータス接続権利ではまだ見られないけど毒耐性が付いているよね?これ絶対ついているよね?なんて感じている。

 まず第一にこれだけの魔物が毒霧だけの戦闘で逝っちゃってるのに俺達は全く害を感じていない。

 魔法発動者だから毒霧が効かないなんて考えたけど沢田たちにも効果はないし、村瀬たちはもちろん工藤にも効いていない。工藤ぐらいだったら効くと思ったけど味方意識がないだけにやっぱり毒魔法に耐性ができている方が確実だと思っている。

 実際バルサンをちょっと吸い込んだからって俺達死なないからね。

 こんな使い方をしていたらいつか製薬会社から怒られそう……

 ばれないように注意なんて改めて19階のフィールドを駆け抜ける。

 

 俺が思う所16階からは俺もなじみのあるド田舎感満載の街づくりだ。

 別のダンジョンだけど19階の世界観を知っているからこんな風に思ってしまうのだろう。

 基本石造りの建物の文化の中で木材を作った家は16階で多く見られ、17階でもスタート地点ではかろうじて残っている。それが18階では物置っぽい小さな小屋ぐらいのものがあり、19階では全く見なくなってしまったのだ。

 街作りもそう。

 16階は城の周りだけ石畳が敷かれ、19階ではスタート時点から石畳が敷き詰められていて歩きやすかった。

 と言っても魔物が石畳を掘り起こしたり雑草が隙間から生えてたりとそれなりに自然の中に飲み込まれていたが、それはうちの道路でもある事なのでこの状態でもしっかり石畳が残っているのは感心していた。

「やっぱりアスファルトと石畳じゃ耐久年数が違うな」

 そんな生命力のたくましさはどの世界でも変わらないかと感心してしまえば襲い掛かってくる魔物を毒霧で倒しながら19階の城に一番近い壁の内側に入る。

 今までの階層より立派な城を見上げ、街づくりから分かるように王城というような圧倒的な権力を持っているようにも見えた。

 今となれば廃墟だけど。

  その廃墟は街の入り口より圧倒的に硬い石とそして綺麗に恐ろしく隙間なく敷き詰められた石畳に案内されるように足を運べば……

 

ギィ……ギィ……カタカタ……


 どこか金属音の擦れるような、何かが擦りあうようなどこか不安を呼び起こす音に俺は深呼吸をして心を落ち着かせる。


 大丈夫、もう何回も見た。見慣れたから大丈夫。


 くるりと振り向けばもうぼろぼろの、劣化して壊れたかろうじて鎧と呼べるものを身にまとう骸骨の集団がやってきた。

 うん。

 骨とかって岳とか沢田のおかげで見慣れたと思ったけど……


「やっぱ無理!むり!ムリーッ!」


 叫びながら収納していた川の水の残りをぶちまけ、いきなりたぶん王都だろうこの街が水没した。

 もちろん壁から溢れ出て映画が始まる前みたいに豪快な水しぶきあげてたけど同時に何か魔物も流されて水圧で跳ね上げれていた。

「骨綺麗だけど顎がカタカタ言ってて無理!生理的に無理!」

 高い壁の上に避難して水圧に負けて崩れる壁から水が抜けていく景色を見ながら

「なんでホラゲーとかラクショーなのに……」

 思わずしくしく泣いてしまったけど


 にゃ~


 どこからか聞こえてくる雪の声に視線を上げればきっとそこが玉座の間だろうか。

 広いテラスのような場所から俺を見下ろしている姿を見つけ


「雪しゃ~ん!今行くから待っててね~!」


 水に流されて笑う骨たちもいなくなり、ついでにこの街を縄張りにする獣たちもいなくなれば当然場内も水没した城を駆け抜けて襲い掛かってくる獣たちを無視して玉座の部屋に入る前の階段から下に向かってまだまだ残ってる川の水を一気に城の中に流し込む。

 うん。これで多少魔物は減ったよねと満足した所で……


「雪しゃ~んお待たせ!!!」

「な……」


 全力で駆けつけて雪を抱きしめながらその背中に頬を擦り付ける間、雪はまるで耐えるかのように俺に触れさせてくれるのを良い事に俺は精神の安定を図るごとく雪の匂いを胸いっぱいに吸い込むのだった。




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