パンダカラー、いつまでもかわいいと思うなよ

 竹藪の世界の次も和の世界だった。

 鬱蒼とした森の中。

 はるか上空を埋め尽くす伸びた木々の枝の下を走る事になったが恐ろしいばかりの熊笹の世界。

 他の植物は熊笹に淘汰されてほとんど見当たらなかった。

 

「クッソー、見たくもないのに見たら熊笹を刈り取りたいという思いはなんでだ!」

 俺の叫びに岳も賛同するように

「異世界まで来たのに熊笹に悩まされるなんて全部刈り取ってやる!!」

「いっそのこと熊笹なんて燃やしちゃえ!!!」

 花梨までオコのようだ。

 豊かな自然の恵みが溢れる所を熊笹がだめにするなら当然かと頷くのは橘さんだった。

 熊笹に悩まされる苦労を知る岳と花梨との気持ちは一緒だから三人で思いっきり熊笹をせん滅する方法を言い合ってしまう。下手な事を言ってるとダンジョンに聞かれて変な気づかいをされますよなんて林さんのボヤキは聞かないようにして


「普通に燃やしちゃえ! 森事燃やしちゃえ!」


 花梨の安直な方法に


「そうなると生態系も狂うけど魔物だしそれもいいか。どうせ異世界だし、魔物は敵だし?」

「燃やしちゃおうか?」


 なぜか岳と花梨はノリノリの燃やす方法に話を向けているが


「せめて我々が次の階層に向かったらやりなさい」

 

 千賀さんもおかしなことを言い出した。

 まあ、仕方がないか?

 足を取られて転んで気がついたらみんな熊笹汁塗れ。

 密かにみんなブチギレてます。特に新人のエリートのお三方は熊笹薮なんて歩いた事もないだろうから最後尾から俺達が踏みしめた獣道で着いてくるのがやっとのようで挙句に転んでいる。目も当てられないとはこういう事だろう。


「毒霧を覚えたから今度は除草剤を撒いてみようかな。なんか気持ちよく人間好みな人間好きのする大自然を作れそう。むしろそれぐらいしないとね」

「殺虫剤が染みついた次は除草剤付きのお肉か……

 初めての頃は好奇心で食べちゃったけど今は自制心出来たしね」

「若かったなー」

 なんてまだ半年もしない出来事だけど。


「君たちはそんな危険な事をしていたのかね」


 伴さんの驚きの声。

 だけど俺は皆さんあの話を知っているだろうから容赦なく言わせてもらう。

「まあね。

 ダンジョン対策課の方針でがっつり放置された間は自衛するしかないじゃないですか。

 それに俺には頼れる親族がいないから逃げ出すこともできないし、雪たちを置いて逃げる事も出来ないですしね」

「猫邸だとは話に聞いているが、君の所で育った猫なら逞しく生き延びそうじゃないか」

「まあ、婆ちゃんがたんぱく質は自分たちで捕れっていう教育方針だから。その逆の方が多いって言うのにね」

「ほんと相沢のばーちゃんワイルドすぎwww」

 そして鬼軍曹が生まれた。

 納得したような納得できないような軍曹の部下たちだがそこはみんな口をつむぐ。

 ここは下手に突っ込まない方がいい、相手が軍曹なだけにこの行程がこれ以上ハードモードになるのだけは避けなくてはいけないという様に口をつむぐ。

 因みに軍曹はその小さな体を生かして熊笹の根元をかいくぐり

「にゃっ!」

「いいの捕まえたなー。角の生えているねずみー、でも生で食べちゃダメだぞ」

「なぅ……」

 生食禁止と注意すれば自慢しに持って帰って来たのにがっくりとした顔でねずみーを俺へと押し付けてまたささっと熊笹の世界へと消えていった。俺への嫌がらせのねずみー祭り決定だ。

「ねずみーいるんだね」

「しかもパンダカラー。モノクロの世界かここは……」

 収納する前に初めて見るパンダカラーのねずみーをみんなで眺めるも

「ダンジョンにはこんな大型犬サイズのねずみーがいるのですか?」

 加藤さんが恐る恐る聞いてくるが

「普通にいるよこのサイズ。

 むしろ馬サイズじゃなくって良かった」

 俺の言葉にみんなうんうんと頷きながら

「考えれるのはこの熊笹の高さにまみれて攻撃してくるサイズか?」

 工藤がどこからか持ってきたとらっぽいけどパンダカラーの何かを見ての感想。

 ねずみもとらも同じサイズってどういうことだよと俺達の世界の感覚からまったくもって意味不明なバグを覚えてしまうも

「君たちは、なんて言うか、慣れてるんだな……」

 伴さんの言葉に全員で首を向けて

「ダンジョンの中ってこんな事ばかりだから今更っていう様に慣れますよ」

 花梨の言葉に岳が拍手をしていた。

 背後で三輪さん達も頷いていたけど一応警戒しているから拍手に参加はしてくれなかったけどね。

 見上げるような象とか以前に人間サイズのGがいる時点でダンジョンがまともじゃない事は分かるものだろうと突っ込みたい。

 けど少しだけ緊張をはらむ空気。

 風で揺れる熊笹は一定方向になびいていない。

 気配は一つ、二つと消えていくが、それでも減らない気配は無数にあり……

 千賀さんが手でジェスチャーするのを見て改めてみんな警戒するように武器を構える。

 だけどここは巨木と熊笹の生い茂る森。

 普通に走ってても足を取られる状態でまともに戦闘なんてできるはずもないし、こんな所でゲストに怪我をさせるのも申し訳ない。

 せめて天使様や蝙蝠様を見てぜひ今後の対策をしてもらえるようにお三方を連れていけないというのに……


「とりあえず地面を揺らします。同時に森の木事熊笹を切り倒しますのでこぼれた奴らをお願いします」


 言って返事を聞かずに俺を中心に地面を揺らす。


「地震」


 マゾの攻撃からヒントを得て覚えた魔法。

 明確な呪文なんて知らないし、厨二病的なそれっぽいネーミングセンスもないから誰でもわかる、むしろ少し頭をひねらせよと言うような呪文にみんなの冷たい視線。そう言うのは俺に期待するなと言わんばかりにいつの間にか岳の頭の上に雪が乗っかっているのを確認してからの……


「草刈り」


 あからさまに馬鹿にするような視線の中俺は魔法を解き放った。

 いいじゃん。

 俺の理想の魔法なんだよ?

 この魔法のおかげでどれだけうちの山が綺麗になったか知ってる?なんて問いただしたいのは今が我慢して……


 草が刈れたと同時に赤い水たまりを幾つも発見した。 

 もちろんそれを逃れたのもいたが、それはすぐに岳と工藤、そして雪によって排除された。

 その中で巨木の倒れる音と地響きを感じながらまた無駄に自然破壊をしてしまった……なんて哀愁を漂わせていれば


「このダンジョン攻略は我々が想像していた斜め上を行く事ばかりだが、それ以上に大雑把な攻略なんだな」


 あきれたように伴さんが言うものの


「健全な山には熊笹はこんなにも必要ありません。

 そして光の入らないような森ならば間伐必須です。

 大雑把のように見えてもこの不健全な森に空気を流しただけなので何も問題はありません」

 

 なんてきりっとした顔で言って見せるも


「相沢、それっぽく言えば納得してもらえると思ったら大間違いだぞ」

 

 林さんが言う様にこのあたり一帯の木々は間伐何て違うだろという様に頭上には青空が広がっていて……


「てへっ。

 新人さんの前だから気合入れすぎちゃった☆」

「はっ」


 適当な言葉で誤魔化せば林さんに馬鹿にされたのは、まあ、当然だろう。

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