とりま夜来るわ
「相沢……何悶絶してるんだ?」
ゴロゴロと居間を転がりまわっていた所に岳が戻ってきた。
それから洗濯機借りるぞと、ここまで汚れた服は持って帰れんと言う。モンスターの返り血を浴びた服をうちならいいのかというように容赦なくうちの洗濯機の中に突っ込んで洗剤を入れて勝手に使うのは……やっちまった後だからまあいいが……
「とりあえずこれから使うつもりなら風呂セットと洗濯洗剤持参してこい」
「りょ―かいっす」
無駄に脱衣所の広い古い家になんとなくもう一つ洗濯機買おうかなと思わずにはいられなかった。
「所でさぁ、俺の称号にダンジョン発見者って言うのがあったよな?」
「んあ?そういやあったなぁ。あと+も付いていたよな?
ダンジョン発見者上級者って意味か?」
麦茶貰うぞーと言いながら麦茶のペットからコップに注いで喉の音を立てて飲んでいた。
まぁ、俺ん家の物みんなお前の店で買った物ばかりだから何があるか知っているだろうとは言えども、今日は麦茶買わないとなとスマホの買い物リストに加えておく。
「あの+さあ、ツリーになっていて特殊スキルの一覧表が出て来たぞ」
「うおっ?!まじ?!ちょ、見せてよ!!!」
空になったコップを乱雑に置いて駆け寄ってくるも、立ち上げたステータス画面の称号の所にはもう+の文字はない。
「え?え???」
「悪いな。スキルは一覧の中から3つ選べて既に選んだあと」
俺は岳のステータス画面にはない三角矢印を押して次の画面へと移動する。
「なに?ちょ、これ…… え?なん?」
ただでさえしっかり働いてない頭がショートしているようだ。
ボキャブラリーが単語以下になって食い入るように覗き込む画面を瞬きもせず見つめていた。
「俺が思うにはお前が貸してくれたラノベの作者、もしくは近しい人にダンジョン発見者がいると思うんだ。
だから、一般には現れないステータス画面の作りを知っていると俺は思ってるんだけどね」
俺の勝手な想像を語る横で岳は自分のステータス画面を立ち上げる。
空中に浮かぶ緑色の枠と文字は当然触れる物ではない。
ステータス画面と言うにはお粗末すぎる物だが、俺と見比べながら俺にはあって岳にはない三角矢印の場所を探すように触れるも手は宙を撫でるだけ。
「うおおおおおおおお!!!!!!!
俺も詳細ステータス見てえええええ!!!!!!」
言いながらも俺は何気なく岳のステータス画面に触れる。と言うか、床を転がる岳に合わせてステータス画面が移動したために触れたのだが……
異変はそこで起きた。
大してさしたる異変ではないが、岳の画面にもかすかなノイズが走った後矢印が出現した。
暫くしてそれに気づいた俺達はなんで?と頭を捻るも岳がそれを触れると矢印は消えてしまった。
どうして?
俺がもう一度頭を捻って触れれば矢印が出現する。
そしてその矢印をタップすれば次の画面が出現して岳の詳細ステータスが出現したのだった。
上田 岳
レベル:8
体力:89
魔力:―――
攻撃力:121
防御力:87
俊敏性:117
スキル:―――
魔力が発生せず、そしてスキルも発生してなかった。
「何で魔力がねーんだあああああ!!!!!!」
「うるせー。
んなのステータス見ればわかるだろ」
「どこが?!」
涙ながらに胸ぐら掴まれて訴えられても知らんがなと言うしかないが
「とりあえず俺のをもう一度見る。
ステータス画面は俺達の行動が反映されていると考えろ。
岳はひたすらバットで殴り倒してたんだろ?
だから攻撃力が上がり、魔物を見つけては走って追いかけて討伐してきたんだろ。
俊敏性も上がっている。
攻撃一遍だから防御力も育ってないし、魔法も使ってないから発生もしてない」
「言われたら確かにそうだけど、魔法の発生条件って一体何なんだよ」
「多分バルサン焚きまくりだと思う」
「おふ……」
何とも言えない目をした俺達はさっと視線を反らし冗談はやめてくれと思いながらも岳はあくびを零し
「まぁ、また今夜来るわ。
店開けないといけないしな」
「おう。とりあえずこっちももうひと眠りして夕方買い物に行くな」
「おーけー。
バルサン大量に仕入れとくわ」
「切実に頼む」
そう言って玄関から出て行った岳と一緒にイチゴチョコ大福もするりと玄関を抜け出す。
岳は車に乗って去って行ったが、三匹は納屋の裏側へと回り……多分マーキングをしているのだろう。
どうせ見渡す限りうちの土地だし、放っておいても納屋に戻ってくるし、鎖をつけないと散歩に連れてってもらえない上にご飯が貰えない事も知っているからよほどの急な来客がない限り大丈夫だし、運送会社の兄ちゃんや郵便局のおっちゃんとはお友達だから吠えるどころか大歓迎する始末だし……
番犬になってねぇ……
まあ、うちには他にも守護神がいるから安泰だけどなーと、ダンジョンの入り口に風呂の蓋をおいて二階にある自室へと足を運ぶのだった。
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