第6話アウローラの御伽噺
むかし、世界は大きな闇に覆われようとしていました。
世界中で戦は絶えず、魔王が現れ、多くの魔物も国中で暴れました。
大地が裂け、山が崩れ、森が失われる。
そんな世界を神様たちが嘆き、救い手たる神々の御使いを遣わせました。
神々の御使いは勇者と呼ばれ、大きな力を振るい、魔を倒して行きました。
勇者は更なる力を授かる為、神々の住まう場所へと赴きました。
そこで神の試練を受け聖剣を手に入れたのです。
聖剣の力は強大で、立ち向かう者を全て打ち倒して行きました。
それは七色の光を放ち一振りで山を斬り、群がる魔族をことごとく滅ぼしました。
その一撃は邪竜すら空の雲と共に切り捨てたのです。
勇者は魔王に言いました。これ以上暴虐を続けるなら、その魔族の大地ごとに聖剣で斬り滅ぼすと。
勇者は魔王と高原の大地で睨みあい、魔族の敗北を宣言させようとしました。
魔王は追い詰められていたのです。
魔王は最後の手段に訴えました。神々が封じていた邪神を解放しようとしていたのです。
もし邪神が解放されれば、世界の礎である五柱の女神ごと世界は滅んでしまいます。
勇者は激闘の末魔王を倒し、現れようとする邪神と対峙しました。
そして七柱の世界神の力も借り、聖剣の力を全て使い邪神を退ける為に戦いました。
戦いは7日と7晩続きました。
7回目の夜が明ける時、長い髪をなびかせ大地を踏みしめ勇者が人々の前に現れました。
そして夜空の様に黒く深い瞳を人々に巡らせ、宣言しました。
邪神を封印したと。
陽の登る朝日に照らされ、
『暁の勇者』と。
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村で見られる勇者関連の絵本の内容は、大体が皆こんな感じだ。
『暁の勇者』か、格好良いよねウン。
自分が呼ばれでもしたら、恥ずかしくってゴロゴロ転がって悶死してしまうよねウン。
お話としては、それ程変わった物では無いと思う。
勇者が魔王を退治して、平和を勝ち取ると言った、オーソドックスな?在り来たりな?お伽噺……かな?
言ってしまえば、昔ながらのラノベやweb小説にあっても可笑しくない筋だ。
こんなん話、どっかで読んだ事あったかもしれない……そんな在り来たりな物語。
でも、このお伽噺が完全な創作物って訳では無いのだが、どこまでが史実なのかは判断に迷う所ではある。
この魔族との戦いと言うのは恐らく、アウローラ史で勉強した辰星歴2203年に終結した大陸大戦の事だと思う。
ホントに今から200年以上も前の歴史だ。
絵本以外にも、ヘンリー先生からお借りした勇者研究の本でも、この年代は一致している。
『山を斬る一撃』なんて云うのは研究本では、大げさな表現か何かの比喩だろうと書かれていたけど……。自分がやった事を鑑みるに……
やっぱり、勇者は元高レベルプレイヤーって可能性は考えられるかも。
ま、これだけで断定は出来ないけどね。
聖剣と云うのも気になる。
勇者が元プレイヤーだったなら、ゲームアイテムの可能性もある。
直接見る事ができれば、アイテムかどうかの判断材料にもなるんだけど、何処にあるかなんて勿論分んないし……。
正直、勇者の名前も性別も、この段階だと確かな事は分らない。
研究本にも名前は出て来ない、姿が辛うじてうかがえるのが絵本の挿絵。
何冊かあった絵本に描かれてる勇者の髪は、長くて女の子っぽい。
でも確定は出来ないよねー。
髪の長い男性もいるし……。
挿絵自体が中性的に描かれている、髪の色も本によってまちまち……。
共通してるのは瞳が黒いってトコロ位?
もう、謎は深まるばかりで御座いますヨ?!ドドーン!!
今度先生に研究本をお返しする時、もう少し詳しく聞いてみよう。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「明日が試練なんだから!家でユックリと準備なり身体を休めるなりしてれば良いんじゃないの?!」
「ン、でも準備は、もう終わった、から」
わたしが本を閉じて一息つくと、隣で国文の教科書に目を通していたビビが声を掛けて来た。
「……『勇者伝え』?態々学校に来てまで、何を読んでるのかと思えば!」
ビビが本のタイトルを見て、改めて呆れた様に溜息を付いた。
「……アンタ、『勇者』に……興味があるの?」
ビビが眉根を寄せて伺う様に、ちょっと胡散臭げに聞いて来た。
あ、あれ?『勇者ヲタク』みたいに思われた?『勇者』に興味を持つって、そんな感じなのか?!
「あ……えっと、ホラ丁度王国史の、教科書で、200年前の事、出て来た、から……、何か、関連してる、事例とか、あるかな~、って?」
ちょ、ちょっと苦しかったかしら?かしら?
アルジャーノンまで、ビビの肩口で首を傾げ キキュッ? とか言ってる!
「『勇者』に憧れてる……とか?そうい話……じゃ無いの?」
あ、あっ、ビビが訝しそうな顔で聞いてくりゅ!もしかしてこの歳で『勇者』の話を追いかけるとかヲタなの?イタイの?
「ち、違っ!違う、よっ?!べ、別に勇者、とか憧れて無い、し!無い、しぃ?」
イタイ人だと思われるのは、今はチョト勘弁して貰わねば!
現状で、これ以上自分に黒歴史を積み上げると自ダメージが……!
主に、これ以上自分の心が乱れぬ為にっっ!!
……あ、でも心乱れても、違う乱れで均等を保てば……その方が、良い?
それがイイ……かな?あ!イヤイヤ!今はそう言う話じゃなくてっ!
ま……で、でも、今夜は取敢えず……ウン……しるけど……、沢山……しるけど。
「……そう?ま、興味が無いなら、それで……良いけど!」
うぉっと!ちょっと意識が違う方向にイキかけてたわよっ!危なひ!
取敢えず、『勇者ヲタ』疑惑は晴れたのか?
「でも!普通にその時代の事が知りたいだけなら……!」
ビビがわたしの後ろに目線を向けて「そっちで一緒に聞いてみてたら?」と言って来た。
「大戦前後なら、今ちょうどダーナが苦しんでるとこだしね!」
ビビに促されるまま、ほよよ?とばかりに後ろの席を覗くと、頭を抱えてるダーナと、その隣でメガネをクイッと上げながら、諭す様に言葉を紡ぐコリンの姿があった。
「だからね、ここは中世王国史の重要部分なんだから、知らないでは済ませられないでしょ?」
「そんなこと言ってもさー、やっぱり見た事無い人の名前なんて覚えられないよー!」
「今更何言ってるの!試験は来月なのよ?やっと魔力実技の目処が立ったのに、筆記で落ちたら話になら無いわよ?」
そこには『脳筋体力女子』と、ソレの面倒を見る『メガネいいんちょキャラ』の姿があった。
「大体にして、このバルバル将軍?」
「バルデモンテ将軍!!最初の二文字しか合って無いわよ!」
「もう、二文字も合ってるんだから正解で良いじゃん……」
「あのね……とにかく!バルデモンテ将軍の名前は書けるようになりなさい!これは間違いなく出るんだから!」
「だから名前がややこしいんだってば!もうバルバルバルで良いじゃん!」
「もうそれ名前じゃないから!何かの唸り声だから!」
なんだかダーナが来訪者しそうな事を言ってる。
コリンの苦労がヒシヒシと伝わって来たよ。
「いい?バルデモンテ将軍は大陸大戦に於いて活躍した将軍で、2203年の1の
「あぅぁー、数字も覚えるのは……まけてもらえない?」
「まけられません!この年に終戦協定が結ばれた後、各国との文化交流が活発になるわ。此処で一番活発に行われた交流は何?」
「食文化!食べ物の多様化!」
「正解。こう云う事はちゃんと覚えてるのよね……」
「任せてよ!!」
「胸張らないの!」
「むぅー、少しは褒めて伸ばそうよー」
「ハイハイ、年号憶えたらね!」
「ぅーん数字……数字ぃ……」
なんとか大魔王かっ!?
「ンー、せめて人物名だけでも何とかしたいわねー」
「覚えにくいのは勘弁してぇー」
「ダーナ我侭過ぎ!自分の為でしょ?!もう知らないからね!」
「あーん!ゴメンよコリン!怒らないでー!!」
「もう!そうやって直ぐ抱き付けば済むと思ってるでしょ?!」
「お願ーい!見捨てないでー!!」
「スリスリしないの!もー!しょうがないんだから……ちゃんと覚えてよ?」
「えへへーありがと!だからコリン好きよー」
ををぅ、なんというユリユリしぃ……、尊す……。
「もう!えーと……この後、食文化と同時に魔法技術交流も盛んに行われて、魔道具のパーソナル化が進み、それと並行して民主化運動が大きくなるんだけど、その中心的人物と云えば?」
「え?なんだっけ?誰?」
「カノエ男爵!知らない?有名でしょ?」
「あー!知ってる知ってる!カノエ男爵!あれだろ、『暁の勇者』!」
アレレェ?とーとつに名前バレ来ちゃいました?
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次回「スージィ・クラウド14歳の朝」
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