ちょろw

 岳のくせに良い提案してくれると感心してしまえば

「既に公表されているダンジョンだと1階はライセンス取得者の為の場所だし、5階までは初心者であふれているだろ?

 何とかものになる物を手に入れるなら9階まで進まないといけない。

 だけど、それは人が溢れたダンジョンの話しであって、数さえ手に入れる事が出来ればそこまで行く必要はないと思うんだ」

「薄利多売と言う事か。

 雑貨屋の店主候補とは思えない発言だな」

「本当は農業継ぎたかったんだけどね」

「お前の頭じゃ農業系の大学無理だろ……」

「自慢じゃないけど農業系の高校も入れなかった」

「食の安全の為にもお前は肉体労働に従事しろ」


 えー?なんて笑う岳の成績は驚くほどに壊滅的だった。

 掛け算の間違い……掛け算で躓くと言う事は割り算もしっかりと躓き、揚句カタカナも時々怪しい時がある。

 

「うちの農業本気で継ぐ気満々だったから勉強って必要ないじゃん何て思ってたのになー」

「本気で継ぐ気だったら今からでも本気で勉強しろ」


 進学科に居た事は転校と共に知れ渡った為に同じバスに乗る岳に転校して翌日にテストを控えたありえない日に勉強を教えてくれと懇願されて今頃遅いとオブラートに断っても泣き付かれた所から俺と岳の縁はなんとなく始まった。

 

「それよりもさあ、ダンジョン入って何か変わった?」


 聞かれてぎくりとした。

 当然岳は俺の反応を見逃す事はなく


「なに?ひょっとしてレベルが上がったー?」


 昔からあるゲームのポップアップなメロディーに乗せて聞いて来る加減にイラっとくるものの素直に白状しておく。


「ダンジョンってちょろいかもしれん。

 バルサンでもレベルが上がった」


 そう言ってこの世界にダンジョンが出来たと同時に誰もが視認出来るようになったステータス画面を上田に見せた。

 本来これはイジメにつながるので人に見せる事は良しとしない風潮になっているが、お互いの許可があれば誰もが見せ合っているものにもなりつつある。

 さっきも言ったように今の俺はかなり動揺しているらしく、いつの間にか二桁のレベルまで上がったステータス画面に岳に助言を頼む事にした。


「ラノベ好きなら何とかアドバイスをしてくれ」

「とりあえず一回家からバルサン取ってくるからそれまでイチゴチョコ大福とここで待機だ。

 バルサンおごってやるからここでじっとしてろ」

「ちょっと待ってくれー!!!

 俺を一人にするなー!!!」


 すくっと立ち上がってビールを飲んでいるのにもかかわらず岳は車のキーを取り出して家へと向かって行ってしまった。私有地だからOKか?いやダメだろう。だけど声はすでに届かず無情にもテールランプが遠ざかって行くのを眺めながら、このひと騒動に納屋からイチゴチョコ大福が心配して大騒ぎをしてくれている。餌をくれる餌係が餌を差し出さずに去っていくとは何事だろうかと言う所だろうか。イチゴチョコ大福の下僕としては許せない行動なのだろう。

 とにかく今は一人になりたくなかったのでイチゴチョコ大福を家に連れ込みダンジョンに向かってバットを側に置いて、おばさん自慢の煮物を頂けば餌係の事なんて忘れて三匹がきゅーん、きゅーんと涎を垂らしながら俺に熱い視線を向けてくるも


「これお前らには味が濃いからダメだからな。

 お前らにはこの塩分は毒だからな。

 そんな目をしてもあげないからな」


 とダメを教える。

 躾の段階で教えつけたつもりだったが、この視線には俺の方が耐える事が出来なかった。


「仕方ないなぁ。

 今日は特別だぞ」


 ドックフードを三匹用のエサ皿に一掴みずつ入れて、少しだけ解した煮物を乗せ、人肌ほどに冷ました温度のお湯をふりかけ、お座りと待てをさせてきゅーん、きゅーんと甘える声を耳にしながら心の中で十秒、現実三秒の経過を経て良しと合図を出す。

 しっぽふりふりと嬉しそうに瞬く間に平らげてしまった三匹はそれから滅多に上がる事のない家の中は居心地悪いようで、自主的に玄関に移動して寝そべってしまった。

 ちょっと賄賂をあげたのに一人にしないでよと俺も寂しくなって玄関にバットとノートパソコンを片手に岳の再来を待つ。


 早く戻ってきてくれ。

 ダンジョンからアレが現れる前に早く、早く戻ってきてくれ。


 殺虫剤とガスバーナーも装備して奴らの出現に備えるも、やはり会いたくない奴ら。ダンジョンから現れる事が無い事をひたすら祈っていた。







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