第42話スージィ・クラウドとアムカムの子供たち
学校 修練場前*17:27
「あは、あははは!死なせないって言っても難しいんじゃないかな?ねえ?どうするつもりさ?この子達、もう死んじゃいそうな子達ばっかだよ?ねえ?あはははははははははは!!」
ダグが笑い声を上げながら、何かの合図をする様に右手を振る。
スージィは、スッと一歩前へと足を踏み出した。
「ビビ、アーヴィン、ちょっとだけ、待って、直ぐ済ませる、ね」
スージィがそう言葉を掛けながら、身体を起こすアーヴィンに手を貸し、支えているベアトリスの横を通り抜けた。
アルジャーノンが「キキキュッ」とベアトリスの脇でそれを見送る。
「スー……?」
ベアトリスがスージィの背中を、目を見開いて見詰めていた。
「……どうした……ビビ?」
動きを止めたベアトリスに、アーヴィンが腕の激痛に耐えながら問いかけた。
「……あの子、……切れてる」
前線の三人に取り付いていた
その最後の一匹が、地に伏して動けずにいるヘレナの首筋に、何かの指示に従う様に躊躇無く牙を立てた。
「あぎっ!ぐぅう!!」
「あ!コ、コイツ!待っ……がっ!く、くそ!!」
首筋を襲う激痛に、ヘレナが堪らず呻きを漏らす。
ダーナがヘレナに牙を立てた
ヘレナの首筋をを咥えた
その時、
「なにそれ?人質の、つもり?」
スージィは小首を傾げ、冷たい眼差しを
そして、ユラリとその身が揺れた。
フワリ、とスージィのスカートが舞う。
次の瞬間、ヘレナを咥えていた
その顔の逆側にあるのは、剣の柄を握るスージィの左手だ。
スージィがスイッと左の腕を開くと、まるで水菓子でも切り取る様に、
頭部を半分失った残った
スージィはヘレナの身体を落ちぬ様、右手で優しく抱え受け、
「スージィ……お姉……様?」
「ヘレナ・・・頑張ったね、エライ、よ」
「ス、スージィ、お、姉……様、わたし、わたし!」
「大丈夫、今、治す、から」
スージィに向かっていた5頭の
だが直ぐに後方に目標を見つけ出し、改めてスージィに向かい走り出していた。
《チェーン・リジェネレーション》
神化回復職『グレートワイズマン』のスキル。
自分を中心に、味方全てを生命力のラインで結び、一気にHPを再生し、更に短い時間、生命力を回復し続ける。
スージィを中心に、金色に光り輝くラインが地を走り、その場にいる子供たち全員に伸びて行く。
「お、お姉様……?こ、これ?!」
ヘレナの身体の芯が暖かい物で満たされ、見る見る受けた傷が治り体力が回復して行った。
ヘレナは自らの身体を確かめ、驚愕の声を上げた。
他の子供達も皆、回復し立ち上がっていく。
ダーナが、ロンバートが、カールが、アーヴィンが、コリンが、ミアが、メアリーが。
アラン、ベルナップ、ステファンも、練場跡の子供達も皆次々と。
只、血を奪われたフィオリーナとウィリアムだけは、まだ動きださない。
「うお!何だコレ!腕が動く?!」
「あ、アーヴィン?……凄い」
「あ、あれ?痛くない?……あれ?」
「ミア?!信じられん……。良かった……よかった、ミア……。あ!え……えー……と、ミ、ミア?こ、これ……これを、羽織っておいた方が良い……かな」
ミアは、黒槍で脇腹を抉られた跡が綺麗に戻り、裂けた着衣の脇から肌が露出し、豊かな胸の房が、裂けた衣服の隙間から零れ落ちかけていた。
それを隠す様にと頬を赤らめながら、ウィリーが自分の着けていたケープを外し、ミアの肩に掛け置いた。
「あ!脚が!!すっごい!めっちゃ動ける!」
「むう!力が戻って来た様だ!」
ダーナがその場で飛び跳ね、槍を回し
ロンバートのタワーシールドを持つ手にも力が戻る。
「立てる?歩ける!凄いわスー……みんな!みんなは大丈夫!?」
コリンの呼びかけに、修練場の跡で治療を受けていたクラークとアシュトンの双子を始め、チャールズが、トマスが、レイラが、ヴァージルが声を上げて無事を伝えて来た。
修練場の外でも、カールが身体の傷があった場所を確かめながら立ち上がり、メアリーが出血の止まった額の血を拭い、傷が消えている事に驚いていた。
更に、石壁の向こう側でも動き出す者たちが居た。
「どうなったんだ?……え?なっ?!フィオリーナ?!……うぉ!?ウィルもいる!?おい!ベルナップ!動けるか?」
「ん!問題無い。アランこそ動けるのか?」
「全く問題なし!おい!ステファン!お前も動けんだろ?!」
「全然平気!!」
「おし!何だかワカンネーけど、敵が立ちんぼになってるっぽい!オレとベルナップでウィル引っ張って行くから、ステファン!お前はフィオリーナを連れてけ!とっととココを離脱するぞ!」
ベルナップとステファンが頷き、未だに目を開けない二人を抱えその場から引き摺り出す。
「これは、ついで」
そう言うとスージィは、腰に吊るした二本の剣を抜き、そのまま両手を頭上へと上げた。
剣を頭上で垂らす様に持ち、目を伏せ身体をユラリユラリと、一定のリズムで揺らす様に動かす。
そしてその口元から漏れる物は……。
「歌?……スージィ……お姉様……?………!!」
ヘレナがそのスージィの姿に驚き、目を見開いていると、戻って来た
ヘレナが気付いた時は既に、その牙がスージィへ届く寸前だった。
スージィの身体に牙が食込む!
そう見えた瞬間、
5匹の
何が起きたのか
それでも再び
しかしやはりスージィには掠る事すら出来ない。
スージィはそんな様子を気にする風も無く、ユラリユラリと歌を口ずさみ、身体を躍らせる。
やがて、子供達の耳に歌とは違う音が聞こえ始めた。
「あれ?これギター?」
「ドラムが鳴ってる」
「オルガンの音?」
「これリュートだよね?」
「ハープも聞こえるよ」
「精霊の……楽団?」
ヘレナが思わず口にして、改めてスージィに目を向けた。
地平に沈む夕日に照らされ、落陽の光を受け、燃える様な赤い髪が煌めきながらに舞っていた。
白銀の剣が、黄金の光を切り分けて行く。
その光の中でスージィが、伸びやかに緩やかに揺れ舞い踊る。
夕陽に照らされるその表情は、とても優しく穏やかで、間近で見るヘレナには、神々しくさえ思わせていた。
ヘレナの胸の奥が、熱い物で満たされて行く。
それと同時に、自らの身体に力が溢れて来るのが解る。
ヘレナの感覚が、未だかつて無い程研ぎ澄まされていた。
その時、何度目かの突撃を掛けようと、
ヘレナは二本のダガーを逆手に持ち、瞬時に
「お姉様の邪魔など……!!このっ不埒もの!!!」
ヘレナが口を開いた
ヘレナのダガーは真っ直ぐに、
ヘレナはそのまま身体を低く屈め、次に飛び込んで来た
ダガーは
「なっ!?え?えぇっ?!」
ヘレナは自分が取った咄嗟の動きと、その攻撃威力に驚きが隠せない。
そこへもう一つ、鋭く剣閃が閃いた。
アーヴィンのロングソードだ。
アーヴィンは、自らの傷が回復したのを確認したのと同時にロングソードを拾い上げ、スージィに群がる
下から掬い上げる様に斬り上げた一閃は、
上段に上がったロングソードをそのまま振り降ろし、二頭目の顔面に叩き込む。
「なんだこりゃ?何でこんな簡単に?」
アーヴィンも、自分の振るった力に驚愕の声を上げる。
突如後ろから、ゴッ!という音が響く。
と共に、最後の一頭の顔に大穴があいた。
後方からカールが放った『ファイア・ブレット』だ。
「な!なんだぁ?!この威力?!!」
カールも同様に驚き声を上げていた。
メアリーが滑空して来たブルータルバットをスルリと躱し、その後ろから矢を射かけた。
先程までは皮膚に刺さるのがやっとだった矢が、貫く勢いで深々と突き刺さる。
メアリーはその自らの命中精度の高さと、弓の威力に目を見張っていた。
「ケルム・エイゴ・スペロ・エウデ。アムカムに連なるマティスンの娘ミア・マティスンが求め、水の管理者たるニュンペーに訴える。その水の流れの御力を以って我らの敵を滅し賜え!《ウォーター・カッター》」
ミアが祝詞を唱え、両手の人差し指を上空のブルータルバットへ向け突き出した。
両の指先から極微の細さの水流が、上空へ向け一直線に伸びて行く。
ミアは左右の指先を、上下に開く様にスッと動かすと、水流の線上に居たブルータルバットは縦に断ち切られ、そのまま枯葉が落ちる様に地上へ落ちた。
「うわうわ!なにこれ?こんな遠くまで?あんなおっきい物まで?うわ」
ミアが目を丸くし、隣で見ていたウィリーも言葉を失っていた。
ダーナが槍を回し、素早く
宙に浮き、足場を無くした
全ての槍先は、次々と相手の身体に深々と突き刺さる。
一息の間に急所への止めを突いた槍を引き抜くと、ダーナはそのまま次の
ロンバートは、両手で扱っていたタワーシールドを左手一本で持ち、右手には腰に携えていたバトルアックスを握り直した。
左の盾で数頭の
「なんだ!?何だコイツら!なんでイキナリこんな?!!」
「アイツよ!アイツが何かやったのよ!!」
「クッソ!オルベット様が見てるのに!!あぁ?!お前達!誰が動いて良いと言った?!!!」
動けぬウィルとフィオリーナを抱え引き摺るアラン達を見つけ、ダグが黒槍を伸ばした。
5人の動きに気が付き、様子を伺っていたベアトリスが、ダグが黒槍を伸ばした事に気が付いた。
「いけない!《ストーン・ウォール》あの子たちを護って!!」
ベアトリスの石壁が、5人を護る様にそそり立った。
それは、今までの石壁が貧相な衝立にしか感じられぬ程の厚みと、石英の様な輝きと硬度を持っていた。
黒槍は、その壁に容易く弾かれ霧散した。
ベアトリスもその石壁の強度に「うっそぉ?!」と目を見開き固まった。
「うわわわ!やっべ!急げベルナップ!ステファン!」
突然真後ろに出現した石壁に驚き、アランがベルナップとステファンに声を掛け、二人を急かした。
おう! と二人が頷き合い、ダーナが開いた戦線の隙間に5人で転がり込んで行く。
「もひとつ、おまけ、ね」
5人が防衛戦のこちら側へ来た事を確認したスージィがそう言うと、彼女を中心に、光の波紋が広がった。
《ヴァイタリティ・リリース》
神化回復職『グレートワイズマン』の回復スキル。
自分の周りの味方のHP・MPを全回復させる。これも短時間、持続的に体力を回復する効果が続く。
「え?え?魔力が……戻って……る?いえ!それ以上??」
コリンが、治癒でほぼ使い切りかけていた魔力が全快しているのみならず、その魔力量が、大幅に増えている事に驚きの声を上げた。
それはコリンだけでは無い、ベアトリスも、ウィリーも、ミアもカールも、だがそれは魔法職だけでは無い。
装備に魔力を使っていた前衛……、ウィリアムもだ。
「む……此処は?なぜ?……俺は?」
ウィリアムが意識を取り戻し、身体に異常が無い事に驚く。
それどころか、十分な休養を取った後の様な、いや、それ以上の気力と体力の充実感を感じ、戸惑いを隠せないでいた。
「ウィル!ウィル!!気が付いたの?!良かった!ウィル!」
「コリン!?走って?立てるのか?!傷は?!!」
立ち上がったウィリアムに気付き、コリンが駆け寄って来た。
コリンの走っている姿にウィリアムは驚き声を上げるが、飛び込んで来たコリンをウィリアムは嬉しそうに受け止め抱きしめた。
「どうなってんの?なんで彼まで起ち上がれるのよ?!」
「ちくしょう……!でも残念!もう陽は地平の下に姿を隠した。時間切れだ!!遊びの時間は終りだよ!!!!」
ダグが右手を勢いよく振り広げると、その影が一気に広がった。
その中から5体、6体と、鰐の様な口を持つ人モドキの姿が這い出て来た。
更には、血の気を持たぬ真っ白な肌の人影も。
赤い目を光らせ、我先にと溢れる様に影から這い出てくる。
そして空からはブルータルバットが、防風林の向こうからシャドードックが、増援の様に押し寄せて来た。
「こ、こんな数?!だめ!退路が!!」
コリンが悲鳴に似た声を上げた。
「スー!此処に結界が張られているの!アタシ達ここから出られないのよ!」
ベアトリスが手短に状況をスージィに伝えた。
「・・・結界?」
スージィが胡乱な目で上空を見上げ、そのまま右手の剣を、天空を切り裂く様に上方へ向け、勢いよく振り抜いた。
直後、ピシリッ!と上空の空間に光の亀裂が入る。
そのままガラスが砕ける様な音を響かせ、結界が飛び散り、空間に溶ける様に消滅した。
その場に居た全ての者が、敵も味方も空を見上げ、目を見開き固まってしまった。
「な、ななななんなんだ!?アイツ!!!今何したんだよアイツは?!!!」
「知らない!ワカンナイわよ!!ナニよ一体ぃ?!!!」
直ぐ様、その場でスージィが地を蹴り跳躍する。
破壊された校舎の方向へ。
弧を描く様に大きく高く。
「スージィが跳んだ?!!」
「!ちくしょう!何でだ?!!何で見え無ぇ?!!!」
アーヴィンの驚きの声が上がった。
その後のアランの不穏な叫びが聞こえたが、ボコッボコボコ!とタコ殴られる音が聞こえたので、スージィはスルーしてやる事にした。
スージィは跳びながら縦方向に身体を回し、上空で頭を下に向けた状態で地上をザッと確認する。
(ヴァンパイア……エルダーヴァンパイア2体。その影からシャドーグール?其々の影から7体ずつかな?んで白いのがレッサーヴァンパイア?雑魚っポイのがワラワラと沸いて来てるなー。範囲使いたいけど……皆に届いたら危な過ぎだものねー。しょうがないから1体ずつプチプチ潰そか……。犬と蝙蝠もワラワラ集まって来てるけど、今のあの子達なら雑魚扱い出来るから、あれは皆に任せよ♪)
一瞬でそれだけ思考すると再び二刀を抜き、剣先を地上へと向け伸ばす。そして目標の『白い
間断の無い破裂音が大気を震えさせ、レッサーヴァンパイアが次々と弾け飛んで行く。
2体のヴァンパイアには、何が起きているのか理解する間も無い。
気が付けば一瞬で、飼っていた筈の全ての下僕が消滅していた。
「な、な?なに?なんだ?なんだよ!これ?!!」
ダグが叫ぶが、校舎の手前に着地したスージィは、地上に足が付くと同時に右手の剣を勢い良く振り切った。
その剣圧から来る衝撃波が、シャドーグールをまとめて薙ぎ払う。
グロゴォォォォ………!!と断末の唸りを発し、全てのシャドーグールが霧散し消滅した。
「何だよ!?一体何なんだよ?!!何があったんだよコレ?!!何なんだよお前は?!!」
ダグが混乱した様に大声を上げ、今まで居たはずの眷属を探し、しきりに辺りを見回し地団駄を踏みしめた。
スージィは小首を傾げ、不愉快そうに眉根を寄せながら……。
「お前、さっきから、うっさい」
いつの間にかダグの目の前に立ち、右手の剣を水平に振り斬り払った。
「なぁ?!ぶゅぼ!?」
ダグと呼ばれていたヴァンパイアは、その場で爆ぜ散った。
白い塩の粒が飛び散る様に、その一瞬で大気に溶け消え、その存在を完全に消滅させた。
「ダグ?!な!なんだ?!オマエ!ナニを?!!!」
イライザが直ぐ様その場から飛び退り、両手を鉤爪に変質させ叫ぶが……。
「だから、うっさいって」
いつの間にか、その後ろに立っていたスージィが、今度は左手の剣を斬り上げ振り払う。
「ぼぁっ!?」
そのままイライザと呼ばれたバンパイアも、白く飛び散り掻き消えた。
「
そう言って冷ややかな視線で虚空を睨み、スージィは二振りの剣を腰の鞘へと納めた。
スージィが皆の所へ戻ると、クラーク、アシュトンの双子がフィオリーナを抱え、心配そうに何度フィオリーナに向けも声を掛けていた。
「フィオリーナだけ意識が戻らないの」
コリンが癒しの魔力をフィオリーナに流し込みながら、心配そうにスージィに伝えた。
スージィは、フィオリーナがヴァンパイアに血を奪われたのだと聞かされた。
今日、ヘンリーに教わった話では、ヴァンパイアの犠牲者は、アストラル体とマナスの一部を奪われてしまう。
魂の一部を奪ったヴァンパイアを滅ぼすまでは、囚われた魂は解放される事は無い……と。
アストラル体の消耗は、マナチャージに依るMPの回復で戻って居る筈だ。
現に、純粋に血液だけを奪われたウィリアムは、MP枯渇で意識を失っていた為、HPとMP全快の《ヴァイタリティ・リリース》で復活している。
マナスも、奪った当のヴァンパイアは滅ぼした。
魂は解放されている筈。
意識が戻らないのは、その繋がりが戻っていないと云う事?
ならば、肉体と魂の繋がりを回復すれば蘇生出来ると云う事だろうか?
スージィはそう思考した。
【蘇生】
スージィは、この世界で死者を甦らせる事が出来るとは信じてはいない。
ゲーム内で、戦闘不能状態から復帰させる《リザレクション》と云う蘇生魔法は存在しているし、自分も使える。
だが、ゲーム内での戦闘不能と、この世界での死亡が同次元で語れる事とは到底思えない。
ゲーム内での戦闘不能が、この世界での気絶状態だったら?
意識を取り戻せば、もう一度戦闘に復帰できる。
そう、今まさにウィルがそうだったように!
もし《リザレクション》と云う魔法がそれだけの物だったら?
もし誰かが不慮の死を迎えても、自分にはソレを甦らせる事など出来ない!
そう考えるのが妥当なのではないのか?
スージィはこれまで、とてもではないが《リザレクション》の検証しようとは考えられなかった。
誰かが死ぬのを待つとか、死なせてから使うとか、もし上手く行かなかったらどうするのだ?
考えただけでゾッとする。
だから、ソニアが命を落とすかもしれないと感じた時に、あれ程慌てたのだ。
人を生き返らせるなど、そんな保証はどこにも無いし、人は死んだら生き返らない。
それは当たり前の事なのだから。
だがもし、この《リザレクション》が、魂の繋がりを回復することが出来る魔法なのであれば、これを使えばフィオリーナは、直ぐにで目を覚ます事が出来るかもしれない。
肉体とマナスとの繋がりは薄く、もしくは細く成ってはいても切れては居ない筈。
嘗て、ヘンリー先生がラヴィさんを救えなかったのは、そのマナスが捕えられたままだったからだ。
今、フィオリーナにその危惧は無い。
死者を甦らせる事が出来るかどうかは解らない。
だがフィオリーナは今はまだ生きている!
ならば試そう、試してみよう!
スージィはフィオリーナの隣に膝を付き、片手を翳し魔法を発動させた。
《リザレクション》
スージィの掌から光が溢れる。
柱の様に立ち昇る温かみのある光は、フィオリーナの全身を包んで行った。
やがてユックリとその光が、フィオリーナの中に溶ける様に消えて行く。
ふぅ、と息を吐き出しスージィが立ち上がった。
目を閉じていたフィオリーナの眼元が、ピクピクと動き、ユックリと瞼を上げた。
「「フィオリーナ!!」」
クラークとアシュトンが、揃ってフィオリーナに声を掛けた。
フィオリーナは驚いた様に目を見開いた。
「え?あれ?なんで?どうして?」
「よかった!よかったわフィオリーナ!よかった……!!」
コリンが、フィオリーナを双子から取り上げ抱きしめた。
フィオリーナは「え?あれ?」と戸惑うばかりだ。
そんな皆の姿を確かめ、深い安堵の息を吐いた後、スージィは北の方向に鋭い視線を向けた。
「どうしたの?!スー!」
ベアトリスが、そんなスージィの視線に気が付き尋ねる。
「まだここに、20や30、どんどん向かって、来てる」
「え?!」
その言葉にベアトリスだけでなく、その場に居た子供達がギョッとする。
ベアトリスが展開した新しい石壁は強力で、
それでも飛び越えて来るものは居る。
それを、ダーナやロンバートが今も対処を行っている。
空から迫る蝙蝠には、メアリーの弓と、魔法組の二人が射落としていた。
「でも、今の皆なら、あんなの雑魚だから、大丈夫。エンチャも、後1時間は、このままだから、問題ない、それに・・・」
スージィが右手を頭上に伸ばし、パチリと指先を弾いて鳴らした。
「来い!世界樹ぅぅーーーっっ!!」
上空から巨大な種の様な物体が、急速に降下し地面に突き刺さった。
それは直ぐ様、外皮が捲れ上がる様に開き、中から現れた一本の幹がそのまま枝を伸ばし、忽ち一本の若木となった。
《サモン・ユグドラシル》
グレートワイズマンのスキル。
世界樹の若木を召喚して、その木蔭に居る者に生命の息吹を与える。
「この子の、根元に居れば、怪我しても、すぐ治るし、魔力も回復する、から」
「えぇ?!なに?これなに?何コレ?スーちゃん!」
ミアが目を丸くして、スージィに勢いよく訪ねて来た。
「トネリコの若木を、召喚したの、この子も、1時間くらいは、居るから、平気、よ?」
スージィが事も無げに答えた。
「しょ、召喚術をこんな一瞬で?!!」とベアトリスが白目を剥いて、口をアングリと開き固まった。
「だから、皆、もうちょっとだけ、頑張って」
「アンタ!何かする気?!」
気を取り直したベアトリスが、スージィに尋ねる。
「うん、キリが無いから、元を断って、来る」
スージィが顎を引き、此処からは見えない森の奥を睨みつけた。
「ウィル、ロンバート、ベルナップ、皆を、守って」
「ダーナ、アーヴィン、アラン、ヘレナ、奴らを、倒して」
「ミア、カール、メアリー、敵を、撃って」
「ウィリー、コリン、ビビ、皆を、お願い」
スージィが一人一人に声を掛けて行く。
「スー姉!オレだって出来るよ!戦える!」
「うん、ステファンなら、出来るよ。ヘレナと、一緒に、ね?」
「お任せくださいお姉様!私がシッカリ守って見せます!」
「うん、ヘレナ、お願い、ね?」
スージィがステファンの頭を撫で、ヘレナにニコリと微笑んだ。
「オレが守ってやるんだからな!」と息を巻くステファンに「ふふん!!」とヘレナが得意げに、鼻から息を飛ばしていた。
「オレ達だって戦えるぞ!」とクラークとアシュトンも息を巻き始めた。
それを「なら、お前たちはコッチだ」とロンバートが双子を引き摺って行く。
「スーちゃん!!」
「むぷぎゅ!」
唐突にミアに思い切り抱きしめられた。
「ありがと、ありがとね!スーちゃん!」
「ううん、ミア、痛かったで、しょ?ごめんね、来るの、遅く、なって」
「平気よ!平気!スーちゃんこそ……一人で大丈夫なの?」
「うん、大丈夫。だから、ミア、ココで、皆と待って、て?」
スージィがミアの腰に手を置き、目を見詰めながら優しく語りかけた。
「スー、ありがとう。本当に一人で……行けるの?」
「うん、コリン、大丈夫。だから、コリンは皆を、お願、い」
「ならアンタに任せるわ!すぐ終わるんでしょ?!」
「ん!任せて、ビビ。30分、かからないで、終わらせるから、ね?」
「頼んだよスー!アンタに任せた!!」
「うん!ダーナ!任され、た!!」
右の拳を上げて叫ぶダーナに、スージィも右の拳を上げて応えた。
「じゃ、行って、来るね、みんな。直ぐ戻る、から、ね?」
「行ってきなさいスー!そして!とっととやっつけちゃえ!!」
ベアトリスの言葉に、うん!と満面の笑みで頷くスージィ。
そのまま地を蹴り北の森へと向かって走り出した。
そこへ、目前の石壁の上から影犬が飛び出して来た。
スージィはそれを、すれ違い様乱斬りにして、そのまま森へと速度を上げて走り去って行く。
それを見ていた子供達が、感嘆の声を上げた。
「さあ!皆!スーが戻った時に、まだコイツら片付いて無かったら!あの子に顔向けできないわよ!」
ベアトリスが全員に激を飛ばした。
おおう!!と大地を揺らせと子供達の鬨の声が、辺りに響き渡って行く。
――――――――――――――――――――
タイムテーブル
15:30 1回目の警鐘(5の鐘)
15:40 2回目の警鐘(4-2の鐘)
15:45 3回目の警鐘(特別警報(3-2の鐘))
15:50 4回目の警鐘(特別警報(2の鐘))
16:10 コリン作戦を立てる
16:20 弐ノ詰所の防衛柵が抜かれる
16:30 学校の鐘が鳴らされる
16:35 ハワードの挑発
16:40 イライザの登場
16:45 スージィ、ヘンリーの懺悔を聞く
16:50 アルジャーノン出発
16:55 結界装置の起動
17:10 スージィ、ヘンリーと別れる
17:15 スージィ神殿へ到着
17:18 スージィ、クラウド邸へ到着
17:23 スージィ、アルジャーノンを治療
17:25 ウィルの特攻
17:27 スージィ召喚
17:35 日の入り
こんな感じでしょうか・・・。
最後の方は、もう分刻みw
次回「スージィ・クラウド名乗りを上げる」
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