少なからず反省はしているようです

 ダンジョンに潜ってすぐに駆け足で10階を目指す。

 だけどその前に5階を過ぎてダンジョン内で作業をしている人が減った7階あたりで足を止める。すぐに異変を察してか皆も足を止め、最後尾の工藤が離れないように監視していた雪も到着した所で俺は話を切り出した。


「結城さんに許可をもらって秋葉ダンジョンの19階まで遠征しようと思ってます」

「なるほど。そのためのダンジョン内の宿泊許可か」

 林さんも納得と言ってくれる。けど

「俺たちは工藤の事をどこまで信用していいのか分からない」

「信用なんてないけどね」

 沢田がそういうのはそれだけの恐怖を味わった証拠。

 手には工藤の首輪にかかる麻酔の針が仕込まれた首を起動するためのスイッチが握られている。

 人権的にこれはどうだろうかと考えるも、その必要はないから首に付けられているのだろう。

 そして肝心の工藤もこの状況を受け入れているようで

「せいぜい警戒しろ。俺はそれだけの事をしてきたんだからな」

 にやりとまったく反省してないような笑みを浮かべる。

「とりあえず工藤のチェックする」

 そういってステータスを開ければ嫌な顔をしてくれた。

「レベルは25から変わらずで称号も冒険者のままか」

 少し呆れて言えば

「あのへんな鳥が追いかけてくるから思ったより戦闘ができてないからな」

  その言葉からかなりの妨害を受けていることがわかる。とはいえ

「借金は返せよ」

「称号をいじるなよ」

 金の亡者の時のみに使える金の力で借金を増額させるのも悪くはないが

「こっちにもリスクが発生しそうな称号にするか」

 なんて言いながらも

「その鳥っていつ頃出現するんだ?」

 まじめに聞けば工藤は本当に嫌なのか顔を歪めて

「マジで出現のタイミングがわからん。

 ダンジョン潜って一時間以内に出たとこもあったし、ダンジョン内で一日以上過ぎてから出現したときもあった。

 とにかくいえるのはこちらからの攻撃は一切有効打はない」

 そんなまさかの情報。

 結城さんは何も言わなかったぞと思えば

「誰もが真実を素直に信じて伝えるわけがないだろう。特に俺の言葉なんてな」

なんて自虐的に笑いながらも

「それでも一切の攻撃は効かない。逃げるしかない相手だ」

 まじか……

 さすがの岳もそんな敵がいるとは思ってないのか信じられないという様に目を見開くも

「実際何度か切り捨てた。だけど切ったそばから傷口がふさがって必要に俺を捕まえようとして追いかけてくる。

 とりあえずダンジョンから出てこない事だけは分かったからあったら即逃げる。じゃないと俺を監視してるやつらが巻き添えになるからな」

 なんてどこか苦しそうに言うのは今まで快楽の為の犯罪で止まっていたところが目の前であっけなく殺されてしまうという景色を見てからの物だと判断すればこんなクソでもどこかに良心のかけらはあったらしい。

「とにかくあの鳥頭が出てくるまでに行けるところまで行って、出会ったらすぐ戻る、それは覚えておけ」

 真剣な顔で語る工藤にそれが嘘ではない事は分かった。

 とはいえ一度会ってみたい。そしてその言葉が本当かどうか検証したい。

 これは単なる相沢の好奇心で、だけど潜って一時間をとっくに過ぎていても出てこない当たりもう少し滞在をしなくてはいけないかという様に

「じゃあ、予定通り11階に向かって斎藤さんたちに会おう」

 工藤の情報がどこまで正しいかなんて何の保証もないが少なからず全く分からないという所から少しは嘘が混じられても情報を得た。

 嘘をつくにあたって真実を捻じ曲げるという範囲と思えば十分な情報だと思う。

 鳥頭といったけど鳥の姿をした魔物と聞いているのでそこは本当だろう。

 切っても切れない、ありえないと思うものの工藤みたいなリアリズムな奴ならそれも真実として受け止めないといけないだろう。

 そして

『誰もが真実を素直に信じて伝えるわけがないだろう。特に俺の言葉なんてな』

 その言葉。

 これこそ真実。

 状況が物語っている。

 たとえ何人かこの鳥頭に殺されたとして少なからず工藤に助けられた数はあるはずだ。それに対してあの食事風景。

 沢田に恐怖を植え付けた相手だというのに、どうしてもあの寂し気な光景が脳裏にこびりついて……


「つり合わないな」


 ぼそりとつぶやけばなにが?という様に雪さんが俺を見上げるもそんなことで工藤に対する警戒を解くわけにはいかないと首を横に振って


「とりあえず11階まで行きます。千賀さん、いいですか?」

 聞けば

「問題ない。ところでここまでの虫の状況はどう思う?」

 なぜか嬉しそうに口の端を吊り上げる千賀さんに俺はしかたがないなというように

「完璧です。バルサンの威力半端ないっすね」

「ああ、ほんと泣きたいぐらいに効いてるな」 

 悲しいぐらいこの威力を目の当たりにした三輪さんの嫌味に俺は言っている意味が分からないふりをして

「とりあえず蚊取り線香でダンジョン出入り口に結界を張りましょう。

 コスパもいいしね」

 なんて言えば

「即効性はキンチョールがいいらしいぞ」

「皆さんいろいろ試してますね!」

 むしろいろいろ試しすぎててびっくりだよ。結果教えてよと思い

「ところでそれ、スキルになりました?」

 聞けば微妙な顔をされて

「残念だがスキルとして発生されてないらしい」

 それはなぜかと考えながらも

「とりあえず11階行きましょう」

 考えてもわからないことは後回しにしてまた駆けだすのだった。

 



 

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