118話ボルトスナンへ…

「これを見て下さいましカレン!スタージョンそっくりですわ!」

「わあ、ホントだね!わ、これなんだろ?……ホネ?」

「えーー?スケルトン……なのかしら?」


 コーデリア嬢がソイツの頭から伸びている紐を指先で摘み、軽く揺すればホネのボディがカラカラ揺れる。

 おおぅ!それはまさしく土産屋定番の、ホネホネキーホルダーでわわっ?

 改めて周りを良く見れば、壁にはあちこち三角の布切れが貼り付けられてたり、更にその下の壁際には……ありゃ木剣かな?それが何本も突き立っていたりなんかする。


 どう見てもこれは観光地のお土産屋!

 そう!我々が今どこに居るのかといえば、文字通り温泉街のお土産屋さん!に居るワケなのだが……。


 何だろか、この居たたまれない様な台無し感は……。

 異世界だというのに温泉街でお土産屋…………。ここはHAK〇NEか?それともAT〇MI?!はたまたKUS〇TSU?

 残念!どことも違います!

 ここはボルトスナン郡にあるマグナムトルという観光地!!

 温泉が人気という事で、あちこちに湯けむりが上がる温泉街なのだ。


 でも、元々ここは200年ほど前までは、地熱を利用した農業が盛んな土地だったと言う話。

 もちろん温泉もあったけど、今ほど観光目的な施設は無かったそうな。

 それがいつの頃か、こんな温泉街が出来上がり観光名所になって行ったとか……。


 そこはかとなく、勇者一行の影響力的なモノを感じるのは気のせいであろうか?


 オセアノスにも、温泉街にお土産屋さんまであるしね。

 あれは間違いなくジュラ紀のせいb……ではなく!勇者の手によるものだった。


 ここも何となくそんな気配が漂って来ている。

 特にこのお土産屋とかさっ!

 ……ま、いいけどね。


 ンで、何故こんな観光地に居るのかと言えば、例の『野外授業』がこの先のキャンプ地で行われるからだ。


 本日早朝、学園を何台も連なる馬車で出発し、5時間程かけてここに到着したのだ。今はキャンプ地の麓の、観光地でもあるこのマグナムトル市で小休止中というワケ。

 休憩が終わり次第、皆はココからキャンプ地へと入る事になる。


 ま、わたしだけはこの後1日ばかり、別行動となるのだけどね……。


 そんなワケで、今日の生徒達はいつもの制服姿ではない。

 それぞれ思い思いに、アウトドア向きの装いを纏っていたりする。

 カレンなんかは、革のチョッキとそれに合わせたパンツスタイルだ。

 何気にコレって魔獣素材だよね?

 どうやら理事長様から、半ば強引に送られた物らしい。

 あの方も中々に過保護っぽい。


 わたし達アムカム勢は、当然の様にいつもの探索装備。

 何気に武装しているので、目にした生徒達の何人かには引かれていたかも?


 例のルゥリィ嬢なんかは、わたしの腰に下げた二刀を見て顔を引き攣らせていたし、ニヴン家の次男もアーヴィンのツーハンドソードを見て、少しばかりたじろいでいた様だ。

 まあ、武装した人間なんて普通はそう近くで見る機会はないだろうから、しょうがないのかな?


 そしてニヴン家と言えば……。


 あの後、ローレンス・ニヴンはグルースミルのニヴン家の家督を追われ、家から放逐されたそうだ。

 奴のやった事は国家反逆罪に問われ、グルースミルその物を潰しかねない物だったからね。

 ニヴン家の判断は、迅速かつ的確だったと理事長様は仰っていた。


 解体されかけたニヴン家は、療養中の夫人を中心にその弟君が補佐役を勤め纏め上げるそうだ。

 長男であったヴァン・ニヴンもローレンス同様、名を抹消され、ニヴン家には端から居ない物とされている。

 なので家督は、夫人の息子であるレイリー・ニヴンが、成人した後に正式に継ぐ事にさせたそうだ。


 いや、ゴタゴタとして大変だよね。元とは言え貴族の家柄って奴は!

 わたしは庶民なので、旧貴族の跡目争いみたいなドロドロした世界とは縁が無くて良かったよホント!


 あの事件の後、国元は大変な事になってはいるが、次男ことレイリーはチャラっぽさが抜けて幾分まともになった様に見える。事件当初は、結構顔を強張らせていたからね。

 この『野外授業』で、少しは気分を変えられると良いんじゃないだろうか。

 ルゥリィ嬢も、随分と大人しくなった。

 お父上である市長さんが、事件を受けて辞任したそうだから、コチラも色々大変なのだろう。


 しかし2人の態度の変化は、家の厄介事だけが理由と言うワケではないのだろう。


 この件に深く関わっていたのは、長男でもあった例のヴァンパイアだ。

 人の中に紛れたヴァンパイアというヤツは、周りの人間の心を惑わし、深く静かに人を支配するものだ。

 と、神官でもあるジェシカ姉さんは言っていた。


 もしかしたら、彼らも何かしらの影響下にあった可能性は大きい。

 今はカレンと同じようにその支配から抜け出し、本来の自分を取り戻そうとしているのかもしれない。







「これ、コーディに似合いそう」

「え?そ、そうでしょうか?」

「うん!ホラ!」


 カレンが、カウンターに飾られていた髪飾りのひとつを手に取り、コーディリア嬢の髪に飾り付けた。

 髪飾りのモチーフはライラックかな?四つの花弁の小さな花が纏まっているレリーフが刻まれている。

 そのレリーフは、白とか紫とか何色かのバリエーションがあるようだ。

 カレンが選んだのは白い花の髪飾りだ。


「うん!やっぱりコーディには白が似合うよ」

「……似合って……います?」

「凄く可愛いよ」

「……もう、カレンてっば……」


 てぇてえなオイ!

 何なの赤くなってるこの可愛い生き物?!コーディリア嬢?!

 ナニそのキリッとした男前女子!カレン?!

 てぇてぇったらありゃしないじゃない!!


 先週の事件に思いを馳せていたわたしを他所に、カレンとコーデリア嬢が2人の世界を創っておる!

 まあ、沈みがちになるカレンを、コーディリア嬢が支えてくれたおかげで、こうして明るさを取り戻してるとは思うんだけどね。

 思うんだけどさ!


「ゴフッ!」


 おっと、それを観ていたキャサリン嬢が吐血したぞ!

 想いは分かるよ。

 空を仰ぎ、口を押え、一筋の血と一緒に涙も零すキャサリン嬢に、そっとハンカチを手渡しておく。


 ビビがそのキャサリン嬢を胡乱な目で見ているな。

 最近ビビは、コーディリア嬢よりもこのキャサリン嬢を見る目が厳しくなっている気がする……。勘弁して差し上げてよ、ルシール嬢が平謝りしてるじゃないか。


「そう言えばこの花のモチーフ、沢山あるね。流行りなのかな?」


 ミアが、やはりカウンターにぶら下がっているイヤリングを摘まみながらそう言った。

 うん、わたしも思ってた。なんか街のあっちこっちでこの花が見受けられるんだよね。

 それこそ街灯や石畳にまで、この花が刻まれている。

 この街のイメージフラワーってとこなのかしらん?


「これは精霊シロベーンの花なのです」


 自分より身長の高いキャサリン嬢を、自らの身体に隠す様に前に出て来たルシール嬢が説明をしてくれた。

 なんでも、ボルトスナンの人間なら子供の頃から聞き親しんだお伽話なのだとか。



 怒り火を噴くローハン火山を鎮める為、その身を捧げた村娘と、その親友で森の小さな精霊シロベーンの物語。


 シロベーンは、父であるローハンの神が焼いてしまった森を癒す為、森で友達となった少女と二人で、焼けた大地に花を植え育てていた。

 だがある時、村人達がローハンの神の更なる逆鱗に触れる。

 それまで以上に火を噴くローハン火山に、人々は恐れ戦く事しか出来なかった。

 ここ迄大きな怒りを鎮める為には、汚れの無い生贄が必要だと村人たちは考えた。

 選ばれたのはその村娘。

 火口へ向かう娘と精霊シロベーンが共に進む。

 いつも一緒と誓い合った2人は、共に火口へと身を投げた。


 生贄の娘と共に、自らの娘でもある精霊シロベーンを焼いてしまった事に、ローハンの神は大いに嘆き悲しんだ。

 神は彼女達を悼む為、火山の噴火で焼け荒れ果てた山の麓を、2人の愛した花で埋め尽くし、森を再生させたという。


「以来、麓の村でその花は『再生』と『絆』のシンボルとなりました。今では友人同士、恋人同士が繋がりを確かめ合う為、誓い合う為に送り合う風習が根付いているのです」


 なるほど、ココは火山信仰のある土地なんだと分かるお話だ。荒ぶる火山に生贄を捧げると言うのは、元の世界でも聞いた事のある物だ。


 そう言えば、キャンプ場所の奥にある森が『シロベーンの森』とか言う名前だったっけ。


「カレンにはコレが似合うと思いますわ。ホラ、赤が好きだったでしょう?」

「……うん」

「似合っていますわよカレン」

「そう?ありがとうコーディ」


 今度はコーディリア嬢が、カレンに赤い髪飾りを付けてるよ。

 それを、とてもとても嬉しそうに受けるカレン。

 何この2人?わたしが思ってる以上にラブラブ?

 いっそもう付き合っちゃえよ!!


「白は『純真』さを表し、赤は『愛情』を意味しています!そ、それを互いに送り合う?!これは既にプロポーズと同義なのではっ?!!」


 ぶふぉぉ――――っっ!と吐血しながらぶっ倒れるキャサリン嬢。


「うわ!大丈夫なのコイツ?!」


 更にビビが目元を引き攣らせながら、倒れたキャサリン嬢を見下ろしてる。

 ルシール嬢が「スイマセンスイマセン」と繰り返しながら、そのキャサリン嬢を引き摺って、お土産屋さんの店内から退場して行った。

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