第4話スージィ今後の方針を考える
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「ですからね、現代人は皆ガチガチに、身体が凝り固まってるんですけど、先輩はその中でも、特段ガッチガチに固まってますからね」
「むぅ、そうなのか?」
「見てくださいよ、この足!こんな揺すってるのに、足首全く揺れないでしょ?固まったまんまです」
「皆、こんなもんじゃないの?」
「普通は多少なりとも動きますから」
「むむぅ……」
「凝り固まってるって言うのは、無意識に力を入れ続けてるって事ですから。どれだけ普段から無駄にエネルギーを消費しているか、まずは自覚するところから始めて下さい」
「そんな自覚は全く無い!」
「まあ不自然な姿勢で、無理な動きを続けて来た結果ですから。悪い癖は、自覚しないと直しようがありませんからね」
「不自然な姿勢とか、そんなにしてたかなぁ?普通に暮らしてきたつもりだけど……」
「あれです、現代人はもう子供の頃に固まり始めてますから。小学校に入るとやる『気を付け』『前へならえ』あれ最悪ですね。あれで力入れて立つ癖が付いてしまう」
「うえ!そうなの?誰でもやってたじゃん!」
「だから現代人皆ガチガチなんですよ。師匠も言ってました。『現代人でロクに立ってるヤツ、歩けてるヤツは殆ど居ない』って」
「うはぁ……達人目線で世間って、一体どう見えてんだよ?」
「だから先輩も、まずはこの足ほぐすトコから始めて行きましょう」
「くうぅ……、先が長そうだぁ……」
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……何だか、懐かしい夢を……、見たな……。
7年ほど前、職場で同じチームで一緒になった1年後輩。
何かと馬が合って、プロジェクトが終わった後もよくつるんでいた。
何でも、古武術の凄い先生の弟子をしているらしく、よく武術関連の話を教えて貰っていた。
色んな武術の先生の、公演とかも連れられたりして、仕事以外の時間も一緒に過ごす事が多かった。
明け方のまどろみの中、そんな事を思い出していた………。
結局その日は、その滝壺の河原で一晩過ごした。
昼過ぎからの時間は、一体何に使っていたのか?は、言わずもがな。
人知を超えた体力と回復力は、新たなる扉を開く鍵となったのかもしれない。
それでも見知らぬ場所で、初めての野宿を服も着ないで過すなど勧められる行為ではない。
明け方に、恥じ入ったように起きだしては水浴びをしていたが、テントに戻るとモゾモゾと蠢き、何度も水浴びをし直しているのだから、余り反省は無いのだろう。
野営には、持って居たアイテムが役に立った。
インベントリ内のクエストアイテムだ。
ゲーム時には、取り出すことが出来なかったクエストアイテムだったが、今は取り出して、更に使う事も出来る様だ。
昨晩は、そのクエアイテムにあった『一人用簡易テント』と『村人の毛布』、それに動物の毛皮を取出して利用した。
食事は持っていた回復アイテム(少量のHPを回復するなど)の『マムのサーモンシチュー』があったので、それを食べてみた……が。
『とても不味い』らしい。
とにかく味が薄くて、殆ど無味にしか感じないのだ。
他にも色々と食糧になりそうな回復アイテムはあるのだが、どれもこれも味がほとんど無い。
食べられない訳ではないのだが、自分から手を伸ばして食べたいと思うものではない。
食事は空腹感が限界になるまで我慢しよう……、と思うスージィだった。
装備品も、ギルド倉庫から低いレベルの物を取り出してみた。
ゲームに於いて、装備品は11段階のランク分けがされていた。
ゲームを始めたばかりで、職に就く前の初心者レベルが使う『ゼロランク』
最初の職に就く事で使えるようになる『D・Cランク』
その後、専門職へと進んでから装備できる『B・Aランク』
更にその先、専門特化型へと進化後に使える『S・SSランク』
そして、人を越え神域へと神化した者が使える『Gゼロ・G1・G2・G3ランク』
各ランクの装備には、それぞれ下位、上位も存在している。
スージィが初めに装備していたのは、Gゼロの上位、ネメシスデュアルソードと、オラクル重鎧だ。
だがそれも、ゲーム内ではハッキリ言って雑魚装備である。
それでもこの地では、かなりのオーバースペックの様だ。
今スージィは、Aランク上位の装備を身に着けていた。
漆黒のフルプレートアーマーに、白銀に輝く2刀、マントは無い。
剣は幅広で、刃の腹に細かい装飾がされているが武骨な物だ。
「これで取敢えず様子見かな?エンチャは無しでいってみよ。危なそうだったら装備戻せば良いしね!」
元々ギルド倉庫には、各ランク、各職用の装備を、サブキャラ育成用にとセットごとに保管していた。
今回は、高すぎず低すぎずの装備を見繕い、取り出したのだ。
「昨日散らばってたMobも、今日になって随分戻って来たな」
探索を使い、今の周りの状況を確認してみる。
すると、直ぐにスッと右上方に向け顔を上げた。
飛行しているMobが、右方向から左方向へ移動しているのが視認出来た。
「昨日は見なかった、飛行型のMobか……『グレイ・ワイバーン』ね。距離、推定90メートルってとこかな?」
ハァァァァッッ!!と気合と共に『気』を武器に籠める。
「やっぱり、遠距離への初撃はコレだよね!ゲームでの射程は、精々15メートルってとこだったけど、ココでは何か届きそうな気がすんだよな!」
そう言うと左腕を突出し、右手を顔の高さに合わせ腰を落とした。
二刀の剣先を標的に向け叫ぶ。
「狙い撃つぜっっ!!!」
《インパクト・ブラスター》
溜めた剣気を飛ばし、遠距離の敵を攻撃する。
近接アタッカー『デュエルバーバリアン』のスキルだ。
剣先から放たれ可視となった衝撃が、大気を切り裂き音速を超え、白い光を放ちながら標的に向かう。
標的と白い光が交差する。
一瞬後、それは爆ぜて散った。
一拍遅れて、何か重い物が弾ける様な、酷く鈍い破裂音が響いて来る。
「……………汚ねぇ花火だ」
言っちゃったよ。
「結論!この辺のMobは雑魚い!!」
結論づけた。
一筋二筋、頬に汗を垂らせながら。
「やはり、もうちょい強い相手探さないとダメだよなっ!」
と目の上に手を置いて、キョロキョロと遠方を見る様なポーズを取って見た。
「こんなん見ても樹木しか見えないしなぁ……。どっかにもっと高台でもなかろかね?いっそあそこまで行けば、ココよりずっと強いのは居そうなんだけどねー」
北側に聳える、白い壁の様な雪の山脈を眺めて独りごちた。
「標高どんくらいあんだろ?エベレストぐらいあんのかな?行った事無いからワカンナイけどね!8000メートルとかだっけ?エベレストって。あの上から世界を見下ろすってのも、いいかもねー」
左手を腰に当て、右手でポリポリとこめかみを掻きながら……。
「……いっそ跳んでみるか?」
と、何か思いついた様に呟いた。
「ジャンプポイントは無いけど、普通に跳び上がるくらいは出来ちゃう気がすんだよなー」
ゲーム内に於いて『神化』が済んだキャラクターは、決められたジャンプポイントから跳び上がれば、任意の場所へ飛んで渡れると云う移動手段を持っていた……のだが、ここにはジャンプポイントは無い。
「でも跳び上がるだけならできるよね?全力で飛ぶ、とかまだやってないし……。やれそうな事は取敢えず試してみる!ってのがゲームを楽しむコツだもんなっ!」
そう言うとグッと力を貯める様に屈み込んだ。
「どぉっっっせぃっっっっ!!!」
大地を蹴ったその瞬間、その地が大きく陥没した。
抉れる地面に根を引かれ、周りの樹木が倒れ込もうとするが、次に起きた衝撃波の広がりにより、それは勢いよく外側へ薙ぎ倒されて行った。
大地を蹴り、轟音を辺りへ響かせたその者は、既に遥か上空に居た。
「うおほっとっと……コレ、た、高くね?4~50メートルは昇ってる、よね?」
風が吹き結ぶ空の中、周りを見渡し自らの跳躍力に驚いている。
「2~3メートルも飛べればと思ってたけど……、こ、これは、60位行ったか?!タワーマンションとかからの眺めだよなコレ!登った事無いけどさっ!!!」
やがて跳躍の到達点に達し、地平の彼方をその目で確認出来た。
「うあああ!北の山脈以外地平線まで森が続いてるじゃん!この森、関東平野くらいあんじゃね?樹海っちうか、もうコレ樹
やがて、その身がユックリと下降をし始めた。
「お?をお?お!お落ちる!けど!けど!平気……だよね!?ゆ、夢だもんダイジブだよねっ!うおっほぉぉぉぉぉ!!!」
そのままズシリと大地に重い振動を響かせて、土煙を上げながら着地した。
「ビ、ビックリしたぁぁ!へ、平気だったぁぁ!さっすが夢っ!あぁぁビビッたぁぁ!夢でよかったぁぁぁぁ!!」
クレーターを作りながらも、綺麗に両脚で着地したが、その直後、ペタリと両手を突いて四つん這いになり、悲痛な叫びを上げてしまった。
「さて、思った以上に周りの状況が把握出来た訳だが、……どしましょうかね?」
だが直ぐに、スクッと気を取り直した様に立ち上がり、腰に手を当てながら周りを見渡してみた。
「南の先に人が居そうなのは、何となく感じた……。ゲームを進めるなら人里に降りて、情報収取ってのがセオリーだけど、でも南には明らかにココより強いのは居ないんだよなぁ……。だけどあの山の方には、何となく何か居る気がすんだよねぇ……、何となくだけど。いずれ人里を拠点にするのは必須として、どうルート取りをするか……だね」
指を折りながら考えてみた。
「一旦人里に降り、準備を整えてから山に向かい、探索の後人里へ戻る」
「このまま山へ向かい探索の後、人里を目指す」
「森を切り開きここに生活の場を作る。……無いワぁ」
腕を組んで山を見ながら思考する。
「山へ行くとして準備ってなんだ?森を抜け山に入る為の装備品や食料か?装備は持ち前の物で何とかなりそうだよな。食料も、……贅沢さえ言わなければ……ね。一旦森を出て、それから改めてこの樹深海を往復ってのも、考えると結構ウンザリかなぁ……?」
山脈に向けて顔を上げた。
「よし!決めた!」
北方向へその身を進める。
「まずは山を探索!それから南へ向かう」
人差し指を立て口元に当て、なにやら考えているようだ。
「取敢えず水くらいは持って行かないとな。水場に行って水汲んで……準備して。……色々……して、……それから……かな?……ねぇ?」
トトトッと、何故だか薄らと頬に赤味を帯びながら、小走りに水場へ向かって行った。
「ウン、まずはして……から……だね」
ナニかしてから出発するらしい。
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