エピローグ スージィ・クラウドの届け物

 2の紅月あかつきも上旬を過ぎると、随分と気候も暖かくなる。

 後二ヶ月もすると、この世界に来て1年になるのかと思うと、ちょっと感慨深い。

 その頃には夏の訪れも感じ始めるのだろうか?


 この前コープタウンに来た時は、厚手のコートを着て来たけれど、今日は上着は必要のない暖かさだ。

 来週にはもう、コリンとダーナの入学試験もある。

 二人にはどうか頑張って挑んで貰いたいと思う。特にダーナにはね!ウン!

 時間が経つのがあっという間なのは、何処にいても同じなんだなと、改めて思う。


 ハワードパパの体調は、まだまだ当分は戻りそうにない。

 エーテル体が元の様に定着するのには、まだ暫くは時間が必要なのだと思う。

 それまでパパにはシッカリと休んで、療養をして頂かなくてはならない。


 あれだけソニアママを心配をかけさせたんだからね!

 お仕事などは当然禁止です!

 最低でもひと月は、ソニアママに付きっきりで面倒を見て頂いて下さいね!!


 そんなワケで、今わたしはハワードパパに代わってコープタウンまで来ている。

 本当は、ご自分の手でお届けしたかったそうだけど、今は動けないのだから仕方が無い。

 それでも、一刻も早くお渡ししたいと言う想いもあり、わたしが代りにお届けする事になったのだ。


 もう既にマーシュさんの工房へ、ひとつお届を済ませたところだ。

 お届けしたのは、ミスリル製のマジックワンドだ。大きさは手で持つタクト程の長さの物。

 学校で魔法の研究会で使うタイプよりも、少しだけ大きな物だ。

 彼方此方が傷付いて少し凹んだり、僅かに曲がっているようにも見える。


 受け取ったマーシュさんはそれを見て目を見開き。


「……そうか…………、これがあったのか……そうか…………」


 そう仰ると、机の上に置いた其れを、いつまでも眺め続けていた。


 このワンドは、昔マーシュさんが一人前になったばかりの頃、材料も自分で用意して、作り上げた物なのだそうだ。


 黙り込んでしまわれたマーシュさんを、マリーベルさんにお願いして、わたしは静かに工房を後にした。



 そう、あの日、黒岩で幾つかアイテムが回収出来ていた。

 わたしはそれを、必要な方達にお届けする事を頼まれたのだ。


 やはり、想いの篭ったアイテムは、想いを籠めた方にお返しするべきなのだろう……。



 アイテムと言えば!

 あの呪いのアイテムが、大変な事になっていたらしい。


 イルタさんが、あの呪物を神殿へ運び込む前、村に到着してオーガストさんに報告を上げていた僅かな間に、一緒に戻られた事務方のクラークさん……だったかな?その方が1人で持ち出して、村を出てしまったと言うのだ。

 なんでも、一刻も早く王都へ届ける事が、自分の義務だと仰っていたとか、なんとか……。

 あんな危ない物、素人が触っていい物では無いんだけどねぇ……。


 で、結局、コープタウンの先にある、マソムと云う街で……、マソムは嘗て、旧アムカム領に入る為の関所だった場所の宿場町で、今でもアムカム地方へ出入りする際の、税関の様な役割を担っている町だ。

 ……そこで、とても残念な形で発見されたそうだ。


 そこには、恐らく……、恐らくらしいんだけど、あのフーリエ使節団代表も居たらしい。

 何故、恐らくかと云うと、……その残骸しか見つかっていないからだ。


 ……まあ、アレが動き出したらそうなるよねぇ……。

 とても残念な結果だけど、不幸中の幸いで、その惨劇はフーリエ代表達が居た部屋だけで済んだらしい。

 その後、速やかに回収された呪物は、神殿庁が厳重に封印し、管理に当たっているという話だ。


 フーリエ代表やクラークさんにはお気の毒だけど、事態がそれ以上大きくならなくて本当に良かったよ。



 そうこうする内に、もう一つの目的地に辿り着いた。


 店先から中を伺うと、商品を整理されている姿が直ぐ確認出来た。

 するとアチラも直ぐわたしに気付き、笑顔を向けて来る。


「あら?クラウドのお嬢さん!いらっしゃいませ!今日はどうしたの?お1人?」

「はい。今日はお届け物に上がり、ました」

「あら?私に?なにかしら?」


 相変わらずの魅力的な笑顔を振りまき、腰まで届く綺麗なブルネットの髪を揺らして、『昼下がりアプレミディ』の店長セシリーさんがコチラへ歩み寄って来た。

 そう、お届けするお相手はセシリーさんだ。


 わたしが小さな包みを差し出すと、セシリーさんは少し戸惑った様な顔をされたが、直ぐに受け取ってくれた。

 そして、包んであった布を開き、顔を出したソレを見て目を見開いた。


「それは、セシリーさんがお持ちになるのが、一番良いと、ハワードパパが仰って、いました」


 布の中から出て来たのは、古びたバングルだ。


「…………そう、御頭首は……いえ、ハワードは戻って来たのね?コンラッドもジルベルトも?」


 少し声を震わせながら、セシリーさんが手元に視線を落したまま問いかけて来た。


「はい、皆さんご無事、です」


 セシリーさんもまた、嘗てハワードパパ達とパーティを組まれていたお1人だ。


「あいつ等……、私にアイツの姿は見せられない、とか言ってたらしいのよ?……バカみたいよね?」


 そのバングルは、その昔セシリーさんからロランさんに贈られた物だそうだ。

 アムカムで、女の人から男の人にバングルを渡すのはどう云う意味なのかは、アムカムの者なら誰でも知っている。

 セシリーさんは、手の中のバングルをキュッと握り締めると、そのまま上を向いてしまった


「ホント……、男って、ホントに皆んなバカ……」


 上を向いたまま、セシリーさんはそう呟いた。


「ありがとう、クラウドのお嬢さん……。届けてくれて……、帰してくれてありがとう…………」


 そう仰るセシリーさんに深く頭を下げ、わたしはそのまま静かにお店を後にした。


 陽の光は暖かく、風が優しい穏やかさを運び街を吹き抜ける。

 もう春本番だ。


――――――――――――――――――――

第二章はこれにて終演で御座います。

お楽しみ頂けましたでしょうか。


この後、幕間を数話はさみ、第三章のスタートとなります。

出来ましたら、この後もお付き合い頂けますと幸いに御座います。


付録に、今回『魔獣脅威値』の更新版と『神々の名前』を掲載して、第二章の終了とさせて頂きます。

――――――――――――――――――――――

(※は人間の戦闘値、*はアムカムに生息する獣)

 ◎魔獣脅威値(更新版)

・セーフゾーン~

0:※一般人 *ジャッカロープ

0.1:ボーンスパイダー ※ゴロツキ

0.2:ブラウンクロウラー

0.3:スタージラット クロウルトータス ※盗賊

0.4:テラードック ゾンビ ※衛士 *アムカムディア

0.5:ゴブリン ジャイアントビートル ピグミーグレムリン スケルトン

0.6:グリーンモス リトル・キラービー ※ノービス *アムカムボア

0.7:ソイルキャップ ビローコボルド ※盗賊の頭目

0.8:グリーン・フロッグ グレムリン *アムカムウルフ

0.9:リトルマンティラス


・浅層~

1:オーク スケトンウォーリア

2:マッドレミングス ジャイアントスパイダー ゾンビソルジャー

3:ローグレイル

4:シャドウドック ブルータルバット コボルド

5:

6:*アムカムグリズリー

7:レッドデスストーカー

8:アンデッドウォーリア

9:イビルワーラット

10:ブルーコボルド スパルトイ

11:イビルワーバット


・中層~

12:

13:イビルワーウルフ

14:

15:スパルトイソード

16:レッドポンゴ

17:

18:

19:グレイウルフ ※ミリー・バレット

20:ツーヘッドボア マンティラス ※機動騎士団員

21:シック・オーク(イロシオに生息するオーク)

27:オーガ

28:オーク・ゾンビ

30:ミツ・マタ ※騎士団班長クラス

31:ブレッドビートル

35:オークキング

36:オーガ・ゾンビ

38:シャドーグール

40:レッサーヴァンパイア ※ケティ・フォレスト

42:スナッフラビット


・深層~

44:フォレストジャイアント

45:イエロー・エイプ ※カイル・アーバイン

50:※大隊長

55:カドモスナイト

69:フォレストバジリスク

70:グレートスカル ※イルタ・リンドマン

76:エルダーヴァンパイア(オルベット配下)

85:ビックファングボア

110:エルダーヴァンパイア(ハルバート配下) スカルセンティピード

115:※アリア・ブロウク

120:オルベット・マッシュ アンガーリッチ

125:オールド・スケイル・ダイナソー

135:ダーク・スケイル・ダイナソー

150:ハルバート・イースト

175:※ライダー・ハッガード


・深淵の祭壇~

210:レイジングベア

220:クァルジャガー グレイワイバーン

230:グレートマンティラス グレートタランチュラ

250:シニアバンパイア・ブラックバット ブラック・ヘルハウンド

260:ヒュージクロウラー

300:ハイランドグレムリン

320:グレートモス

350:クイーンヒュドラ


・門番~

400:門番

580:ホワイトバジリスク

650:アイスリザード

700:フロストジャイアント

800:フロストドラゴン


1000:ポーラー・ワーム

1100:グレート・ホワイトハウンド

1400:ホワイトフェンリル


12000:コキュートスドラゴン


――――――――――――――――――――



◎神々の名前

  ―――――――――――――――――

  |属性|色|司る物|神名

  ―――――――――――――――――

  礎 陽--ホワイト--栄光(調和)・ソエル

  の 風--グリーン--美 ・アエル

七 五 火--レッド---勝利・イニル

柱 柱 水--ブルー---慈悲・アケル

の   地--イエロー--知恵・テリル

世 ――――――――――――――――

界   かね--スカーレット--理知・メムル

神   影--パープル--厳格・ウムル

――――――――――――――――――

    くう--青藍インディゴ--虚空・アテイルナ

    木--翡翠ジェイド--生命・ヤツルナ

    砂--琥珀アンバー--原子・メテルナ

    霧--青緑ターコイズ--意識・アリュクルナ

    星--黄金ゴールド--天蓋・ニウクルナ

――――――――――――――――――

※礎の五柱=創世の神

※語尾の(ル)は創世神を表す

※語尾に(ナ)が付くものは女神

※(ル・ナ)は創世神の娘神である事を示す


大地の女神イエルナ

冥界の女神キシュルナ

知恵の女神クバルナ

酒と薬の女神バティカルナ

戦の女神マフェルナ


春の女神エイアナ

夏の女神テロスナ

秋の女神ポローナ

冬の女神ケイモナ


赤い月の神イォトス

蒼い月の神ヤダァジ



お話の端々に登場する神様達です。

物語の中ではどんな神様がどれだけ居るのかとか、全然書いてません。

まあ、お話には直接関係ないので端折ってるわけで・・・w


一週間の曜日は七柱の世界神に対応しています。


ここに書いていない神様もおりますが、お話に絡まないと出てこないです^_^;

その内にお話のどこかで、神話を出す事があるとは思いますが、いつごろ出すかは未定・・・(大汗


――――――――――――――――――――

次回「登場人物紹介」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る