69話其々の夜 その3(ドルトン・バンジョーの場合)

「理事長、失礼致します」


 ぶ厚い扉を開き、アンナメリー・バイロスが学園理事長室へと足を踏み入れる。


「調査は順調だそうだね。君に来て貰って良かった。助かるよ」

「畏れ入ります」

「それで?急ぎの報告と聞いたけど?」

「はい、先程、当家及びエドガーラ家密偵より報告が上がって参りました」

「へぇ?」

「ほんの先程、我等がお嬢様が!敵戦力を壊滅に追いやりました!!」

「うん?何だって?」

私共わたくしどもの……わたくしの!スージィお嬢様が!デケンベルに於ける敵方戦力、凡そ220!を単騎で御成敗なさいました!!」

「いや、ちょっと待ってくれないかな?」

わたくし、一刻も早くこのお嬢様の偉業をお伝えしたくてお伝えしたくて」

「少し落ち着こうか?アンナメリー・バイロス」

「もう、取る物もとりあえず駆け付けた次第で御座います!」

「うんうん、君のスージィ嬢への忠誠心は良く分かったよ」

「当然で御座います!既に私のお嬢様への想いは、軽く天元を突破しておりますので」

「それは素晴らしい。でもちょっと情報を整理させてくれるかな?」

「はい。勿論で御座います」

「まず、君が敬愛してやまないスージィ・クラウド嬢」

「はい!」

「彼女は今現在この時間。22時も半ばを超えようとしている今の時間。寮を抜け出し外出している……と言う事で良いのかな?」

「…………さて、何のお話で御座いましょうか?」

「外出しているから偉業が成し遂げられたんだろ?」

「申し訳ございません。仰っている言葉の意味が良く分かりません」

「あ――、うん、そうか。これは平行線を辿る流れだね」

「重ねて申し訳ございません。やはりお話が分かり兼ねます」

「うん分かった。このままじゃ話は進まないんだね。では今回は不問にしよう」

「…………」

「スージィ・クラウド嬢は今夜は外出していな……、いや、そうじゃないな……。彼女の外出許可は出ている。遅い時間だが確かに出入りをした事も、門番は証言するだろう。それはこのボク、ミリアキャステルアイ寄宿学園の理事長であるドルトン・バンジョーが保証する。どうかな?」

「賢明なご判断かと存じます」

「それはよかった。これで話が進められるね。それで?彼女は何処の何を潰したって?」

「市民エリア5区、6区、8区、旧市街エリア12区、9区、7区、6区に存在していた大小の拠点です。何れにも隠し部屋、金庫がありましたが、全て破壊されたそうで御座います」

「拠点を7箇所?此方が把握していたより随分多いな……。それは君達アムカム勢が情報の提供を?」

「いえ、お嬢様独自の調査に依るものかと」

「ほんの1時間余りで?だとしたらとんでもないな」

「その通りで御座います!お嬢様は我々の常識など、遥かに凌駕した場所に居られるのです!!」

「うん、本当にその通りだね。それで?隠し部屋には金庫もあったって?」

「はい、お嬢様は金庫の扉だけ破壊しておいでですので、中身は手付かずで御座いました。現在、エドガーラ家の者が回収に、当バイロス家の者がその精査に当たっております」

「……それはつまり、我々が欲している物が?」

「恐らく十分に揃うかと」

「ありがとう。凄い情報だったよ。……しかし、どうやったらこの短時間でそこまで出来るんだろうね?」

「お嬢様は単に脚を進め、寄って来た害虫を払い除けていたに過ぎません」

「成程、噂に違わぬ規格外中の規格外と云う事だね」

「その通りで御座います」

「だが、おかげで予定をかなり繰り上げる事が出来そうだ」

「フィリップ様もその様にお考えです」

「君にもそちらの精査を優先してやって貰うとして、どの位でまとめられる見込みだい?」

「総力を挙げて、1週間を頂ければ……」

「うん、成程。タイミング的にノースミリア商会のマクガバン氏と連携すれば、手をもう1つ打てるかもしれないね」

「それも可能かと存じます」

「また、スージィ嬢の手をお借りする事になると思うけどね」

「お嬢様のご活躍は、我等としても望む所ですので」

「当面のアムカムのスタンスとしてはそうだったね。では、その時はお願いするよ」

「畏まりました」

「となると直近でのXデーは、来月の中旬前に当てられそうだね。でもそうなると、クラウド氏の娘さんには申し訳ない事になるか……」

「いえ、却ってその様なイベントから外されたと知れば、お嬢様は臍を曲げてしまう恐れも御座います」

「そうなの?それはそれで……、どうなんだろう?でも、可能であればお願いしようかな」

「ではそちらのタイムテーブルも整えて参ります」

「よろしく頼むよ。そうとなれば、ボーナに一報入れなくてはね」

「ハトで御座いますか」

「うん、彼も心待ちにしているだろうからね。急だけれど、半月もあれば此方へ来る準備も出来ると思うから」

「此方もその方向で進めて参ります」

「ありがとう。これでやっと目処が立つ。……彼らのかたきを討つ事が、彼女への贖罪になるとは思ってはいないけれど、それでもボク等は奴を許す気はない。……こんな物、ボク達も自己満足だとは分かっているんだよ?」

「思うが儘に行動されるが宜しいかと存じます。アムカム我等にとっても、同胞のかたきはやはりかたきで御座いますれば」

「既に筋から離れて100年以上経つ身としては、実に有難い言葉だよ。御頭首にはくれぐれも感謝に堪えないとお伝え頂けるかい」

「承知いたしました。それでは、集まり始めております情報の精査に入らせて頂きますので、これにて失礼いたします」

「うん、よろしく頼むよ。スージィ嬢にも宜しく伝えておくれ、感謝していると」

「はい、それとなく」

「うん、それとなく」

「それでは、失礼いたしました」


 アンナメリーが退出した後、ドルトン・バンジョーはハトを取り出し、親友へ宛てメッセージを吹き込んだ。

 

 語りながら、今は居ない友人夫妻を思い出し、少し眠気を感じさせる目元が優しく下がる。

 予定だけを入れるつもりだったが、いつの間にか優し気に思い出を語る彼の姿がそこにはあった。


――――――――――――――――――――

本年最後はアンナメリーとおっさん(お兄さん)のお話しでした!w

年明けましたら、また投下いたします。


皆さま、良いお年を!!

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