第三章:デケンベルの寄宿校

1話夢見るままに待ちいたり

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「…………これは、これはどういう事?!わたしに何をさせたの?!何をさせたのよ?!!答えなさいバルデモンド!!」

「魔族の討伐です。貴女は王国に仇成す、魔族の一族を滅ぼされたのです」

「ふざけないで!!何が『魔族』よ?!この人たちは只の『人』よ!!ただ普通に暮らしていただけよ!男も女も!子供も老人も!ただ普通に生きていただけ!!」

「魔族は存在そのものが邪悪なのです、その汚れた存在は常に王国の脅威となり障害となります。どんな小さな相手であろうと、情けを賭けずに殲滅する必要があるのです」

「何が脅威よ?!殲滅よ?!相手は戦う力も持たない女や子供ばかりじゃない?!!こんな小さな村を焼く必要なんてどこにもない!!!」

「これで魔族の拠点を一つ潰せました。これは大きな戦果です」

「ふっっっざけるなぁっ!!こんなの……こんなもの!なんの抵抗も出来ない村人を殺した、只の大量殺人じゃないか!!」

「戦争とはかくも悍ましいものです。一刻も早く魔族を全て滅ぼし、我が民が奴らに蹂躙されぬ世界を作らね間なりません」

「こ!このっ!!」

「よせ!スズ!!そいつに幾ら言っても無駄だ!」

「でも、でもトール君!こんなの、こんなのって無い!!義父さん達の為になるからって……、魔王を倒せば帰れるかもって言うから……。でも!そんなの絶対ウソだ!!」

「ああ、分ってる、分かってるさ。あの元老院は信用しちゃ駄目だ」

「もうヤダ!ヤダよ!!帰りたい……帰ろうよトール君!帰りたいよ!!家に帰りたい!!」

「…………スズ」

「……お父さん、お母さん、お兄ちゃん。……会いたいよ!帰してよ……アタシをお兄ちゃんのトコに帰してよ!!」

「スズ!大丈夫だ、いつかきっと帰れる!それまでオレがずっといるから!ずっといるから!!」

「トール君……トール君!!」




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 久し振りに夢を見た。

 これは何時の記憶なのだろうか?


 いや、もしかしたら自分の記憶では無いのかもしれない。

 思えば、此処へ来る前の記憶は、時間ときが経つごとに朧になって来ている気がする。

 今では周りにいた人はおろか、嘗ての自分の顔すら、ろくに思い出す事が出来ないでいる。

 日常にあった事の記憶すら曖昧だ。


 そのくせ、コノ身体やスキルの事。ゲームや現代知識は綺麗に残っているのだから、おかしな話だ。

 でも、時々小さなエピソードを鮮明に思い出す事もある。


 正直、自分の記憶がどうなっているのか、全く分からない。


 普通なら、こんな風に自分が曖昧な記憶を有しているとなれば、それこそ自分の存在にすら不安を覚えるのかもしれないけれど、何故か自分はこの事に何の憂慮も感じていない。


 だから今見た夢も、自分の持っていた記憶なのか、他所から来たモノなのか良く分からないし、割とどうでもいいと客観的に感じていた。


 あの泣いていた茶髪の女の子は誰なのだろう?

 言い争っていた美丈夫は?

 女の子を優しく抱いていた男の子は?

 よく知っているような気もするし、初めて見た気もする。


 寝起きのまどろみの中、ボーっとそんな事を思っていたが、頭が覚醒するにつれ、寄せる波が砂で作った城を崩すように、夢の記憶は融けて流れ行く。



 寝起きの頭を起こそうとベッドから降り、水差しの水を洗面器に注ぎ、それで顔を洗う。そして用意されている清潔なタオルで、顔の水を拭き取れば、もうすっかり目は覚める。

 カーテンを開き、窓を開け放てば、朝の陽射しと共に、暖かな夏の風が部屋の中に吹きこぼれる。



 今日は3の紅月あかつき28日。

 昨日、わたし達は村の学校を卒業した。

 卒業までの間、必要な単位が取れていればそれ以上は学校へ行く必要も無く、自由に進学の為の準備に費やしても良いし、下級生の面倒を見る為に登校しても構わないと、最後はかなり自由な物だった。

 長期休暇に入る前日でもあった昨日は、卒業生はみんな登校して、デイジー先生から『デケンベルでも頑張って下さい』と激励のお言葉を頂いて、普通に下校をして終わりだった。

 そんな感じで、わたしは昨日、無事基礎教育を終えて、村での最後の夏を迎える事になったのだ。


 再来月には、デケンベルへの寄宿学校へと進学する事も決まっている。

 その出発準備も始めなくてはいけないと考えると、少し気が重い。

 アムカムから離れる事を考えると、気分がドンドン落ち込みそうになる……。

 でも……、だからこそ!今日からの夏季の長期のお休みを……、この最後の夏を、ビビやミアとは勿論、ヘレナやメアリーとも思いっきり楽しむのだ!


 わたしはドレッサーに座り、髪に丁寧にブラシをかけてから、お気に入りの空色のワンピースに袖を通して、姿見の前で一度クルリと回ってみる。

 フワリと舞うスカートの裾が、綺麗な弧を描いて舞う様に降りて行く。

 髪も、光を播きながら揺れて流れる。


 今では髪は、背中の肩甲骨の上にかかる位まで伸びていた。

 髪型はもうピックテールには出来ないけど、色んな髪型が楽しめる様になった。

 でも大抵は、ソニアママが楽しそうに三つ編みにしてくれ事が多いんだけどね。


 身長もあれから5センチ伸びた。

 手脚もスラリとして来て、我ながら女性らしく成長していると思う。

 当然、肝心なトコロもちゃんと育っておりますのよっ!!


 でも最近は、アーヴィンとライダーのハッガード兄弟が発動させるラッキースケベの被害に、誰よりも会っている気がするのが、ちょっと納得行っていない。

 こーいうお色気担当は、ミアの仕事だと思っていたのだけれど!違うのかしら?!なのかしら?!!


 その上、たまにそのご相伴(?)に預かり、目ん玉剥いて嬉しそうにコッチをガン見してくるアランとかが、ちょっとだけムカつく事案の一つだったりもしる。

 ……まあ、でもね、分かるんだけどね、思春期男子的にはそーなるのはねっ!

 だけどさ!ロンバートみたいにちょっと頬染めて視線を逸らす位が、多少は好感度が上がると思うのよ?!

 アランのガン見と、直後におかわりを求めるその魂の叫びは、いい加減度が過ぎてると思うのよさ?!

 今度カーラに纏めてタップリと叱って貰おう!


 しかし、そんな風に、男子なんてこんなモンだよな、とか分かってしまったりする自分も居たりする。

 男だった記憶を持つ身としては、こういう気持ちが分かっちゃうんだよねぇ……。

 でも、こうやって意識を向けなければ、かつて自分がそうだった事も思い出さない程、今ではこの身にすっかり馴染んでいるのだなぁ、とも改めて思ったりもする。


 まあ?そんな男子の気持ちが分かるからと言って、彼らを許すかどうかはまた別の問題なのだけどねっっ!!



 さて、これから最後の夏休み最初の一日の始まりだ。

 今日はハワードパパのお客様が、おいでになると仰っていた。

 早く支度を済ませ、お客様のお出迎えの準備をしなくては。

 また暑い一日になりそうだ。


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次回「王都からのお客様」

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